SF

『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』レビュー!

2021年
監督:ザック・スナイダー
出演:ベン・アフレック、ヘンリー・カヴィル、ガル・ガドット、エズラ・ミラー、ジェイソン・モモア、レイ・フィッシャー、エイミー・アダムス、ジョー・モートン

無い物ねだりからの結実

長かった……本当に長かった(またかよ)。噂を耳にしてからリリースされるまでの歳月もそうだが、242分というランニングタイムがとにかく凄まじい。6つのパート+エピローグから成るこの異形の超大作は、ルックスといい語り口のネチッこさといい、どこをつまんでもザック・スナイダー監督の個性がプンプン。好き嫌いは分かれるだろうが、『マン・オブ・スティール』(13年)、『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』アルティメット版(16年)から続く「スナイダー流叙事詩的ヒーロー映画」が、ここで遂にトリロジーとしての完成を見たと言える。

今になって振り返ってみても、『マン・オブ・スティール』から始まったDCエクステンデッド・ユニバース(以下、DCEU)シリーズ展開の出足は、あまり快調とは呼べないものだった。メトロポリスのド真ん中で同郷人と派手なバトルを繰り広げたスーパーマンに拒否反応を示した観客は意外と多く、陰気くさい上に思い込みが激しいバットマン像も、万人受けを狙うには少々クセが強め。『スーサイド・スクワッド』(16年)が公開される頃には、現場とスタジオの間に生じた不協和音が外の世界にまで漏れ聞こえてくるようになり、そのへんのギクシャクした空気は本編からも確と感じ取ることができる。当時、既にシェアード・ユニバース形式での作品リリースを安定軌道に乗せていたマーベルとの比較で「DCは何をワチャワチャやっておるのか」と揶揄嘲弄されることも多かった。ライバル社の快進撃がDCEUの舵取りにどれほどの影響を及ぼしたかは不明だが、チームメンバーの顔見せ紹介を『ジャスティスの誕生』までに慌ただしく済ませてしまうという判断ひとつ取っても、どうにも基礎工事が甘いというか、万事を急ぎ過ぎていた感が否めない。

その後、パティ・ジェンキンス監督の『ワンダーウーマン』(17年)により、ようやく批評・興行両面で満足のいく結果を出すことができたDC。この勢いを、次の『ジャスティス・リーグ』でもキープしたまま更なる大成功……とはならないのが、映画作りの難しさか。スナイダー監督とワーナー・ブラザーズ、双方が納得できる形で素材を組み上げることが出来ぬまま、作業は難航。スナイダーの娘が自ら命を絶つという悲しい出来事もあって、彼はプロジェクトから離脱してしまう。スタジオは後任の監督として『アベンジャーズ』(12年)のジョス・ウェドンを招聘。大掛かりなシナリオの改稿、追加撮影、再編集を経て、120分の“小箱”にパッケージングされた『ジャスティス・リーグ』(以下、劇場版)は、「沈香も焚かず屁もひらず」な、所謂フツーの映画に仕上がっていた。

DCの名立たるヒーローが一堂に会したビッグイベント、それが「フツーの映画」などというショッパい立ち位置のままで終わってよいものか……劇場版に不満を抱いたファンからしてみれば、スナイダーが降板直前までいじくり回していたというオリジナルカット版実在の噂には、信憑性なんぞ度外視してでも飛びつきたいほどの誘引力があったに違いない。ファンによる署名活動に加え、映画業界内部からも『スナイダーカット』の公開を求める声が上がりはじめ、ムーヴメントは活性化。2019年、スナイダー自身がディレクターズカット版の存在を認めたことで、熱気は最高潮に達する。翌年には、本作がHBO Maxから2021年にリリースされることが決定。無い物ねだりから始まった動きが、定額制動画配信サービスによる公開という形で見事に実を結んだわけである。
 
こうして劇場公開作品に付きものの尺制限から解放された『スナイダーカット』は、長尺の利点をフルに活かしたコッテリ構成で、バトルスケールの拡張と各キャラクターの掘り下げにかかる。ステッペンウルフ率いるパラデーモン軍団とアマゾン族のマザーボックス争奪戦、異世界からの侵略軍vs地球守備隊&宇宙助っ人チーム連合の大激突、ストライカーズ島の地下におけるジャスティス・リーグの初戦や、敵の本拠を叩く第2ラウンド等々、全ての戦闘シーンが長く派手に。スナイダー監督お得意の可変速度効果も、スローモーション主体で増し増しになっている。

ドラマパートに目を向けてみれば、劇場版からオミットされたキャラクターや、あまり時間をかけて描かれることのなかった人物がここでは重要な役割を果たし、さらにはDCEU最初期から登場しているあの人の意外な正体が判明するなど、こちらも仕掛けが盛り沢山。ヒーローチームのバックストーリー説明にもかなりの時間が割かれており、特に現時点で単独主演作を持たないバリー・アレン=ザ・フラッシュと、ビクター・ストーン=サイボーグに関する描き込みは、劇場版と比較して格段に増強されている。悪役サイドでは、デザインが変更されたステッペンウルフの他に新たなヴィランが初お目見え。闇の陣営の力関係とブラック極まりない組織体質が鮮明になったことで、斥候隊長ステッペン様の中間管理職的悲哀も濃くなり、冷酷無比な悪の集団としての存在感や手強さがよりハッキリと見えるようになった。他にも、劇場版との違いがひと目で分かる改変部分から、いっぺん観ただけでは拾い損ねてしまうような細かい修正まで、全編にわたって施された“お直し”は枚挙にいとまがないほどだ。

ついでに言うならこの映画、編集・選曲・カラーコレクションといった、ポストプロダクション作業の重要性を知るための資料的価値も高い。同じ衣装や小道具、セットを使用して撮影された素材が、ポスプロの方向性次第でこうも違った形に組み上がるのかと、(頭では分かっているつもりでも)実際に見比べてみて改めて驚かされる。編集に興味をお持ちの方なら、劇場版と此度のバージョンを分解・再構築して、この世にひとつしかないファン・エディット版を拵えてみるのも面白いかもしれない(著作権が絡んでくるので、あくまで個人の趣味の範囲で、だが)。

最初は多くの人が身構えるであろう4時間超えの大長尺も、ペース配分は各自の気分次第。一気呵成に駆け抜けるもよし、あるいはTVのミニシリーズを観るような感覚で、数日かけて少しずつ味わうのもまた一興(現在は配信以外にも、DVD&Blu-rayが発売中)。これを劇場の大スクリーンで鑑賞することができないのは少々残念だが、そこは配信リリース前提のはずの本作が、アスペクト比4:3という一見ヘンテコな形式をとっている点を“伏線”と信じつつ、今後の展開に期待したい。観客を驚かせることが大好きなザック・スナイダー監督、これで終わりとコチラが油断しかけた頃合いに、何かとんでもない隠し玉を放ってくる気がしてならないのだ。

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