映画レビュー

『ワン・モア・ライフ!』イタリア発・人生やり直しエンターテインメント、先行レビュー!

2019年
監督:ダニエーレ・ルケッティ
出演:ピエールフランチェスコ・ディリベルト(ピフ)、トニー・エドゥアルト、レナート・カルペンティエーリ、アンジェリカ・アッレルッツォ
公式サイト:https://one-more-life.jp/

まさかの人生ロスタイム、自己中オトコは何を成す???

シチリア島・パレルモ。自己中で浮気性の中年男パオロは、スクーターで赤信号をすり抜けようとしたところを車にはねられ、即死した。つまらない死にざまと予想外に短い寿命に不満タラタラのパオロが、天国の入り口で役人に異議申し立てをした結果、ライフ計算システムに反映されていないデータが見つかったことで、寿命延長の裁定が下される。「これで死なずに済む!」と喜ぶパオロだったが、オマケで加算された寿命はたったの92分間。このシビアすぎる制限時間内に、それまで勝手気ままに生きてきた男が家族の絆を取り戻し、人生の意味を見つけ出すことはできるのか……?

『我らの生活』(10年)、『ローマ法王になる日まで』(15年)のダニエーレ・ルケッティ監督による、フランチェスコ・ピッコロのベストセラー小説を基にしたコメディ映画(ピッコロはルケッティ監督と共に、本作の脚色も担当)。『マフィアは夏にしか殺らない』(13年)で監督としても高い評価を得た“ピフ”ことピエールフランチェスコ・ディリベルトを主役に据え、本国イタリアで大ヒットを記録した人情喜劇である。

一時期、ライトノベルや漫画、TVアニメ等の媒体において急速に市場規模を拡大させたのが“異世界転生”というジャンル。不慮の事故により死亡した主人公が、至高の存在からのスーパーパワー贈呈(あるいは地道な自己鍛錬)を経て、剣と魔法の世界で大活躍……斯様な膳立てから始まるお話が無数にある中で、特に「自動車との衝突」が死亡原因に設定されているケースはやたらと多い。あまりに使用頻度が高すぎて、最早「遅刻しそうな食パン少女」と並び愛される約束事になった感さえあるこのイベントが、なんと『ワン・モア・ライフ!』冒頭でも景気よく発生。バカで迂闊で同情の余地ゼロなパオロの死にっぷりを通して、この先どういうスタンスで物語を追えば良いのかが何となく見えた……ような気がしてくる。

めでたく(?)身罷ったパオロが向かうのは、次から次へとやってくる死者でゴッタ返す役所。すわ、チート能力と新たなガワをもらって異世界に転生か……と思いきや、イタリアの天国はラノベ的サービス精神とは無縁のようで、パオロは元の中年ボディのまま、サッカー試合のフル観戦にも事欠くロスタイムライフを駄賃に、さっきまでいたパレルモの街へと戻されてしまう。この天国入り口におけるシークエンスは、融通がきかない役所の描写といい(現世も幽世も、お役所手続きの煩わしさは変わらぬ模様)、パオロにオマケ人生が与えられる理由となったデータ内容のバカバカしさといい、どことなく『クリムゾン 老人は荒野をめざす』(83年)や『未来世紀ブラジル』(85年)などのテリー・ギリアム作品に通ずるシュールな雰囲気があって面白い。お目付け役としてパオロに同行する天国の役人(演じるは『ナポリの隣人』〈17年〉のレナート・カルペンティエーリ)も、杓子定規的なタイムキーパーと見せかけて其の実ミョーにくだけた側面を持つキャラクターであるため、「これは風変わりなドタバタ相棒モノとして楽しませてもらえるかも」と、なかなかに期待が膨らむ。

しかしその後の物語は、「白髪が増えても根は中学生」な筆者の予想を超えて、多分に哲学的かつ哀切ですらある方向へと進み始める。このパオロという男、友人関係や女性関係については確かにだらしない部分が目立ち、家族に愛想を尽かされる理由も分かるのだが、同時に呆れるほど凡庸で、せっかくのロスタイムを要領よく活用できるような機知や小賢しさは持ち合わせていない。この限られた時間をどう使ったらよいものかと主人公が慌てふためいている間に、時計の針は無情に進んでいくばかり。天国の役人にアドバイスを求めてみても「運命は決まっている。あまり無駄な悪アガキをしなさるな」と、涼しい顔で返されてしまう。序盤で「大体こんな感じの映画でしょ?」と理解したつもりでいたのが、どうやらとんだ早合点だったらしいと、鈍い筆者でもさすがに気付く。

そういえば、FOXテレビの人気アニメ『ザ・シンプソンズ』にも、フグ毒にあたって余命いくばくもないと思い込んだボンクラ親父のホーマーが、残された人生を有意義なものにしようと盛大に空回りするエピソードがあった。あちらには30分弱のTV番組ならではのスピード感と、アニメという表現方法を活かした風刺の鋭さ、面白おかしさがテンコ盛りであったが、『ワン・モア・ライフ!』の場合は“黄泉がえり”という大ハッタリ・カードを除けば、その他のミラクル風味は驚くほど希薄だし、「冴えない主人公が土壇場で突如ヒーローに変貌する」といったご都合主義的展開もない(パオロの回想シーンが随所に挿入されているあたり、切迫するタイムリミットで話を盛り上げようという意思も、作り手側にはハナから無い様子)。荒唐無稽で何でもアリの展開にすることだってできたはずだが、ルケッティ監督は「それでは観客と物語の接点が断たれてしまう」と判断したのだろう。身から出た錆を清算するには時間が足りない、さりとて決められた運命とやらに身を委ねても、状況は何も変わらない……追い込まれたダメ中年は、最後の最後でついに思い切った行動に出る。ヤケクソ気味の無謀なチャレンジであるにも関わらず、この優柔不断な男が(方法はどうあれ)ようやく自分の手で運命を切り開こうとする意志を見せたことで、不思議とホッコリさせられる。

当然のことながら、普通は死んでしまえばそこで人生一発退場であり、たとえ僅かばかりの執行猶予がついたとしても、それまでの日々を散々舐め腐って過ごしていたら焼け石に水。数十年分の信頼損失を90分チョイで挽回できるならば、誰も苦労などしやしないだろう。本作のメッセージを敢えて文字に起こすならば「日頃から他者と真摯に向き合い、誠実に生きましょう」といったところか。何を今さら、と思ってしまうほどの陳腐な理だが、現実に目を向けてみれば、これを実践できていないヤカラのまぁ多いこと多いこと。一片の疚しさも感じずにパオロを非難できる廉潔な人というのも、実は意外と少ないのかもしれない。

【映画『ワン・モア・ライフ!』は3月12日(金)より、
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開】

※新型コロナウイルス(COVID-19)感染症流行の影響により、公開日・上映スケジュールが変更となる場合がございます。上映の詳細につきましては、各劇場のホームページ等にてご確認ください。

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