SF

『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』レビュー!

2021年
監督:ジェームズ・ガン
出演:マーゴット・ロビー、イドリス・エルバ、ジョン・シナ、ジョエル・キナマン、ピーター・キャパルディ、ダニエラ・メルキオール、デヴィッド・ダストマルチャン、マイケル・ルーカー、シルヴェスター・スタローン
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/thesuicidesquad/

※本作はR15+指定作品です

悪童帰還!バッドアスな痛快作

初めて目にした時には、ポスター用のキャッチコピーか何かだろうと思った「“極”悪党、集結」という文字列。これが邦題の一部であると知った瞬間、何たるセンスかと正直ゲンナリしたものだし、今でも違和感は払拭しきれていない。だが肝心の中身のほうはといえば、題名への不満なんぞ軽く吹き飛ばしたうえで、コチラのツボをいやらしいまでに突きまくってくれる超充実仕様。バカバカしさ、カッコ良さ、激しさ等々をありったけ盛り込んだ、バッドアスな痛快作だ。

『マン・オブ・スティール』(13年)、『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(16年)公開の後、DCエクステンデッド・ユニバース(以下、DCEU)の第3弾として発表されたのが、デヴィッド・エアー監督作『スーサイド・スクワッド』(16年)。ギャングや腐敗した警察の内情といった、ドロけた世界を生々しく描く手腕に定評があるエアー監督の抜擢、マーゴット・ロビー最大の当たり役となったハーレイ・クインの華麗なる銀幕デビューなど、勝算も成果も確かにあった意欲作であるが、編集作業段階で顕著になった監督とスタジオの方向性の不一致が、作品の仕上がり具合に影響を及ぼしていることもまた事実。興行的には立派な数字を叩き出したものの、「この先どうすんだ?」という大きな不安も残す結果となった。

エアーが続編企画から降り、ワーナー・ブラザーズは新たな監督探しに着手。せっかくオファーを出しても断られ、なかなか適任者が見つからない。そんな中、スカウトの網に引っ掛かったのが、過去の不適切ツイートが原因でディズニーに解雇されたジェームズ・ガンだった。オフビートなユーモア感覚、ドギツい暴力描写も厭わない(むしろ前のめりな)作風、おまけに『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズ(14年、17年)でブロックバスター超大作を撮れることも証明済み。「こんな適材が他にいるか?すぐに連れてきなさい!」ってなもんで、あれよあれよという間に契約成立。悪たれ部隊を再び世に放つための陣備えは、こうして最高の形で整った(『ザ・スーサイド~』の監督就任から程なく、ディズニーに「許された」ガンは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』3作目の監督にも復帰。ディズニーとの関係修復がもう少し早ければ、『ザ・スーサイド~』を手掛ける話はお流れになっていた可能性もある。まさにカミソリ・タイミングの奇跡)。

2016年版に引き続いて登場するキャラクターはチラホラと目につくが、DCEUが作品同士の繋がりをさほど重視しなくなったためか、人物造形も映画全体のトーンも以前とはだいぶ異なる。機構がサッパリ分からないけど滅法カッコいいブラッドスポートの武装スーツ、アメコミに登場するヒーローコスチュームの珍妙な味わいを敢えて露骨に表したピースメイカーのキャラデザなど、ゴリゴリのリアリティに拘泥しない姿勢や、「どうアレンジしようと変なものは変なので」という思い切りの良さが気持ちいい。そしてとにかく、バタバタと人が死ぬ。一斉射撃でハチの巣、頭部爆発、四肢裂き胴裂き、火だるま、咬み咬み、木口小平スタイル……全編が人体破壊の見本市のようなものであり、古参・新参関係なしに唐突な死が訪れ、しかもそれらの大半がギャグとして処理される。ここらへんは「悪趣味Z級映画の殿堂」トロマ・エンターテインメントで研鑽を積んだ“悪童”ガン監督の面目躍如たるところ。『ガーディアンズ~』で鳴りを潜めていた彼の特性がR指定畑で久々に炸裂し、「ああ、そういやこういう人だった」と、今更ながら思い出させてくれる。

涼しい顔で死体の山を築く一方、掘り下げ甲斐のある脇キャラについては、多少本筋から脱線してでも見せ場を作るのがガン流であり、それは大掛かりなアクションシーンに限った話ではない。孤独な腹ペコ鮫人間ナナウエが、アクアリウムの前で大はしゃぎする場面の可笑しさと物悲しさ。常時睡眠不足感を漂わせるネズ子ちゃんことラットキャッチャー2の暗い過去(ブラッドスポートとの間に父子のような絆が生じかけるも、彼女の特殊能力はブラッドスポートからすれば相性最悪……という設定が更に秀逸)。身勝手な母親のせいで人体改造を施されたポルカドットマンのトラウマと、彼の目を通して見る世界の常軌を逸したおぞましさ。効率的なストーリーテリングのみが重視される環境では短縮されるかマルっと省かれるかもしれないパートが、ここでは深い愛情をもって大切に扱われている(だからといって、「丁寧な人物紹介=身の安全の保証」とは全然ならないところがまた素敵だ)。

世界中の大きいお友達のために用意された戦闘シークエンスにも、ガン監督らしい毒気とツイストがタップリ。脚本担当作『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04年)でも使われたジム・キャロル・バンドの“People Who Died”が景気よく鳴り響く大殺戮シーンに始まり、レジスタンスのアジト急襲場面では、清廉潔白ヒーロー映画じゃ絶対に観られない「ゴアゴア早とちり掃討作戦」を展開。キービジュアルのひとつにもなった天気雨の中でのアクションは超暴力的でありながら幻想的、巨大宇宙怪獣との最終決戦においては緊張と弛緩のモード反転がハイテンポで行われる。我々の忌み嫌うナニが大挙して押しかけ、絶体絶命の危機的状況を打開するための切り札になってくれる場面では、強烈なビジュアル・インパクトにゾッとしつつも何故だか心温まるものを感じてしまう。スネに傷持つアンチヒーローたちが集結した物語の締め括りとして、これほど相応しい決着のつけ方というのも、そうそうあるまい。

これまでにも、日陰者やハミ出し者、人生において煮え湯を飲まされた者たちの活躍を好んで描いてきたガン監督。特に『ザ・スーサイド~』と『ガーディアンズ~』は会社こそ違えど、同じアメコミ原作映画でキャラクターの性質にも共通点が多い。「鋳型を使い回して似たようなモノを作ってるだけ」と謗られることも覚悟の上で企画に乗ったあたり、よほどこのテのお話に愛着があるのだろう。自らの軽率な行動が原因でドン底に堕ちた後、ファンや仕事仲間からの応援を受けてメインストリームに返り咲いた悪童は、今また一皮剥けた、というかズル剥けた感がある。毎日誰かの発言が炎上している世知辛い世の中ではあるが、これからも持ち前の絶妙なバランス感覚を活かして、不謹慎かつ胸アツな物語を作り続けてほしいものだ。

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