映画『ターミネーター2 3D』をレビュー
劇場で、VHSで、LDで、DVDで、Blu-rayで、リバイバル上映で……もう何度観たか分からない本作を、映画館の大スクリーンで再鑑賞しながら思った。
『タイタニック』(97年)で「世界の王」になろうと、『アバター』(09年)が史上最高の興行収入記録を樹立しようと、ジェームズ・キャメロン監督の映像支配力が最もバランスよくパワフルに打ち出された作品は、やはり『ターミネーター2』(以下、『T2』)をおいて他にはないのでないか、と。
約600万ドルという低予算で製作されながら、巧みなプロットとSFマインドで観客の心を掴んだアクション映画『ターミネーター』(84年)。その7年後に公開された続編には、1億ドルを超える巨額のバジェットと新時代の視覚効果技術が投入され、当時絶頂期を迎えていたアーノルド・シュワルツェネッガーの人気にも後押しされて映画は大ヒットを記録。そして此度、オリジナル版を4K解像度のデジタル・データに変換し、そこに最新の3D効果を加えるという大掛かりな御色直しを経て、不滅の革ジャン野郎がめでたくスクリーンに帰ってきた。
とはいえ、初公開から26年、精緻なCG表現やアニマトロニクス技術に慣れきった観客の目には、本作で用いられたエフェクトが5インチのフロッピーディスクと同等の遺物として映ったとしても不思議はないはず。たかだか数年前に作られた映画でさえ、久々に観返した際に映像技術の瑕疵に気付かされ、「あれ……こんなだったっけ?」と首を傾げてしまうことが多々あるのだから。ネット上の映画批評などでよく目にする「思い出補正」なんて言葉の意味を、『T2』劇場鑑賞で思い知る羽目に陥ったとしたら……初公開当時、激しい尿意と闘いながら(137分という上映時間は、8歳の筆者の膀胱にとってはなかなかの長尺だった)それでも物語に没入し、最後には座席で感動の涙を流していた自分に、根性直しのビンタをお見舞いしたい気分になっていたかもしれない。
だが、公開初日にほぼ満席の劇場で観た『T2 3D』は、その輝きを何ら失ってはいなかった。
プラズマ・ライフルを構えた銀色骸骨が仁王立ちで登場した途端、こちらは早くも極楽気分。スクリーン・プロセスやミニチュアといった昔ながらの特撮技術を駆使して描かれる未来戦争の場面は今観ても、否、今観るからこその新鮮味に溢れ、ライヴ・アクションを中心に構築された数々のチェイス・シーンは圧倒的臨場感で観客席に迫ってくる。特筆すべきは、立体的構図を多用した画面構成と3D効果の相性の良さで、3D映像に対する強いインタレストが『アバター』を撮るはるか前からキャメロン監督の中にあったことが窺える(実際、キャメロンがユニバーサル・スタジオのアトラクション用に『ターミネーター2:3-D』を作り上げたのは1996年)。これまで不完全だったケーブルやピアノ線の除去精度アップ、デジタル技術によるスタン
トマンの頭部挿げ替え、といった細かい修正も加えられ、現時点ではまさに最高品質の決定版。何年か前にフィルムセンターで観た、経年による退色・コマ飛びだらけの『T2』とはダンチの鮮やかさだ。
技術面での称賛ポイントばかりを並べてしまったが、時代を超えて愛され続ける映画に共通しているのは、何といっても強靭なストーリーである(話の辻褄とか設定のアラとか、そういうセセコマシい問題をクリアすれば名作になるのか、といえば全くそんなことは無い)。魅力的なプロットが主柱となり、そこに然るべきキャラクターを立て、各部門の緊密な協力体制があって初めて傑作が生み出される。「もはや、お金と時間をかければ映像化不可能なものなど無い」とさえいわれる今だからこそ、作り手が真剣に向き合って対処しなければならない問題だ。今回「思い出補正」の壁を軽々と超えてみせた『T2 3D』には、3D技術による補強以前に、そういった強靭さが確かに備わっていた。1991年から2017年にタイムスリップしてきた「最新作」、テクノロジーに耽溺することへの警鐘も含め、この映画が我々に与えてくれるものはまだまだ沢山ある。