ドラマ

『復讐者たち』標的は600万人のドイツ人……史実を基にした衝撃サスペンス、先行レビュー!

2020年
監督:ドロン・パズ、ヨアヴ・パズ
出演:アウグスト・ディール、シルヴィア・フークス、マイケル・アローニ、イーシャイ・ゴーラン
公式サイト:https://fukushu0723.com/

辿り着いた「もうひとつの復讐」

1945年。ホロコーストを生き延びたユダヤ人のマックスは、収容所で離ればなれになった家族を探す放浪の旅を続けていた。しかし、旅の途中に立ち寄った難民キャンプで突きつけられたのは、妻子がナチスによって殺されたという非情な現実。絶望し、復讐心を滾らせたマックスは、イギリス軍指揮下のユダヤ旅団に加わり、ナチス残党を密かに処刑する活動に身を投じる。そんななか、とある作戦遂行中にマックスの前に現れたのが、極めて過激な報復活動を行うことで知られる武闘派組織“ナカム”。彼らを危険視するユダヤ人グループは、マックスをスパイとしてナカムの中核に潜り込ませる。やがて明らかになる、ナカムの復讐計画“プランA”。それはドイツの民間人600万人をターゲットにした、恐るべき大量虐殺計画だった……。

敗戦直後のドイツ、その裏で蠢いていた知られざる史実を基にしたサスペンス・ドラマ。イスラエル出身のドロン&ヨアヴ・パズ兄弟が監督を務め、主演は『イングロリアス・バスターズ』(09年)、『名もなき生涯』(19年)等で知られるアウグスト・ディール。『ブレードランナー 2049』(17年)のシルヴィア・フークス、Netflixドラマ『シュティセル家の人々』(13年~)のマイケル・アローニらが脇を固める。

試写状、プレス記載の情報によれば、本作の原題は“Nakam”(ヘブライ語で“復讐”の意)、英題が“PLAN A”(A計画)であるらしい。つまり邦題は、原題の意味するものに「~する人」を表す英語の接尾辞“er”をつけ、その複数形ということで『復讐者たち』に決まったのだろう。シンプル且つ力強い、良い邦題だと思う。しかしこのタイトルを英語に置換しようとすると、“revengers”が適切か“avengers”が妥当なのか、即断即決を躊躇わせるものがある。かのアメコミ超人チームの大活躍も手伝って「正義の制裁」というニュアンスが強まった“avenge”に対し、「恨み晴らさでおくべきか」的な暗い場面で使用されることの多い“revenge”。客観的に見れば、マックスやナカムが画策していることは一般市民を対象とした無差別テロに相違ないのだが、ユダヤ人だという理由だけで愛する者の命を奪われた彼らからしてみれば、この八つ当たりのような暴挙にも「正義のための制裁である」と納得するに足るものが含まれていたのではないか……最終的に「いや、やっぱりその行いは間違っている」という結論に落ち着くとしても、誰の視点からモノを見るかで、景色はずいぶんと違ってくる。

観ているこちら同様、渦中の人々の心情もまた激しく揺れ動く。家族を殺され、不退転の決意でナカムに加わったメンバーでさえ、廃墟と化した街なかで懸命に生きようとする子どもたちの姿を目にすると、自分たちが成そうとしていることは本当に正義なのかと、疑念を抱かずにはいられない。ミュンヘンオリンピック事件の首謀者に対する報復作戦を題材にしたスティーヴン・スピルバーグ監督の傑作『ミュンヘン』(05年)でも、国家への忠誠心と人間としてのモラルの板挟みになった暗殺チームの苦悩が描かれていたが、本作における標的は“黒い9月”のような過激派組織の構成員でも何でもなく、どこにでもいる普通の人たち。「ホロコーストを見て見ぬふりした連中も同罪」との考え方を無理矢理に嚥下しようとしてみても、そう容易く割り切れるものではなかろう。そもそもナチス第三帝国が崩壊し、多くの戦犯が連合国主導の軍事裁判にかけられることになった時点で、ナカムの掲げる「目には目を、歯には歯を」という報復律を満たすだけの“取り分”はほとんど残っていなかった。もはや真の仇敵には手が届かず、さりとて振り上げた拳をおとなしく戻すこともできない。本作はジレンマを抱えた復讐者たちの眼を通し、観客に「お前ならどうする?」と執拗に問いかけ続ける。

改めて言及するまでもないことだが、第二次大戦直後に数百万ものドイツ国民がいっぺんに殺害されたという記録は無い。つまり我々は、劇中で描かれる復讐計画が未遂に終わったことを知っているわけだ。ここで重要なのは結果よりもむしろ過程のほうで、荒ぶる復讐者たちの計画遂行に待ったをかけた「見えざる力」の正体こそが作品のキモとなる。マックス役アウグスト・ディールのやつれた顔は言わば一種の“窓”。聖人のようでも悪鬼のようでもある彼の表情を介して、その見えざる力が及ぼす影響だけでなく、今このような映画が作られた理由までもが次第に明らかになっていく。やがて浮かび上がる「復讐とは、敵から受けたのと同質の暴力によってのみ果たされるものなのか?」という疑問。映画の最後に映し出された人々の横顔が、道はひとつではないのだと、我々に示しているようだ。

【映画『復讐者たち』は7月23日(金)より、
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネクイント ほかにて全国ロードショー】

※新型コロナウイルス(COVID-19)感染症流行の影響により、公開日・上映スケジュールが変更となる場合がございます。上映の詳細につきましては、各劇場のホームページ等にてご確認ください。

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