(1996年 監:マーク・ハーマン 出:ピート・ポスルスウェイト、ユアン・マクレガー)
威風堂々
炭坑閉鎖の危機に揺れる町・グリムリーを舞台に、炭坑労働者で組織されたブラスバンドとその家族たちの悲喜交々を描いた人間ドラマ。
日本公開当時、『トレインスポッティング』のヒットでユアン・マクレガーの知名度がアップしてきていたこともあって、彼の名を前面に押し出した宣伝が目立っていた記憶があるが、今になって観直してみると、物語の主軸はバンドの指揮者ダニーと息子フィルの親子劇だと気付く(ユアンも登場シーンは多いのだが、彼の担当は専ら、幼なじみであるグロリアとのラブストーリーのパート)。
ダニーは今では炭鉱労働から身を引き、隠居生活を送っている。バンドにかける情熱は人一倍強く、炭坑問題で気も漫ろなメンバーたちを何とか纏めようと必死だ。ところがフィルの生活環境は、バンド活動に打ち込むことなど許してはくれない。失業の危機に加え、十年前の組合ストで背負い込んだ借金が家計を圧迫し続ける。自宅にはスジ者が取り立てに現れ、家財をぶん捕っていく。貧しい毎日に結婚生活も風前の灯。追いつめられたフィルは、会社側の要求をのんで(満額の退職金を得るため)炭坑閉鎖に票を投じ、時を同じくしてブラスバンドも解散。父にとってバンドがいかに大切なものか分かってはいても、家族を路頭に迷わせる訳にはいかない。そもそも彼らがいくら抵抗したところで、炭坑の閉鎖は本社の方針で数年前に内定していたことだった。
そんな中、ダニーが病に倒れる。長年の炭坑労働は彼の体を確実に蝕んでいた。フィルとバンドメンバーはダニーのために一念発起、一度は解散したバンドを再結成し、彼の悲願である全英ブラスバンド選手権での優勝を目指す。
独特の演技と風貌を武器に『ユージュアル・サスペクツ』、『ザ・タウン』などで名バイプレーヤーぶりをみせたピート・ポスルスウェイトが、音楽一筋の頑固オヤジを好演。融通がきかないのに憎めない男だからこそ、晴れの舞台であるはずの場所で労働者たちの窮状を切々と語るラストは胸に迫るものがある。
言うまでもなく音楽も魅力的だ。『アランフェス協奏曲』から『ウィリアム・テル序曲』まで、映画のモデルになったグライムソープ・コリアリー・バンドが演奏協力した劇中曲は美しくも哀愁を帯び、作品のムード構築に一役買っている。ダブルデッカーで街を流しながら曲を奏でるバンドの姿は、演目同様「威風堂々」として観る者の瞳に映るはずである。