ブッシュ政権を猛烈に批判し、全世界2億ドル、日本でも興行収入17億円を叩き出した問題作にして大ヒット作『華氏911』を筆頭に、アメリカの銃社会に風穴を開けた『ボウリング・フォー・コロンバイン』(02)、医療問題に鋭いメスを入れた『シッコ』(07)と、これまでも巨大な権力に対抗し、突撃アポなし取材を敢行し続けた世界で最も有名なドキュメンタリー作家マイケル・ムーアの最新作『華氏119』が11月2日TOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開となります。
ムーア監督が挑む今度の相手はなんと、アメリカ合衆国第45代大統領 ドナルド・トランプ。トランプの当選の予測を的中させこの暗黒時代を抜け出す光を本作では導き出している。「この映画が公開されれば、トランプ王国は必ず崩壊する!」と豪語するムーア監督、果たして映画の力で11月6日アメリカの中間選挙に一石を投じる事はできるのか?(タイトルの “119“とは、トランプの大統領当選が確定し勝利宣言をした[2016年11月9日]を意味し、過去作『華氏911』に呼応したタイトル)
この度、公開に先駆けて、ジャーナリストであり本作の字幕監修も携わる池上彰と、自民党の若手国会議員の有志で結成された「若者の政治参加検討チーム」の会合に参加するなど、政治への関心が高く若干19歳にして歯に衣着せぬ物言いでワイドショーでも話題の、井上咲楽の対談イベントを本作でキーワード的に登場するミレニアル世代(2000年以降に成人した世代)を限定にした試写会場で行いました。
井上咲楽“額賀派”きっかけで政治ガールに。池上彰「それ渋すぎ!」
ミレニアル世代の前に登場した池上彰さんと井上咲楽さん。それぞれ「このところ映画の仕事が急激に増えてきました。(笑)字幕監修をさせていただきました池上彰です。」と池上さんが、「井上咲楽です。よろしくお願いします。今までは日本の国内政治に興味があって、アメリカの政治にはあまり興味がなかったんですけど、今回の映画を観て、中間選挙が楽しみになりました!」と井上さんが挨拶。まず、本作の感想を尋ねられると、池上さんは「中間選挙までちょうどあと2週間に迫った中で、アメリカで何が起きているのか、これからどうなるんだろう、どういう動きをしていくのか、特に若い人たちがどのような行動をしようとしているのか、をマイケル・ムーア監督が活き活きとあくまでも一断面ですが描いているな、と思います。日本でも多くの方に見ていただきたいです。」と、井上さんは「ムーア監督がフリントの水を知事の屋敷に放水したのはぶっ吹っ飛んでいるな、と思いました。あとはアメリカの選挙制度にびっくりしました。アメリカの選挙制度のおかげでトランプ大統領が誕生したんじゃないかなと思います。純粋な多数決ではないので、民意を反映しているのではないんじゃないかなと思いました。」と話した。
次に本作の字幕監修を担当した池上さんに字幕監修の話をすると、「過去にもやったことあるんですけど、字幕を作るプロの方がいらっしゃるので、どうしても私が説明しようとなると、「長くて入りません」、と言われるんですね。今回監修した一例としては、FOXニュースの映像の部分で”News Alert”と出て、普通は”ニュース警報”と訳すんですが、どんどんニュースが出てくるので、”ニュース速報”、としました。実は相当時間をかけていて一つ一つ詰めて行きました。そもそも字幕を作ってくださる方がしっかりしているので、大丈夫なのですが、それをあまり政治が分からない人のために味をつけた、調味料をつけた、という感じですね。」と監修時を振り返った。
また、19歳という年齢ながら、報道系や情報番組など政治や社会問題の知識も豊富で国会議員にもインタビュー経験があるという井上さんに、どうして“政治ガール”になったのか尋ねると、「今年に入って、”額賀派の分裂”というニュースが飛び込んできて、響が面白い言葉だなと思って、調べていくと、どうやら人の名前らしいということが分かって、「政治家の名前かあ」と思ったんですが、そこから調べてくと、どんどん政治のパワーゲームの面白さに気づいて、どんどんハマって行って、総裁選もがっつり取材しました。」との答えが。そんな井上さんの「すごいですね!額賀派の分裂なんて渋いですね〜。額賀と読めただけすごい!」と感心の様子の池上さんに会場も驚きの声が上がった。
そしてここからはそんな井上さんから本作を観て疑問に思ったことを池上さんにぶつけるコーナーへ。
意外にも!?トランプ大統領は高い支持率!?
井上さん:「トランプ大統領が勝利したのはアメリカが分断してきたことの象徴なのかな、と思ったんですけど、トランプ大統領は支持されているんですか?」
池上さん:「すごいですね。ここのところ支持率を伸ばしてきて、急激に45パーセントくらいになってきていますね。ただ、不支持率の方がまだ高いですが。これまで共和党を支持している人たちがトランプ大統領を支持していたんだけど、中間選挙にはあまり興味がなかったんですね。ところが最高裁判所の判事を認めるかどうかというところで、昔のセクハラの話が出てきたでしょ?学生時代にセクハラをしたんじゃないかっていう話になって。上院議員が最高裁判所の判事になっていいかどうかを決めるんですね。ここで51人の賛成があれば最高裁判所の判事になれるのね。ここで民主党が激しく追求しているんだけど、そうすると、共和党の支持者の保守的な人たちはそんな昔の話を今更しているのか、って思ったり、最高裁判所に保守的な判事が入ると、同性婚を認めていることをやめろって言ってくれるんじゃないか、とかLGBTの権利を認めない、とかいう風にしてくれるんじゃないかという期待が共和党の支持者から出てきて、その人たちが中間選挙でも共和党を支持しようかなって急激に思ったり、トランプ大統領よくやっているんじゃないか、って思ってきたりしたんですね。日本だとそんな感じはあまりしないんですけど、アメリカ国内だとよくやっているじゃないか、って思われているんですね。一番わかりやすいのが、トランプ大統領が「俺のおかげで北朝鮮はミサイル打たなくなっただろ?核実験やらなくなっただろ?」ってよく言っているんですが、それを言うとトランプ大統領の支持者は「お〜そうだそうだ!」と思うわけですね。
裏切られた若者。ヒラリーには絶対投票しない!
井上さん:「バーニー・サンダースが枝野さんみたいだな、って思ったんですよね。民主党が分裂と言う騒動の時に枝野さんの演説を聞きに行ったんですが、その時の演説の光景となにか似ているなって思って。そんなことないですかね?」
池上さん:「そんな比較は初めて聞きましたね。バーニー・サンダースの選挙運動、私も2016年に取材に会場に入ったんですよ。もうね、いたたまれなかった。周りあなたの年齢ばかり。ハタチ前後の学生たちが「バーニー!バーニー!バーニー!」ってぴょんぴょん跳ね続けているんだよね。ロックコンサートみたいだった。とても着いて行けなかったよ。熱烈な支持なんだなって思った。」とここで自らの取材の体験を披露。「ではあの民主党大会でクリントンさんに譲りますって言った時の落ち込みようもすごかったんですか?」と興味津々の井上さんに、池上さんは続けて「実はあの民主党の会場にもいたんだよね。民主党が分裂するのをなんとか阻止しようとしてバーニーはそんな宣言をしたんだよね。その時に涙を流していたバーニー・サンダースの支持者の人たちいたでしょ?あのあと彼らは怒って会場から出て行くんだよね。出て行って、「こんなの認めない!」って言ってデモ行進をするんだよね。その時ちょうど真横で見ていました。選挙なんか行かないぞ、ヒラリーなんか支持できない、ってね。それがあって、あの時にトランプも嫌だけど、ヒラリーに投票したくないよねっていう人たちが大勢いて、結果的にトランプさんが大統領になったというところなんだよね。」
一年前はウェイトレス!28歳女性議員が起こした奇跡
井上さん:「映画の中でも出てきた民主党の新しい若い立候補の人たちは受からなくても何か影響与えられるんですかね?」
池上さん:「コルテスさんというウェイトレスしてきた政治に全く関心がなかったのに、バーニー・サンダースの影響もあって、トランプ大統領を見て、じっとはできていないと思って、立候補したんだよね。そこでコルテスさんがなぜ注目されているかというと、日本だと現職議員が優先だよね?アメリカはその度ごとに予備選挙をするんだ。民主党の大ベテラン候補を倒して、あの選挙区の候補者になったんだ。民主党が下院議員の選挙で勝ったら、下院の議長になるんではないかな?とまでも言われているんだよね。
社会人1年目で2000万円の借金!?過酷すぎるアメリカの大学生
井上さん:「若者の51%が資本主義を支持していないって本当なんですか?」
池上さん:「アメリカって格差が広がってきて、資本主義によって格差が広がってきているんじゃないか、と言って今の仕組みに懐疑的な若者が多いのは事実だよね。日本では民主社会主義ってよくあるんだけど、”社会”って入っているだけで、アメリカにはまだ拒否反応があるんだよね。バーニーの政策で若い人が熱狂したのが、公立大学の学費無料というのなんだよね。私立の大学って400万円〜500万円かかるんだけど、アメリカの大学生って自立しているから、親に大学の学費を出してもらおうと思わないんだよね。だから大学出た段階で2000万円の借金を背負って社会人になるんだよね。そんな時にバーニーがせめて公立大学の学費を無料にしようって言ったんだよね。アメリカは大学に行きたいっていう人が行くんだよね、日本では親が頼むから大学にいってくれってなるよね。だから日本だと授業サボったり、居眠りしたりするんだよね。」
スキンヘッドのヒロイン銃撃事件生き残りの高校生エマ・ゴンザレス
井上さん:「パークランドでエマ・ゴンザレスさんが演説していたじゃないですか?自分で訴えかけなければならない状況に追い込まれているっていう状況に心が痛みました。」
池上さん:「彼らの訴えはこの世界から銃を無くそうっていう話じゃないんですね。彼らは銃をやめましょうではなくて、なんでも気軽に手に入るようにしないで、全米レベルで気軽に買えないようにしてください、という訴えなんだよね。日本では銃をなくせっていう運動をしていると勘違いされているのが多いですよね。それでも全米ライフル協会から献金をもらう政治家がたたないですよね。ライフル協会の人たちがそれぞれの地区の候補者に「銃を規制しなければならないと思いますか?」というアンケートをとるんですね。そのアンケートを元に銃規制に賛成ではない候補の悪口をCMでかけたりするんだよね。それを見てしまうと、候補者は銃を規制すべきだって言えないんだよね。たまにいるんだけど、それは次の選挙にもうでない人が言っていたりするんだよね。劇中でもライフル協会から献金をもらうのやめてくださいと追求された若い新進気鋭っぽい候補者が困った顔していたよね。」と池上さんが投げかけると、「ほんと!新次郎さんみたいな人が困っていた!」と興奮気味で井上さんは答えた。
「2020年にトランプの再選はありえますかね?」というMCからの質問には「私はこの選挙制度が変わらない限り、同じことが繰り返されるのではないかと思います。」と話す井上さんに、池上さんも「今選挙するとトランプさんが圧勝しますね。2020年までに民主党から素晴らしい対立候補が出てきたらいいですけど、そうでもなければトランプ大統領再選の可能性がありますよね。」と話した。
ポンポンと質問を投げかける井上さんに、池上さんは「すごいですね〜。将来有望ですね。びっくりしました。ここまでちゃんとお話されるとは。”額賀派の分裂”という言葉が出てきた段階でしびれましたね。まあちょっと渋いけど。(笑)日本のことよく知っているわけだから、アメリカのことにも興味持つんだよね。」との発言が。
そこで、井上さんをミレニアル世代代表として『華氏119』の宣伝隊長に任命することに!”「華氏119」宣伝隊長”と書かれたタスキが池上さんから井上さんに渡された。タスキを渡されて「頑張りますー!」と井上さんは力強く意気込んだ。
最後に「私たちの世代でもトランプさんはぶっ飛んでいるという印象はあると思うんですけど、一体何をしているんだと分かると、外国のニュースが面白くなるんじゃないかなと思うので、観て欲しいです。」と井上さんが、「今回の映画ではトランプがなぜ当選したのか、実はそこには民主党がだらしがないから、民主党が支持を失っているから、そしてそこにはオバマ大統領の責任もあると描いているところが非常に衝撃的ですよね。だからこそ次の中間選挙で何が起きるのか見る必要があるのではないかと思います。大統領選挙が期末テストだとすると、中間選挙は学校の中間テストのようなもの。これまでの2年間の仕事ぶりに関して評価されるのが中間選挙です。」と池上さんがここでも”分かりやすく”解説し、イベントは幕を閉じた。
<プロフィール>
池上彰:長野県生まれ。1973年、NHKに記者として入局。松江、呉での勤務を経て東京の報道局社会部。
警察や教育問題、消費者問題、宮内庁等を取材。1994年から2005年まで「週刊こどもニュース」キャスター。2005年に独立。名城大学や東京工業大学など7つの大学で国際関係論や経済学などを教える。
井上咲楽: 1999年10月2日栃木県生まれ。2015年「第40回ホリプロスカウトキャラバン」で特別賞受賞し芸能界デビュー。NHK「サイエンスZERO」、MX「バラいろダンディ」などにレギュラー出演中。
監督:マイケル・ムーア 『華氏911』
出演:アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプ
配給:ギャガ
原題:Fahrenheit11/9/2018/アメリカ/カラー/5.1chデジタル/
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