9月1日(金)公開のサバイバル・スリラー『ザ・ウォール』を先行レビュー!
[2017年 監:ダグ・リーマン 出:アーロン・テイラー=ジョンソン、ジョン・シナ]2007年、イラク。アメリカ兵のアイザックとマシューズは、砂漠での偵察任務中に敵の銃撃を受ける。まずマシューズが撃ち倒され、彼を援護しようとしたアイザックも脚に被弾。咄嗟に廃墟の壁の陰に身を潜めたアイザックだったが、頼みの綱である通信機は壊れ、手持ちの水も僅かしか残っていない。そして八方塞がりの状況の中、無線を通して語りかけてきた謎の声。アイザックはその声の主が、過去に何人ものアメリカ兵を射殺してきた伝説的スナイパー〈ジューバ〉だと確信する……。
製作サイドとモメにモメながら撮りあげた『ボーン・アイデンティティー』(02年)を大成功へと導き、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(14年)では天下の大スター、トム・クルーズを情け無用の殺害ループ地獄に放り込んでみせたダグ・リーマン監督が、『キック・アス』(10年)のアーロン・テイラー=ジョンソンと組んで放つワン・シチュエーション・スリラー。
「撮影期間は僅か2週間、予算300万ドル、メイン・キャスト3名(うち1人はほぼ声のみ)」とだけ聞くと、「リーマン、ひょっとして干されてるの?」なんて勘繰りもしてしまいそうになるが、9月末に全米公開される監督最新作『バリー・シール/アメリカをはめた男』(17年)は、再度トム様を主役に据えた製作費ウン千万ドルの大作映画。もともとは自らカメラを担いでサクサク撮り進めていくようなスタイルが性に合っている人なので、久方振りにビッグ・バジェットの軛から解放されてノビノビ撮影してみました、といったところだろう。
さて、本作に登場する「実在の」凄腕スナイパー〈ジューバ〉についてだが、現在に至るまで、その正体はハッキリしていない。イラク・イスラム軍に属し、アメリカ兵37人を狙撃・殺害したとされているものの、1人なのか複数人であるのかも定かではなく、その後の生死も不明。
モデル自体があまりにミステリアスな存在であるため、映画の中で描かれる〈ジューバ〉にも、「血と肉を持った生身の人間」というイメージから遊離した、やや超自然的な雰囲気がある。狙撃手同士の攻防戦を扱った過去作品よりも、『激突!』(71年)や『フォーン・ブース』(02年)、あるいは『ゾディアック』(07年)のような、「顔のない幽鬼」に翻弄される人々の姿を追ったサスペンス映画の影響が濃いのだ(そして時おり挿入されるスコープ越しの〈ジューバ〉一人称視点は、『ヒルズ・ハブ・アイズ』(06年)の食人一族がターゲットを観察していた際の「丘の眼」を彷彿させる)。今にも崩壊しそうな壁を挟んで睨み合う狙撃手と標的、このシンプル極まりない限定空間に、様々なジャンルの映画から頂戴してきたハラハラ要素をドンドコ詰め込んでくるあたり、リーマン監督もなかなかの欲張りさんである。
約90分という上映時間のほとんどが、圧倒的有利なポジションでイモる〈ジューバ〉に主導権を握られたまま進行していくため、マン・ハント映画最大の盛り上げ要素である攻守逆転のカタルシスはかなり薄味。大手スタジオなら即座に却下されたであろう終盤の展開は、賛否が分かれて当然だ(もしかしたら、ソフト化の暁には「もうひとつのエンディング」なんてものが特典収録されるかもしれない)。だが、夏休みシーズンの大型娯楽作品ラッシュにもそろそろ食傷……といったタイミングならば、こういった異色作をつまんでみるのもまた一興。第一、WWE界のスーパースター、ジョン“肉弾凶器”シナが熱々の砂地に突っ伏したままの映画なんて、そうそう観られるもんじゃゴザンセンから!!
監督:ダグ・リーマン 脚本:ドウェイン・ウォーレル(『デンジャー・コール』)
キャスト:アーロン・テイラー=ジョンソン(『キック・アス』『GOZZILA/ゴジラ』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』)