(2016年 監:アンソニー&ジョー・ルッソ 出:クリス・エヴァンス)
リベンジャーズ
あらすじ
ソコヴィアでの戦いから1年後。スティーブ・ロジャース=キャプテン・アメリカとヒーロー・チーム「アベンジャーズ」のメンバーたちは、秘密組織ヒドラの残党を拿捕するための任務についていた。だが、敵との交戦中に一般市民から犠牲者を出してしまった結果、アベンジャーズは世間からの非難の嵐に晒され、国連はヒーロー集団の活動を制限・管理する新規定「ソコヴィア協定」を締結する。平和維持活動にも規範が必要であると考えたトニー・スターク=アイアンマンは協定に同意するが、個々人の自由意志と良心を重んずるスティーブはこれに反発。正義のあり方を巡る対立でアベンジャーズの結束に綻びが生じかけたとき、ソコヴィア協定の調印式で起こった爆破テロ事件と容疑者の特定によって、チームの分裂はいよいよ決定的なものとなってしまう……。
レビュー
マーベル・コミックス原作の実写映画をクロスオーバーさせる「マーベル・シネマティック・ユニバース」プロジェクトの13作目(凄いな、オイ……)にして、『キャプテン・アメリカ』シリーズの第3弾。タイトルにキャップの名を冠してはいるが、お馴染みのマーベル・ヒーローたちが大挙して登場、加えてブラックパンサーや新生スパイダーマンまで初披露する過剰なまでのサービスぶりを見れば、これはもう『アベンジャーズ2.5』と呼んでしまっても差し支えないだろう。
『アベンジャーズ』(12年)とその続編『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(15年)だけでなく、各々の単独出演作でも地球存亡の危機を打開してきたマーベル・ヒーローたち。平時にゃ些細なことでケンカもするが、一朝有事の際は抜群のチームワークで敵を撃破する。その強さたるや、貧乏クジを引き当ててヴィランの席に座らされた連中がだんだん可哀想に思えてくるほどだ。もはや彼らと対等に戦える強敵を探し出すのも一苦労。そうかといって、アベンジャーズが茶を飲みながら延々ダベり倒すだけの日常映画を作るワケにもいくまい。「ここいらでチームの内輪揉めを描いておこうか」という製作陣の判断は、今後のシリーズ展開を考えれば最良のタイミング、的確な決定だと思う。
強大なパワーを持ったヒーローとて、メンタル面まで完璧超人とは限らない。失恋すれば心は痛むし、意見が衝突すれば人並々に腹も立つ。それぞれが超ド級の強さを誇る猛者揃い、一旦ケンカがおっ始まれば、甚大な付帯的損害を生み出すリスクは計り知れない。メル・ギブソン監督作『アポカリプト』(06年)の冒頭で示された「文明が征服される根本原因は内部からの崩壊である」という一文は、『シビル・ウォー』のテーマとも共鳴するものがある。盤石に見えた組織が文字通り内側から崩壊していく状況は、これまでにアベンジャーズが乗り越えてきたどのピンチよりも厄介なものだ。
本作で特に強烈な精神的揺さぶりを食らうのは、『アイアンマン』(08年)でマーベル・シネマティック・ユニバース大拡張の切っ掛けを作った鋼鉄CEO、トニー・スターク。大金持ちで頭脳明晰、モテモテの皮肉屋だが迷いや不安も多く、ハートはアイアンどころかガラス細工級の繊細さ。チーム分裂の危機に胃はキリキリ、親友が大怪我を負って激しく気落ちしたところに、いまだ克服できない過去のトラウマをエグい真相つきで穿り返されて遂にプッツン。利他的なアベンジャーだった男は、私怨の炎に身を焼かれるリベンジャー(復讐者)と化す。「激しい怒りで我を失うかも……」という懸念は、なにも超人ハルクに限った悩みではないのだ。
ヒーロー同士の対決企画には、観客の「どうせ最後には仲直り&共闘するんでしょ」という定石展開を見越した安心感が付いて回る。ところが『シビル・ウォー』は、そんなコチラの思い込みをアッサリと裏切り、物語終盤まで相当にシビアなムードを引っ張り続けてみせるのだ。しかも、マーベル作品に共通する「良い意味での軽さ」を随所に残したままで。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(14年)の高評価を受けて続投したアンソニー&ジョー・ルッソ監督は、今回もシリーズものの強みを最大限に活かしつつ、素晴らしい仕事をやってのけた。さすがに、いきなり本作を観た一見客がストーリーを追いかけるのは無理だと思うが(そりゃそうだ。1本30分弱のテレビアニメですら、13話から観始めて設定を完全理解するのは難中の難)、現時点で9年目の大プロジェクトだもの、受け手も横着するわけにはいきませんな。2018年より立て続けに公開される予定の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』二部作に備え、今のうちからシネマティック時系列をお浚いしておいたほうがよろしいかと。少なくとも、アルファ波出まくりな歴史学の講義なんかより、よっぽど愉しい勉強だと思いますよ、アタシは!