2019年
監:アンソニー・ルッソ、 ジョー・ルッソ
出:ロバート・ダウニー・Jr.、クリス・エヴァンス、クリス・ヘムズワース、マーク・ラファロ、スカーレット・ヨハンソン
公式サイト:https://marvel.disney.co.jp/movie/avengers-endgame.html
インフィニティ・サーガ総決算!至福の3時間
世界各国で『アベンジャーズ/エンドゲーム』の快進撃が続いている。アメリカでの前売り券販売開始24時間のセールス新記録を皮切りに、史上最短期間での世界興行収入10億ドル超え、20億ドル突破を次々と達成。世界興収歴代1位の『アバター』(09年)が打ち立てた27億8800万ドルという記録も射程圏内に入り、追いつけ追い越せの大祭り状態である(6月2週目時点)。近年の日本国内における映画の年間総興行収入がだいたい2200億~2400億円であることを考えれば、まさに化け物クラスの数字。『アイアンマン』(08年)から始まったマーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)のクロスオーバー・ムービーとしては22本目の映画でもあるわけで、これだけ長い年月と作品数をかけた「続きモノ」がファンに愛され、大成功しているという事実には、何度驚いてもまだ驚き足りないほどだ。
長大なインフィニティ・サーガの総決算的作品であるだけに、この映画を取り巻く観客サイドの状況もなかなか異常。中国・浙江省の劇場では、本作鑑賞中に感極まったお客さんが過換気症候群を発症して病院搬送され、香港のとある映画館では、ひと足先に『エンドゲーム』を観終えた男性が興奮冷めやらぬまま劇場エントランスでネタバレ絶叫、激怒した入場待ちのお客にブン殴られるという事件が発生した(自殺願望でもあったのだろうか?)。日本でも、某報道番組出演者の何気ない一言が「スポイルだ!」と非難され(個人的には、そこまで罪深い発言とも思えないのだが……)、監督のアンソニー&ジョー・ルッソが限定的ネタバレ解禁宣言をした5月6日以降も、レビュアー泣かせの自粛ムードは消えていない。確かに、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18年)で銀河万丈、いや銀河番長サノスの強大過ぎるパワーを見せつけられ、丸々1年間「どうやったらアイツを倒せるのか?」と思案に暮れたファンからしてみれば、『エンドゲーム』は起承転結や序破急などといった構成形式に落とし込めない特別な作品、いわば「全編絶頂タイムの映画」であるはず(故に、どんな些細なネタバレにも敏感に反応してしまう)。周回遅れのレビュー記事、筆者もルッソ兄弟のコメントにある程度は甘えつつ、迂闊な記述をしないようヘッピリ腰気味にキーを叩いているところである。
公開直後からの熱狂ムードがようやく沈静化し、一時は大絶賛コメントで埋め尽くされていたレビューサイトでも、「ココが分からない」「あそこは変だ」という冷静な指摘が見受けられるようになってきた。場所とキャラクターが目まぐるしく変化する超絶バトルの連続で、あれよあれよという間にラストまで突っ走りきったアッパーな『インフィニティ・ウォー』と比較すると、『エンドゲーム』は暗い雰囲気に支配されたダウナーな場面が(特に序盤では)いくらか多めで、ロケットスタート的な爽快感に欠ける。結果、映画の勢いに呑まれた状態であればさして気にならないはずの疑問点が目につき易くなり、辻褄重視型の観客が「おや?」となりかねない箇所も増えている。加えて今回は、SF映画で扱われる題材の中でも特にややこしく、整合性を持たせるのが困難なネタを仕込んであるため、勢いだけで押し通すには限界がある。
これまでMCU作品の脚本を数多く手掛けてきたクリストファー・マルクス&スティーヴン・マクフィーリーの名コンビも、さすがにこのストーリーを組み上げていく過程では、幾度となく袋小路に迷い込んだのではないだろうか。
だが、トニー・スタークがアフガニスタンの洞窟でアイアンマン初号機を完成させた瞬間から、シネマティック・ユニバースが膨らみ広がっていく様子を10年以上かけて見守り続けてきた観客にとって、本作のシナリオの瑕疵など物の数ではあるまい。VFX満載のバトルシーンは勿論のこと、過去作を観ていれば思わず破顔一笑すること間違いないイースターエッグの数々、普通ならどうということもないはずの会話シーンまで全てが愛おしく、味わい深い。膀胱の容量を無視してコーヒーをガブ飲みしてしまうようなお客を除けば、180分超えの上映時間を苦行と感じる人は少ないだろう。そして最終局面、傷だらけのキャプテン・アメリカが言い放つ「あの台詞」を号砲代わりに、遂に始まるオールスター総進撃の超ド級大合戦。いつか必ず目撃することになると分かっていた、しかし実際に目の当たりにするとやはり燃えずにはいられない豪華絢爛なグランド・フィナーレが終息の気配を示す頃、大多数の観客は同じ感情を共有しているはずである。「どうか終わらないで……もっと観たい」と。
周知のように、マーベル・コミック原作の実写映画化プロジェクトは今後も続いていく。まもなく公開される『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(19年)を皮切りに、ブラック・ウィドウやドクター・ストレンジ、ブラックパンサーにガーディアンズ・オブ・ギャラクシーといった馴染みの顔ぶれの単独作品、『エターナルズ(仮)』、『シャン・チー(仮)』などの新シリーズ企画が目白押し。さらにはマーベル・エンターテインメントの親会社であるウォルト・ディズニー・カンパニーが20世紀フォックスを買収したことで、『X-MEN』や『ファンタスティック・フォー』のMCU加入も、もはや夢物語ではなくなった。これからメンバーの入れ替えが進んでいくうちに、いつかアベンジャーズ初期メンバーが「そういえば昔、そんな連中もいたね」程度の文脈で語られる日だって来るのかもしれない。しかし、いつか新世代ヒーローたちが一致団結して強大な敵と対峙した時、『インフィニティ・ウォー』と『エンドゲーム』、そしてその礎を築いた20本の作品群は、ちょっとやそっとの頑張りでは越えられない巨壁となって彼らの前に立ちはだかることだろう。昨年末に亡くなった「マーベルの顔」スタン・リー氏のキメ台詞“Excelsior(更なる高みへ)!!”……後進に託された夢と責任は、とてつもなく大きい。