奇々怪々、戦慄のオカルト・ショック!
平成の終わりに突如出現した異色作を緊急レビュー!
「本気で夢中になれるオカルト番組」を最後に観たのはいつだったか……郵便受けに入っていた本作の試写状を見つめながら、ふとそんなことを考えた。「スプーン曲げの第一人者」ユリ・ゲラーは、筆者が小学校へ上がった頃には既に過去の人物。ノストラダムスの予言にあった「1999年7の月」とやらも、高校生活に馴染めず悶々と悩んでいる間にヌルッと過ぎていた。UMA(未確認生物)特集番組は、ヒゲが硬くなってからも時折チャンネルを合わせていた気がするものの(2003年4月放送の『藤岡弘、探検隊シリーズ第2弾 ベトナム奥地ラオス国境密林地帯に呪われた竜の使い人食いヅォンドゥーは実在した』を、上京後に観た記憶がある)、幼少の砌に抱いていたロマンチシズムをそこで再発見したという覚えはない。2012年から放送が開始された『緊急検証!』シリーズについても、試写状をいただくまでその存在すら知らなかったわけだが、「人気オカルト番組が映画の世界で勝負をかける」という構図はなかなか興味深く、ちょっぴり残っていた童心をくすぐるものがある。昔、ブラウン管テレビを通して受け取ったあのワクワク感、粉末ジュースの毒々しい甘みにも似た味わいを再び得られるのかもしれない……と、会員制のマル秘儀式にでも参加するような心持ちで試写会場へと向かった。
オカルト番組を観るうえで留意しておかねばならないこと、それは「超能力の証明やUMA捕獲が企画のゴールではない」という点である。新聞のラテ欄にどれほど刺激的な惹句が並べられていようと、サイキックパワーの全容が解明されることなどあり得ず、ネッシーはその雄姿を白日の下にさらしてはくれない。スプーンが熱した飴細工のようにクニャリと曲がる、謎の物体が湖の水面にチラリと見える、といった映像は移り気なオーディエンスの興味を引くための「ツカミ」に過ぎず、番組の真価は「その他大部分」を占める調査・検証パートをどれほど面白く見せられるかで決まる。UMA捜索作戦に関していえば、最新探査機器(実際の性能がどうかということ以上に、それらしく見えることが重要)を用いた「人間VS.未確認生物」のサーチ・バトル、野営地における探索チームの生活描写(TBS取材班がテレ湖の水棲生物モケーレ・ムベンベを追った番組、テレ湖の水で炊いた黄色いご飯の映像は印象的だった)、スタッフを襲う大自然の脅威(「あっ毒グモだ!」、「大蛇現る!!」、「超大型台風接近!!!」……等々、戦士たちの命を脅かす危険は尽きない)などのイベントが番組を盛り上げるのであって、マジックはココにこそ宿るのだ。そこへ、故・田中信夫氏の切迫したナレーションでも被さった日にゃ随喜のナミダが零れること間違いなし。幼い頃の筆者もこのマジックに魅せられたオカルト・ファンの一人であり、冷凍ヤクルト(当時の好物)を削り喰いながら、祖母と共にテレビ画面に見入っていたことは今振り返っても素敵な思い出だ。
……少々前置きが長くなったところで、肝心の『緊急検証!THE MOVIE』に話を戻そう。
オカルト界の未来を賭けた聖戦、その模様を一般公開に先駆けて鑑賞するという僥倖に恵まれた立場上、絶賛したいのは山々であるが……正直、お世辞にも良作とは言えぬ出来ばえだ。TV版を観たことがないため、これまでの『緊急検証!』シリーズの製作スタンスがどのようなものだったのかは知らない。しかし、今回の企画に携わったスタッフの中に、本作がオカルトブーム再燃の呼び水になると真に信じている者がいたとしたら、「いくら何でも考えが甘すぎる!」と言わざるを得ない。「緊急」と「急拵え」では、意味が全然違うってばよ。冒頭、老いてなお生気マンマンなユリ・ゲラー御大による劇場マナー告知映像が期待を煽るものの、その先に待っていたのは、かつて某野外博物館にて目撃した「スーパー棒読み紙芝居」に勝るとも劣らないヘッポコ茶番劇の連続。よほど予算が少ないのか、実地調査は病院食のように薄味で、スタジオでのプレゼン内容もビックリするほど踏み込みが浅い(せっかく山口敏太郎や飛鳥昭雄といったオカルト界の大御所をプレゼンターに立てているというのに、これでは宝の持ち腐れ。漬け物の重石に水晶ドクロを使うようなものである)。とりわけ酷いのは、筆者が最も楽しみにしていたネッシー特集パートだ。プレゼンターを務める中沢健a.k.a.「動く待ち合わせ場所」は珍妙な格好で様々なオカルト関連番組に出演している人気ショーマンだが、そのキモカワな芸風も、ネッシーというUMA界の大スターが相手では単なる馬鹿かタチの悪い茶化し屋にしか見えず、いちいちの素振りがカンに障る。コイツがネス湖に浮かべた船の上で、鈴木あみの“BE TOGETHER”を調子ッ外れな声で熱唱する場面など、観ていて猛烈に恥ずかしくなった。ワリャ、UMAファンの聖地でいったいぜんたい何してけつかんね。
時おり挿入される「レジェンド」たちへのインタビュー映像(相変わらず胡散臭いオーラを放ち続ける康芳夫、「エスパー清田」こと清田益章、いつになく柔和な表情を浮かべた森達也監督、そして元気いっぱいのユリ)は、凍てついた心に刹那の温もりをもたらしてくれる。しかし、CSファミリー劇場の月額視聴料金よりも高いお金を支払った観客が、このような散発的ホッコリ感を得ただけで気持ちよく帰路につけるものだろうか。あまりにもヌルい。いまやインチキ・オワコン扱いされているオカルトというジャンル、その復興を本気で目指そうという心意気が、この映画からはほとんど感じられないのだ。「おいおい、何マジになってんだよ(笑)」と言われるかもしれないが、小手先仕事で金を儲けよう、視聴率を稼ごうという作り手の不誠実な態度こそ、オカルトにとって最大の敵であり、そんな連中が作ったものにマジックが宿るはずもない。昭和オカルトブームの原動力とは何だったのか?過去の熱狂から何を学び、どうアップデートしていけば良いのか?そこを徹底検証しない限り、新たなるオカルト黄金時代の到来など、永遠に夢物語のままだろう。
「本気で夢中になれるオカルト番組」を最後に観たのはいつだったか……帰りの電車内、試写室入り口でいただいた来場者プレゼント「『緊急検証!』オリジナルスプーン」(数量限定)を見つめながら、再びそんなことを考えた。