2021年
監督:ジェイソン・ライトマン
出演:マッケナ・グレイス、フィン・ウルフハード、キャリー・クーン、ポール・ラッド、ローガン・キム、セレステ・オコナー
公式サイト:https://bd-dvd.sonypictures.jp/ghostbustersafterlife/
不熱心な観客をも呑み込むノスタルジー
家賃滞納でアパートを追い出されたシングルマザーのキャリーは、息子のトレヴァーと娘のフィービーを連れて、オクラホマ州サマーヴィルに引っ越してくる。そこには絶縁状態のまま急死したキャリーの父が遺した農場があり、周辺地域では原因不明の群発地震が30年間も続いていた。やがて、閉鎖された鉱山を中心として、町のあちこちで奇妙な現象が起こり始める。その頃、子どもたちが農場内で見つけたのは、何やら謎めいた装置とオンボロの改造キャデラック。それらは、かつてニューヨークで活躍した幽霊駆除チーム〈ゴーストバスターズ〉が使っていたのと同じ品々だった……。
誰もが知ってる有名シリーズ、なのに自分は何故だか最近まで観ていなかった……映画好きな方々にも、そんな作品群がそれぞれ幾つかあるのではなかろうか。筆者にとっては、『リーサル・ウェポン』、『ビバリーヒルズ・コップ』、そして『ゴーストバスターズ』各シリーズ作がそれにあたり、どういうわけか鑑賞する機会の無いまま、2010年代を迎えてしまった(いや、これらのタイトルであれば大抵のレンタルビデオ店にソフトは置いてあるわけで、「機会が無かった」とはチト苦し過ぎる言い訳……「面倒くさがって観ようとしないまま」と表現するのが適切だろう)。手もとのノートによれば、筆者が初めて『ゴーストバスターズ』1&2(84年、89年)をマトモに鑑賞したのは2016年のクリスマスシーズン。どうやらリブート版『ゴーストバスターズ』(16年)のソフトリリースに合わせ、半ら予習感覚で観たものらしい。斯様な消極的姿勢からも分かる通り、筆者は『ゴーストバスターズ』にそれほど強い思い入れを抱いていたわけではない。後発のオバケ退治モノを先に観てしまった結果、本家本元への関心が薄れ、「今さら追っかけてもねぇ……」と、自己完結気味に距離を置いていた感すらある。
そんな不熱心な観客の筆者であるからして、フランチャイズ最新作『アフターライフ』鑑賞時に感じた強烈なノスタルジーには、自分でも驚いた。プロトンパックをはじめとする無骨な対ゴースト用ガジェットの数々、「トシを食っても個性はそのまま」な、かつてのヒーローたちの尊顔、聴けば体が自然にリズムを刻み始めてしまう、ノリのいい主題歌……歌舞伎の大向うさながらに「イヨっ、待ってましたァ!」と掛け声を放りたくなる瞬間が頻発する。多感な少年期~青年期に初めて出会った作品ではなく、過去のシリーズを繰り返し観たわけでもないのに、この反応。1作目の公開から38年、『ゴーストバスターズ』が映画という枠をこえて様々な媒体に潜り込み、インプリンティングにも似た影響を与えてきたのだということを、改めて思い知らされる。
当然ながら、シリーズの大きなお楽しみ要素であるゴーストたちも出し惜しみなく登場。当世の最新VFX技術を用いつつも、表現スタイルにどことなく80年代のアニマトロニクス・光学合成チックな香りが感じられ、これまた懐旧の念を刺激する。究極は、クライマックスでようやく全身披露となる某氏のお姿。「お金と時間さえかければ映像化不可能なものなど無い」とされる今、こういったCGの利用法が物議を醸すこともままあるが、ここでは直前までの盛り上がりが既にドエラいレベルに達しているため、リアクションはやっぱり「待ってましたァ!!」になってしまう。その後にフッと現れる簡潔な追悼文とあわせ、まさに感涙モノのシークエンスだ。
監督は『JUNO/ジュノ』(07年)、『マイレージ、マイライフ』(09年)のジェイソン・ライトマン。『ゴーストバスターズ』1&2のメガホンを執り、『アフターライフ』全米公開からほどなくして逝去したアイヴァン・ライトマンの息子である。かねてより演出力の高さには定評があったが、SFや王道コメディを数多く世に放った親父様の耕地からはだいぶ離れた場所で活躍している人、というイメージが強く、当人も超大作を手掛けることにあまり乗り気ではなかったらしい。だがある時、「偶然プロトンパックを見つけた幼い女の子」なるヴィジョンを得て一念発起。シリーズのお約束を守りながら、全く新しい〈バスターズ〉の物語を生み出すに至った。傑作『サンキュー・スモーキング』(05年)での長編監督デビュー以来、コンスタントに作品を発表し続けてきた才人が、ここへ来てまた一つ新境地を開いた(しかもパパからバトンを引き継いだ人気シリーズで!)というのは驚きだし、実に素敵な成果だと思う。本作の評判を受けてスタジオからゴーサインが出たという続編企画、2023年12月に全米公開予定とは「さすがに突貫工事が過ぎるのでは?」という気もするが、それでもやはり、期待せずにはいられない。