2019年
総監督:小林勇貴
出演:藤原季節、篠原篤、溝口奈菜、ウメモトジンギ、石川雄也、能塚昌幸、六平直政、高橋和也
公式サイト:http://sujibori.com
異色の青春任侠ドラマ『すじぼり』先行レビュー!
映画監督・小林勇貴。ヤクザ映画俳優顔負けのヤッタル感を身にまとい、『孤高の遠吠』(15年)、『全員死刑』(17年)、『ヘドローバ』(17年)等、不良性感度の高い作品を世に放ち続ける若き異才。そんな彼が総監督を務め、学生時代から愛読していたという福澤徹三の小説(角川文庫/KADOKAWA 刊)を映像化したのが、青春極道ドラマ『すじぼり』である。キャストには、『ケンとカズ』(16年)、『止められるか、俺たちを』(18年)の藤原季節、『万引き家族』(18年)の溝口奈菜といった新進若手俳優から、『恋人たち』(15年)の篠原篤、『ハッシュ!』(01年)の高橋和也などの個性派・ベテラン勢まで、多彩な顔ぶれが集結。ここにウメモトジンギ、川瀬陽太、一ノ瀬ワタル、六平直政……と、「美しい国、日本」が誇る顔面凶器アクターを大量投入した結果、『アウトレイジ』(10年)の大友組が桜蘭高校ホスト部に思えてくるほどのビザールなヤーさんワールドが誕生した(顔面凶器といえば、今回のドラマ終盤ではU-NEXTの大人気任侠シリーズ『日本統一』とのクロスオーバーが実現するのだとか。つまり「あの凄い顔たち」が大挙して『すじぼり』世界にカチコミをかけてくるわけで……乞うご期待)。
主人公・滝川亮は、将来のことなど何も考えず享楽的に生きる「普通の」大学生だ。暇さえあれば悪友とつるんでガンジャでハイになり、彼女の奈菜とは心よりもカラダで通じ合うばかりのウラヤマけしからん阿呆ガキ。そのくせ生っ白いプライドだけは一丁前で、道行くヤクザに遠くから中指おっ立て、「オレ、あいつらよりは全然マシっしょ」とヘラヘラ笑う。現実世界では、このテの人間が要領よく世渡りしていくケースも多々あるので憤懣やるかたないが、創作の世界においては、自堕落ピープルには大抵それ相応の地獄巡りツアーが用意されているもの。案の定、ラリハイなオツムで企てた大麻ドロ計画がきっかけとなり、亮の平穏グータラ人生はあっけなく終了。気付けば、自分とは無縁の領域だと思っていた「裏社会の底なし沼」にズッポリとはまり込み、血で血を洗う暴力と混沌の世界にその身を沈めていくことになるのである。
筆者が試写会で鑑賞できたのは、全10話で構成される物語のうちの僅か3編。ストーリー的にはようやく「モーターのコイルがアッタマってきたところだぜ!」ってな段階だろうと思うが、映像に漲る狂気のボルテージは、のっけから既に十分高い。近年の映像制作畑に蔓延する「行き過ぎた自主規制」という名の悪疫から解放された本作には、暴力・セックス・ドラッグにゲロ食いまで加わった罰当たり描写がテンコ盛りで、観ているコチラの心も思わずホッコリ。さらに、荒っぽい撮影スタイルやロー・バジェットゆえの制約、やむにやまれぬモザイク処理等の「弱点」を、隠すどころか堂々と見せつけてくる潔さ(「ふてぶてしさ」と言い換えても良いかもしれない)、これが作品の味をより一層際立たせ、『すじぼり』というドラマ独特の雰囲気作りを大いに助けている。そして何よりも素晴らしいのは、調理法次第でいくらでも陰惨になり得るこの物語が、ちゃんと「笑って楽しめるエンターテインメント作品」として成立している点だ。超暴力、極悪非道、エログロ……それらをトコトン突き詰めていった先に「もはや笑うしかない境地」というものが存在することは確かだし、小説や映画の登場人物がさんざっぱら酷い目に遭うサマは、時として同情の涙よりも先に引き攣った笑いを誘い起こすものだ。公序良俗に反する行為が、現実のみならずフィクションの世界からも排斥されつつある今日このごろ、こういう尖ったエンタメ精神がしぶとく生き残っているという事実には頼もしさを覚える。「最近、テレビも映画もつまらなくなった」とお嘆きの皆様よ……令和元年、意外とイイ年になるかもしれません。
【配信情報】
ドラマ『すじぼり』 全10話(1話 約25分)
2019年6月21日(金) 第1~3話 一挙配信
(以降順次配信開始。配信プラットホーム:U-NEXT)
【URL】
○任侠ドラマ『すじぼり』公式HP http://sujibori.com
○任侠ドラマ『すじぼり』公式アカウント @sujibori2019(https://twitter.com/sujibori2019)