2020年
監督:ロッド・ルーリー
出演:スコット・イーストウッド、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジャック・ケシー、マイロ・ギブソン、オーランド・ブルーム
公式サイト:https://klockworx-v.com/outpost/
360度逃げ場なし。決死の攻防戦
2009年、アフガニスタン北西部。3つの山の麓に位置するキーティング前哨基地では、数十人のアメリカ軍兵士が守備任務についていた。思うように進まない地元部族の長老たちとの交渉や、タリバン兵による散発的な奇襲に悩まされながらも、任地での作業に従事する兵士たち。だが彼らの多くは、基地の防御面における致命的な欠陥に言い知れぬ不安を感じていた。そして10月3日の早朝、砦を包囲する形で現れたタリバンの精鋭部隊およそ300人が、ついに大攻勢をかけてくる。これこそ守備隊が最も恐れていた、逃げ場なし、360度全方位からの猛攻撃。かくして、米国陸軍史上最大の悪夢といわれる14時間の激戦が幕を開けた……。
『ザ・コンテンダー』(00年)のロッド・ルーリー監督が、アフガニスタン紛争で最も過酷な戦闘のひとつとされる“カムデシュの戦い”を映像化したミリタリー・アクション大作。出演は『パシフィック・リム:アップライジング』(18年)のスコット・イーストウッド、『スリー・ビルボード』(17年)のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、『ブラックホーク ダウン』(01年)のオーランド・ブルームなど。
2001年10月に始まり、今なお続くアフガニスタン紛争。アフガンに駐留する米軍やその他の外国部隊の規模は一時期に比べればだいぶ縮小されており、アメリカとタリバンによる和平協議が進められる中で、駐留軍の完全撤収という選択肢が以前より現実味を帯びてきた感があるが、世の揉め事の大半が「始めるは易く、終わらせるは難し」。ようやく締結に至ったはずの和平合意も、履行条件を満たしているか否かの意見対立があり、コトは円滑には進みそうにない。本作にも、地元住民とタリバンの繋がりを絶つべく、基地の指揮官が飴と鞭でもって長老たちを懐柔しようとするシーンがあるのだが、ここでのどうにも噛み合わない会談内容から、問題の根深さがありありと見えてくる。旧ソ連軍だろうと米軍だろうと、地元民からしてみればどちらも「自分たちの土地で我が物顔にふるまうヨソ者」であり、とりあえずの握手を交わしたところで、積もり積もった反感がそう簡単に溶けて無くなるわけではない。こうなると一触即発、粉塵漂う坑道を火のついたロウソク片手に進むようなもので、大爆発の危険は常に付きまとう。
この映画の特徴は、基地での平穏な生活から戦闘シーンへの転換が唐突で、しかもそれが劇中何度も繰り返される点である。米兵同士の他愛無い会話や、ユルい雰囲気漂う偵察任務の途中にいきなりバトルが割り込んでくるため、ひらけた場所で誰かが何の気なしに立っているだけのショットでも「おいソコ、危ないぞ!」とハラハラさせられる。タリバン側の作戦行動が細かく描かれるわけではないが、断片的に示される情報からは、彼らが密かに砦の様子を窺い、攻撃のチャンスを虎視眈々と狙っていることが推察できるので、比較的静かな場面でも緊張感が途切れぬままストーリーが進行していくのだ。戦争映画にありがちな「兵舎にいる間はひとまず安全」という暗黙のルールも、ここでは効力がかなり弱く、盤石の安心材料とはならない。いつ何時襲われるか分からない守備隊の不安を観客にも味わわせるようなこの作り、ミリタリー映画としてなかなかユニークな構造だ。
そして、登場人物たちの神経も相当すり減ってきたであろう頃合いに、とうとう始まる決死の攻防戦。『プライベート・ライアン』(98年)以降のスタンダードとなった手持ちカメラ撮影、迫真のサウンドデザインは本作でも威力を発揮しているが、そこに長回しショット(デジタル・スプライシングによる擬似的なものも含む)が加わることで、「建物の角を曲がったらそこに敵」のような恐怖感、臨場感がより増強されている。また一方では、水溜りならぬオイル溜りに爆撃機の機影が映る、といった、S・スピルバーグ監督なんかが好んで用いそうな気の利いたワザをさりげなく放ってくるあたり、カオティックなシーンの演出にも妙な余裕が漂う。リメイク版『わらの犬』(11年)が失敗に終わってからは、主な活動の場をTVシリーズ畑に移していたロッド・ルーリー監督、久々の劇場用長編映画でも確かな手腕を見せてくれているのが嬉しい(『ザ・クリミナル 合衆国の陰謀』〈08年〉に続き、作品の完成度とは全く関係ない要因に興行を阻害されてしまったことは、気の毒としか言いようがない)。
キャストについて言及しておくと、クレジットタイトルでトップにいるのはロメシャ二等軍曹に扮するスコット・イーストウッド。言わずと知れた巨匠クリント・イーストウッドの息子であり、年齢を重ねるごとにお父上ソックリになっていく眉目秀麗な二枚目俳優だが、本作での役回りは「一見軽薄そうでもヤル時ゃヤル兵士」のステレオタイプを忠実に踏襲したものであるため、危なげないが面白味も薄い(因みにこの映画、スコット以外の出演者にも、メル・ギブソンやミック・ジャガーの息子さん、リチャード・アッテンボローやアラン・アルダのお孫さん等々、2世・3世俳優が結構多い。バーター登用規約でもあるのだろうか)。映画の美味しいところをさらっていくのは、カーター特技兵役のケイレブ・ランドリー・ジョーンズのほうだ。斜に構えた態度のせいでチーム内でも微妙なポジションにいたカーターが、仲間がバタバタと倒れていく状況下で見せるガンギマリ顔と火事場の馬鹿力は、大規模戦闘シーンにおけるもう一つの見モノ。今後もますます芝居のレパートリーを広げていきそうな注目俳優である。
【映画『アウトポスト』は3月12日(金)より、
新宿バルト9ほかにて全国ロードショー】
※新型コロナウイルス(COVID-19)感染症流行の影響により、公開日・上映スケジュールが変更となる場合がございます。上映の詳細につきましては、各劇場のホームページ等にてご確認ください。
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