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『カポネ』史上最も悪名高き「暗黒街の顔役」……その最晩年を描いた野心作、先行レビュー!

2020年
監督:ジョシュ・トランク
出演:トム・ハーディ、リンダ・カーデリーニ、マット・ディロン、カイル・マクラクラン、ノエル・フィッシャー、ジャック・ロウデン
公式サイト:https://capone-movie.com/
※この映画はR15+指定作品です

監督の実体験が反映された異色ギャング映画

1920年代、禁酒法時代のシカゴで権勢を誇っていた「暗黒街の顔役」アル・カポネ。しかし、脱税の罪で獄に下った彼がようやく服役を終えたとき、梅毒と認知症の進行によって、かつての威光はすっかり失われていた。フロリダ州の大邸宅に移り住んだカポネは、愛妻メエや友人たちに囲まれて穏やかな隠遁生活を送っていたが、今なおカポネを危険視するFBIは、彼が収監前にどこかに埋蔵したとされる1000万ドルもの隠し金の行方を突き止めるため、執拗な監視活動を続けている。日ごとに悪化していく病状、募る一方の疑心。やがて現実と悪夢の区別すらつかなくなったカポネは、二度と浮かび上がることのできない狂気の淵へと沈んでいく……。

『クロニクル』(12年)のジョシュ・トランク監督が、『ヴェノム』(18年)のトム・ハーディをアル・カポネ役に据えて創り上げた伝記映画。過去に幾多の映画で描かれてきた「人生絶頂期のカポネ」ではなく、老いて落魄した元帝王の晩期にスポットを当てた、実験的ともいえる作品だ。

“カポネ”と聞いて、多くの映画ファンが真っ先に思い浮かべるタイトルといえば、やはりブライアン・デ・パルマ監督の『アンタッチャブル』(87年)であろう。ロバート・デ・ニーロが肉襦袢を着込み、頭髪を剃って演じた闇の支配者は、なるほどデ・パルマが渋るスタジオを説き伏せてキャスティングしただけのことはあり、憎々しくも魅力的なヴィランとして作品の質を高めている。ここでは、デ・ニーロ=カポネが大して面白くもない冗談やたとえ話を口にするたび、部下も記者も盛んに相槌を打ち、これ見よがしの追従笑いで顔を飾り立てるのだが、汚職と暴力がはびこる街で異常なほどにチヤホヤされるギャングの首領の姿は、エリオット・ネス率いるチーム“アンタッチャブル”の敵がどれほど手強く近付き難い存在であるのか、ということを強烈に印象付けていた。

『カポネ』で描かれるのは、『アンタッチャブル』のラストシーンから十数年が経過してからの物語。『ゴッドファーザー』(72年)の隠居したヴィトー・コルレオーネよろしく、子どもたちと鬼ごっこに興じるカポネは、妻や気の置けない仲間たちからは「フォンス」の愛称で、可愛い孫娘には「じいじ」と呼ばれて優雅な余生を送っているように見えるが、その容姿は40代後半とは思えぬほどに老け込み、病気の影響で言動もかなり怪しくなっている。誰もが羨むような豪邸暮らしも、蓄えを切り崩しながら辛うじてキープしているに過ぎない。この邸宅内で展開するストーリーが本作の大半を占めており、それはつまり、カポネがとうの昔に消え去った帝国の残滓と共に自壊していくありさまを、104分かけてじっくり見せつけられるという「超イヤなツアー」でもある。いくら希代の大悪党であっても、栄華を極めた人物が尾羽打ち枯らしていく様子というのは観ていて結構ツラい。しかも、特殊メイクでカポネに変身したトム・ハーディが、時おりデ・ニーロを彷彿させる顔つきになることもあって(特に似ているのが、『フランケンシュタイン』〈94年〉で名無しの怪物に扮した際のデ・ニーロ)、観ているこちらは「別個の存在であるはずの『アンタッチャブル』版カポネからの凋落」という構図をついつい意識させられてしまう。

そして、本作の監督を務めたジョシュ・トランクといえば、長編映画デビュー作『クロニクル』の世界的大ヒットで期待の新星と称揚されながら、続く『ファンタスティック・フォー』(15年)の現場トラブルと興行的沈没により信頼喪失、内定していた監督企画からの降板を余儀なくされる……という、絵に描いたような「栄光と挫折」の経験者。インタビューで「低迷期に自分が味わった無力感、疎外感をシナリオに反映させた」と語っているだけあって、廃人同然となったカポネをただ悪因悪果の枠に押し込めるような描き方はしていない。粗暴で頑固な性格や、過去に犯した筆舌に尽くしがたい残虐行為の一端を見せつつ、そんな男にも哀れむ余地はあるのだと、精一杯の擁壁を張り続ける。この眼差しがトランク監督の苦い体験から育まれたものならば、誰得扱いのまま葬られてしまった『ファンタスティック・フォー』も、少しは浮かばれるというものだ。

惜しむらくは、カポネの仮病を疑いながら彼を追い続けるFBIサイドの存在感があまりに希薄なこと。『スカーフェイス』(83年)のようなケバケバしい成り上がり描写も派手な抗争シーンも無い本作にとって、この描き込み不足はなかなか大きなマイナスである。捜査官に扮したジャック・ロウデンや、FBIの犬に成り下がる医師役カイル・マクラクランなど、せっかくの芸達者俳優が不完全燃焼気味で、ピカレスク・ロマンにおける“敵”の魅力を十分に発揮できているとは言い難い。目のつけどころが面白かっただけに、ここは脚本も兼任したトランク監督の「もうひと踏ん張り」を見せてほしかった部分だ。

【映画『カポネ』は2月26日(金)より、
新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて順次公開】

※新型コロナウイルス(COVID-19)感染症流行の影響により、公開日・上映スケジュールが変更となる場合がございます。上映の詳細につきましては、各劇場のホームページ等にてご確認ください。

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