ドラマ

映画『ダンガル きっと、つよくなる』レビュー!

[2016年 監:ニテーシュ・ティワーリー 出:アーミル・カーン]

肉体表現を称えよ!ド直球のスポ根ドラマ

レスリング選手として将来を嘱望されながら、生活苦を理由に引退した男、マハヴィル。「自分の夢は息子に託す」……そう決意して子作りに励むマハヴィルだったが、生まれてきた4人の子どもは娘ばかりで、落胆した彼は夢を諦めてしまう。ところがある日、長女のギータと次女のバビータが「戦士の才能」を秘めていることに気付いたマハヴィルは、2人を最強の女子レスリング選手に育て上げるべく、猛烈な特訓を開始。周囲の無理解や家族の反発も何のその、自らの格闘スキルを娘たちに徹底的に叩き込んでいく。そしてとうとう燃え上がる、ギータとバビータの闘争心。それは多くの人が持つ固定観念を打ち砕き、不可能を可能にする、大いなる奇跡の始まりだった……。

元アマチュアレスリング選手のマハヴィル・シン・フォーガットと、彼の娘であるフォーガット姉妹の実話をもとにしたスポーツ・ドラマ。本国インドだけでなく海外でも興行的成功をおさめ、数々の映画祭で賞に輝いた爽快作である。

単館上映作品として異例のヒットを記録した『ムトゥ 踊るマハラジャ』(95年)、ルール無用のカッ飛んだトランスフォーム描写が話題になった『ロボット』(10年)、口コミで人気が広まり、ノーカット版の公開や絶叫応援上映で興行界に一大旋風を巻き起こした『バーフバリ』二部作(15年、17年)などの実例が示す通り、背脂タップリ味濃いめなインド映画は日本でも大勢のファンを獲得し、広く愛されている。映画館が「座してスクリーンを眺める」だけの場所ではなくなった今、歌や踊りが満載でイベント上映との親和性が高いインド映画に注目が集まるのは、当然といえば当然な流れだろう。『ダンガル きっと、つよくなる』の劇場公開時にも、コスプレを楽しみ、ノイズメーカーや掛け声で盛り上がる応援上映プログラムが組まれて好評を博した。しかし本作は、大劇場のお祭り騒ぎから遠く離れた環境で観てみても、その魅力が少しも損なわれることはない。ド直球の熱いスポ根ドラマを真ん中に置き、そこに役者たちの秀逸な肉体表現が加わったことで、2時間40分を一気呵成に突っ走る強靭な大傑作に仕上がっている。

映画が始まって早々、「現役のレスリング選手時代~引退直後」という設定にリアリティを与えるべく鍛え上げられた、マハヴィル=アーミル・カーンのバッキバキなボディに思わず息を呑む。腕、腹、雄ッパイ……どこに目を向けても惚れ惚れしてしまうその極上肉は存在感も説得力も抜群で、冗長な台詞やナレーションを使った人物背景解説よりもずっと雄弁。カツドウ屋好みの表現をするなら、どこまでも「映画的」である。後半、加齢ですっかりオヤジ体型となったマハヴィルが、それでも昔と変わらぬ「タダ者でない感」を漂わせていられるのは、ノッケで観客に提示された、この視覚的インパクトに因るところが大きい。『きっと、うまくいく』(09年)では、実年齢44歳でヌケヌケと(そして見事に)大学生役を演じきったアーミル・カーンだが、本作における超絶肉体改造も、若き日のロバート・デ・ニーロやクリスチャン・ベールに匹敵するほどの「圧」がある。

そんな熱血親父ゆえ、自分の娘たちを一流選手にすると決めてからのシゴキも相当なもの。早朝ランニングや筋トレは当たり前、泣きじゃくる娘の髪を刈り、食事内容も徹底管理、胆力を鍛えるため川へと飛び込ませる……等々、今や戸塚ヨットスクールでもやらないようなスパルタぶりだ。「レスリング選手になりたい」なんて一度も口にした覚えのないギータ&バビータ、あまりに強権的な父親に反発してトレーニングをサボったりもするのだが、ある日こっそり出かけたパーティーの席で友達からかけられた言葉が、2人の目を開かせ、発奮させる。再び始まった猛特訓に全力で取り組み、いつしかレスリングへの情熱に目覚めるギータとバビータ。当初、彼女たを道化かチンドン屋のように眺めていた人々の嘲笑は、男子相手の試合で勇猛果敢に戦う女の子の姿を見るうち、応援の大歓声へと変化していく。

劇中、幾度となく描かれる試合の場面はどれも迫真性に富み、女の子同士のキャッキャウフフ感がウリの一つである「女斗美(めとみ)」とは別次元の力強さ。相手のガードが緩んだ一瞬の隙をついて組み付き、締め上げ、投げ飛ばすサマは、まるで土佐闘犬のガチンコ対決を見ているかのような迫力だ。特に青年期のギータ役、ファーティマー・サナー絡みのファイト・シーンはものすごい覇気に満ちており、とても数か月間の集中特訓講座だけで習得したとは思えない仕上がりである。メインキャスト一同、撮影期間中は生傷が絶えなかったそうだが、その苦労の成果がちゃんと映像に反映されているところが立派だ(役者の準備不足がモロに露呈した、あるいはマズい撮り方のせいでアクション・コレオグラフィが台無しになってしまった作品のなんと多いことか)。地道なトレーニングと肉体改造がキャラクターに命を吹き込み、物語の説得力を強化し、感動を倍増させる……これぞ真の体当たり演技!「体重5キロ増やしました」、「髪を10センチ切りました」なんてホザきながらドヤ顔ひけらかす“俳優カッコワライ”の皆さんには、『ダンガル』DVDの削りカスでも煎じて飲んでほしいところだ。

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