(1993年 監:クリス・コロンバス 出:ロビン・ウィリアムズ、サリー・フィールド)
狂気と愛は紙一重
夫・ダニエルの奇行に悩まされ続けてきたインテリアデザイナーのミランダは、遂に離婚を決意。法廷争いの末に、三人の子供たちの養育権を手に入れた。仕事で家を空けることも多いため、家政婦募集の広告を新聞に掲載するミランダ。採用された老婦人のミセス・ダウトファイアーは子供たちともすぐに打ち解け、ミランダも心を許していくが、家政婦には隠された素顔があった。実はダウトファイアーの正体はダニエルで、ストーカー行為の隠れ蓑として、特殊メイクで女性に化けていたのだ……。
抱腹絶倒コメディ映画として名高い本作にはおよそ似つかわしくないあらすじに思えるであろうが、実際のところ、このまんまのお話だ。ミランダの視点から物語を描き直せば、中盤までは『サイコ』(60年)や『殺しのドレス』(80年)と同系のサスペンス・ホラー映画になるだろう。いや、現状のままでも結構コワい。どう見たって品の良さそうなおばあちゃまが、突然野太い声で悪態をついたり、真っ黒な毛ずねをチラリさせたり、立小便をかましたりするのだから。そもそも、ロビン・ウィリアムズという俳優の目つきは時々ものすごく酷薄そうな光を帯びていることがあり、熱演すればするほど、その光も輝きの度合いを増していく。彼のコメディ演技が、しばしば狂気と絡めて評されるのはその辺の理由もあるのだろう。
ダニエルの願いはただ一つ、子供たちのそばにいること。そのためには外見を変え、身分を詐称し、求人広告の文案に細工を加える。ミランダに「虫」が寄り付けば自分の居場所が無くなってしまうからと、新恋人(五代目ジェームズ・ボンド役に起用される以前のピアース・ブロスナン!)を半死半生の目に遭わせたりもする。もしもコメディ映画の敷地外に立たされたなら、笑っていられないほどキワドい所業の数々だが、一つの目標を達成するべく全力でコトに打ち込む人間の姿というのは、得てして常軌を逸しているように見えるものではなかろうか?最終的にはダニエルの強い想いが子供たちに通じたからこそ、全てが露呈した後も彼らは父親を求める。深い愛情と狂気とは、薄皮一枚で隣り合って存在するのだ。
ついでに日本語吹き替え版についても言及しておくと、『アラジン』(92年)でロビン・ウィリアムズの声色七変化&マシンガントークを見事に表現してみせた山寺宏一氏が、本作でもそのテクニックを余すところなく発揮している。コメディ映画、しかも話術で笑いを取るタイプの役者が主人公の作品でここまで原語版のテイストを再現できる声優さんはそうそういまい。
本作は批評・興行ともに大成功をおさめ、続編制作も検討されていたらしいが、昨年の8月11日、主演俳優のウィリアムズが自ら命を絶ったことにより、その企画も幻となってしまった。ラストで聞こえる「バイバイ」の響きが、今はどこか物悲しい。