中村航の青春小説が実写化!映画『トリガール!』を先行レビュー
[2017年 監:英勉 出:土屋太鳳、間宮祥太朗、高杉真宙、池田エライザ、矢本悠馬]
一浪の末、雄飛工業大学に入学した鳥山ゆきな。
華やかなキャンパスライフを夢想していた彼女は、オタク気質のメガネ男子がひしめき合う「理系大の現実」に打ちのめされていた。そんなゆきなに、人力飛行サークル〈TBT〉に所属するモテ系メガネの高橋先輩が声をかける。イケメンからの勧誘に乗せられてホイホイと入部したゆきなだったが、パイロット班でコンビを組むことになったのは、TBTきっての問題児・坂場大志。顔を合わせればケンカばかり、相性最悪のゆきなと大志は、それでも夏に琵琶湖で開催される「鳥人間コンテスト」でのフライト目指して猛特訓を開始するのだが……。
中村航の同名小説(角川文庫刊)を、『ヒロイン失格』(15年)の英勉監督が実写映画化した青春コメディ。近年、映画やテレビに引っ張りだこの土屋太鳳が、流されやすくも威勢のいい主人公・ゆきなを演じている。
実は試写状を戴いた時、真っ先に感じたのは期待でも興奮でもなく、強烈な地雷臭だった。
若手俳優の顔を並べた新味の無い構図に、青春モノのテンプレみたいなブルー&ピンクの配色(もはやデザインが良いか悪いかの問題ではなく、食傷から来るアレルギーに近い)、そして何といっても、「監督:英勉」の表記(読みは「はなぶさ つとむ」。以下、エーベン)。観る前からダメと決めつけるのはあまり褒められた姿勢ではないが、少なくともこの監督の過去タイトルを俯瞰するかぎり、胸いっぱいの失望感と共に試写室を去ることになる可能性は相当に高いと踏んだわけである。ところが上映開始からしばらくすると、想定外の感覚が心に沸き起こってくるのを感じた。「あれ、ひょっとして……今回はアタリじゃないの?」。
『ハンサム★スーツ』(08年)から『ヒロイン失格』(15年)まで、さんざっぱらゲンナリさせられたエーベン監督独特の演出スタイル(というか悪癖)は、本作でも完全には取り払われていない。ダダ滑りするギャグ、効果音で補強された大げさ演技、紋切り型の「キモい人々」描写……とりわけ、モブの大多数を占めるメガネ男子の描き方などは、同じくメガネ着用生活を送る筆者にとっては不快ですらある(得体の知れない珍獣感も含めて、こいつら何かに似ているな……と思ったら、『怪盗グルー』シリーズ(10年~)に登場する黄色いアレ、ミニオン軍団だ)。ならばモテ系メガネ枠はマトモか、といえば全然そんなことは無く、やたらと馴れ馴れしくゆきなの肩に手を置いてくる高橋先輩はミステリアスを通り越してひたすら不気味だ。
こいつのポーセリンみたいな微笑を見ていると、少女漫画を原作にしたエーベン監督作『高校デビュー』(11年)で「俺のこと、絶対に好きになるなよ」なんてタワケた台詞を真顔で吐いていた溝端淳平の姿がフラッシュバックする。オソロシやオゾマシや。
こんな具合に、ともすればクリシェまみれの大惨事に至っていたかもしれない映画『トリガール!』だが、目下ブレイク中の土屋太鳳が持つ「旬のスターの輝き」が窮境を救ってくれた。快活で抜けが良い彼女のパブリックイメージは、元気を絵に描いたようなゆきなのキャラ性にピッタリ。漫画チックな顔面演技も大仰な台詞回しも、太鳳ちゃんというフィルターを通すとかなり口当たりが良くなるのだから不思議である。
ゆきなと大志の掛け合いの大部分は怒鳴り芝居で進行していくのだが、ここも配役の如何によっては、胃もたれ必至の厳しいシークエンスになっていただろう。1個のピースが然るべき場所にカッチリとハマれば、それが周囲の事象にも思いがけない好影響を及ぼしていくことがあるのだ。
エーベン印ともいうべき、抽象を具体で見せる過剰にデコラティヴなCG(特に物語の序盤で大量にブッ込まれることが多い)は、この物語には似つかわしくないとの判断からか、今回は控え目。何より、あまり余計な要素を加えずとも十二分に魅力的な「鳥人間コンテスト」は、映画のクライマックスを描くには絶好の舞台である。エンドクレジットを飾る、4人組ガールズバンド・ねごと(NEGOTO)カヴァー版「空も飛べるはず」も耳に心地よい。本作とほぼ同時期に公開予定の『あさひなぐ』(17年)がどう仕上がっているのかは不明だが、現時点ではこの『トリガール!』こそが、エーベン、否、英勉監督のベスト・ワークと言い切ってしまってもいいだろう。