(2011年 監:ケネス・ブラナー 出:クリス・ヘムズワース、ナタリー・ポートマン)
荒くれ兄ちゃんと策士の弟
神々の王国アスガルドの第一王子・ソーは勇敢な戦士だったが、その傲慢さ故に父であるオーディンの怒りを買い、人間界へと追放されてしまう。神通力を失った彼は、人間たちとの触れ合いを通して「力ある者の責任」に目覚めてゆき、いつしか天文物理学者のジェーンとも惹かれ合うようになる。その頃、自分がオーディンの実子ではないと知った第二王子のロキは、絶望の果てにアスガルドの王座乗っ取りを企て、ついにはソーを亡き者にしようと人間界に刺客を送り込むのだが……。
自社漫画の実写化をことごとく成功させてきたマーベル・コミックスが、北欧神話をベースにした同名原作を映画化。いくらなんでも神様が主人公のお話を実写でもっともらしく描くのはハードルが高すぎやしないかと懸念したが、監督にまさかのケネス・ブラナーを起用、彼が得意とするシェイクスピア劇の格調とブロックバスター映画の豪快さの合わせ技というウルトラCをキメてみせた。
タイトルロールに抜擢されたC・ヘムズワースのムキムキきんに君ぶりはもちろん説得力バッチリだが、おそらく制作サイドもここまでとは予測していなかったであろうハマリ役は、ロキ役のトム・ヒドルストンである。兄であるソーに嫉妬し、親の愛に飢え、権力への妄執にとりつかれた孤独な策略家。耳元で甘言を囁いて人心を操るイヤーな野郎のはずなのに(程度の差こそあれ、学校にも職場にも必ずいるよね、こういう人!)、儚さや精神的脆さといった同情を誘う一面も併せ持っているという絶妙なサジ加減。数あるアメコミ映画の悪役の中で、腐女子から絶大な支持を得ているという話も、『アベンジャーズ』(12年)でヒーロー軍団を相手に、独り「悪役」の一枚看板を背負って奮闘していたのも納得のキャラ造形だ。
アンソニー・ホプキンスは持ち前の重厚さでオーディン王を威厳タップリに演じ、お久しぶりのレネ・ルッソ(『リーサル・ウェポン3』からもう20年以上経つのか……しみじみ)は王妃フリッガ役で変わらぬ美しさを見せてくれる。人間側を演じるキャストはといえば、N・ポートマンもステラン・スカルスガルドもいつになく肩の力が抜けた軽妙な芝居で、しゃちほこばっていないのがイイ。特にスカルスガルドは、ラース・フォン・トリアー作品でずっと眉間に縦ジワ寄せて唸るように喋ってたのがウソのように伸び伸びとしている。筆者は断然こっちモードの彼が好きだ。
本作に限らず、映画にはしばしば北欧神話のモチーフが登場するので(『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ、『ベオウルフ 呪われし勇者』、『13ウォーリアーズ』、『マスク』……etc.)、それらをより楽しく鑑賞するための取っ掛かりとしても最適な作品だと思う。もしかしたら、子供が北欧神話に興味を抱くきっかけにだってなるかもしれない。『聖闘士星矢』でギリシャ神話の洗礼を受けたお父さんなら分かるはず。何といっても、楽しみながら身につけた教養に勝るものはないのだから。