アクション

『クリーン ある殺し屋の献身』アカデミー賞俳優A・ブロディが挑むアクションドラマ、先行レビュー!

2021年
監督:ポール・ソレット
出演:エイドリアン・ブロディ、グレン・フレシュラー、リッチー・メリット、チャンドラー・アリ・デュポン、ミケルティ・ウィリアムソン、RZA
公式サイト:https://clean-kenshin.com/

も少しハジケてほしかった「親切な殺し屋さん」

毎夜のゴミ回収の仕事を淡々とこなし続けながら、機械修理や廃屋の修繕作業も行う〈クリーン〉と呼ばれる寡黙な男。他者と積極的には関わり合おうとしない彼にとって、隣家に住む少女のディアンダは数少ない“友達”のひとりだった。ある時、ディアンダが不良グループに目をつけられたと知ったクリーンは、ゴロツキ集団の溜り場に単身で乗り込み、その場にいた全員を叩き伏せる。実はクリーンには、凄腕の殺し屋という暗い前歴があったのだ。ところが、倒された不良グループの中に街を牛耳るギャング団のボスの息子がいたために、クリーンは組織から命を狙われる立場になってしまう……。

オスカー俳優のエイドリアン・ブロディが主演の他、プロデュース・脚本・音楽を兼任して挑んだアクションスリラー。監督は、異色のレザボアムービー『キラー・ドッグ』(17年)でもブロディと組んだポール・ソレットが務めている。

知られざる過去を抱えた剛の者(または現役バリバリの仕置屋)が、そのスキルを用いて弱き者を窮地から救い出す……能力を“殺し”に限定したとしても、似たような筋立てを持つ映画というのはかなりの数にのぼる。このテの物語にオリジナリティを加えようとした場合、脚本と同じくらい重要なのは「主人公を誰に演じさせるか?」という点であろう。殊に、アクションスター的なイメージの薄い俳優が必殺拳を放った際の“ギャップ萌え”効果は絶大で、近年ではリーアム・ニーソン、デンゼル・ワシントン、ボブ・オデンカークなどのナイスミドルたちが、この路線で新たなファンの獲得に成功してきた。過去にジャッキー・チェンやプレデターと戦った経験もあるものの、いまだに廃墟でのピアノ・リサイタルの印象が強いエイドリアン・ブロディ、鋭い爪を隠した鷹の役でどんなアプローチを見せるのか、なるほど興味をそそられる。

あまたある同ジャンル作品の伝統に倣い、本作でも主人公クリーンの日常はたっぷり時間をかけて描写される。勤務態度はいたって真面目、副業の修理仕事においても周りからの信頼は厚く、野良犬の世話を焼く優しさも持ち合わせている(このへんは、『キラー・ドッグ』にもあったソレット監督の犬愛の発現だろうか)。その一方で元薬物常用者の例会にも参加しているあたり、何やら荒れていた過去を匂わせる設定で、脛に疵持つ男の紹介としてなかなか悪くない。ケレン味を排した淡泊なタッチは観ていて結構焦れるのだが、これも後々の暴力の開放で大いなるカタルシスへ誘うための布石と思えば軽いものだ。そうこうしているうちに、チンピラが寄ってたかって人を足蹴にする現場を目撃したクリーン。すわ、怒りのブロディ拳一閃!チンピラ大後悔!!……とはならない。ここで昏倒し、病院送りの憂き目を見るのはクリーンのほうなのである。

『イコライザー』(14年)や『Mr.ノーバディ』(21年)と同質の要素を持つはずの本作だが、それらの映画と比較すると、ボルテージは格段に低い。タメの息苦しさが炸裂の快感を上回っている。そもそもが、スタイリッシュに悪漢を成敗していくタイプの作品のアンチテーゼとして企画された可能性もあるものの、クリーンの機械いじりの知恵を活かした武器加工描写や、『オーバー・ザ・トップ』(87年)ばりのトラック家屋突撃に思わず期待を抱いた者からすれば、肩すかし感は否めない。カチコミの快感と、暴力の連鎖が生む悲劇性を絶妙のバランスで配合・両立してみせた『狼の死刑宣告』(07年)のような描き方もあったのではないか……と、無い物ねだりの感情が頭をもたげてきてしまう。

グレン・フレシュラー扮するギャング団のボス・マイケルは、『フルメタル・ジャケット』(87年)の“ゴーマー・パイル”ことレナードが完全闇堕ちしたかのような嫌ったらしさで見応えがあるし、手斧にパイプレンチにドライバーと、銃器以外の得物が妙に充実している点にも好感が持てる。いまひとつハジケきれていないのは他ならぬ主役のブロディで、ワケ有り男の孤軍奮闘劇で新境地を開拓しているとは評し難い(あの佇まいに献身や我慢が似合うなんてのは、本作を観るまでもなく知っていることだ)。50~60歳代の俳優によるアクション映画出演が珍しくなくなった今、来年ようやく50歳になるブロディはまだまだ若手枠、伸びしろだって十分!いつの日にか「これぞ中年ハードボイルド・アクションの決定版!」と呼べるような傑作をモノにしてほしいところである。そして勿論、その際に駆るクルマは、ツヤ消しブラックの1987年式ビュイック グランドナショナルでよろしくお願いします。

【映画『クリーン ある殺し屋の献身』は9月16日(金)より、
ヒューマントラストシネマ渋谷、イオンシネマ板橋ほかにて全国公開】

※新型コロナウイルス(COVID-19)感染症流行の影響により、公開日・上映スケジュールが変更となる場合がございます。上映の詳細につきましては、各劇場のホームページ等にてご確認ください。

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