最強の住所不定無職、再臨
元陸軍憲兵隊捜査官の放浪者ジャック・リーチャーは、後任者であるスーザン・ターナー少佐に会うため、ワシントンD.C.の軍施設を訪れる。しかし、ターナーはスパイ容疑で逮捕されており、リーチャー自身も殺人の嫌疑をかけられて身柄を拘束されてしまう。連行先の重警備拘置所でターナーと合流したリーチャーは、彼女を連れてすぐさま脱監、軍幹部と民間軍事請負会社が絡んだ陰謀の調査を開始するが、そんな彼の前に、実の娘かもしれない少女サマンサが出現。図らずもサマンサを事件に巻き込んでしまったリーチャーは、彼女を守りつつ、ターナーと協力して巨悪に立ち向かうことに……。
リー・チャイルドのベストセラー小説をトム・クルーズ主演で映像化したハードボイルド・アクション映画『アウトロー』(12年)の続編。『グローリー』(89年)、『ブラッド・ダイヤモンド』(06年)等を手掛け、『ラスト サムライ』(03年)ではトムとも組んだエドワード・ズウィックが監督を務めている。
著作者や原作ファンが抱いていた「身長6フィート5インチ(約195センチ)、体重100キロ超の大男」という主人公イメージを改変し、トム・クルーズの新たな当たり役となったジャック・リーチャー(住所不定、無職)。シリーズ2作目となる今回は、前作と比べてかなり自己主張が強い女性キャラクター2名を投入、「込み入った人間関係を構築しない」というリーチャーの人物設定に揺さぶりをかける。特に、いきなり現れた跳ねっ返り娘サマンサに手を焼くリーチャーの姿には、前作の沈着冷静な彼に魅了された観客ほど困惑するだろう。ワンナイト・ラブの経験は結構多いリーチャーさん、「俺の子ども?あり得ねぇ話よ」と平気の平左を装いつつ、長い放浪生活のどこかで迂闊なタネ蒔きやらかしたのではないかという疑念も拭いきれない。当のサマンサはといえば、やたら手癖が悪くて性格は生意気、おまけに顔立ちも微妙にブサいという、なかなか勘弁カツオちゃん(死語)な不良娘。狭量な男なら電車賃だけ渡してバイバイしてしまうところだが、そこに血の繋がりを感じてしまえば守らずにはいられないのがリーチャー=トムの男道。迷いや怒りを力に変えて、次から次へと湧いてくる刺客たちに必殺のグーパン叩き込む。数年前に3番目の妻ケイティ・ホームズと離婚してしまったトムのこと、ひょっとしたら父親の顔を知らずに育ったサマンサに、実子スリちゃんの面影を重ねて楽屋で泣いていたのかもしれない(←余計なお世話)。
脚本家の交代や、良くも悪くも優等生的なズウィック演出の影響か、クリストファー・マッカリー監督の1作目にあったヘンテコな旨みはだいぶ薄れてしまったが(ヘンリー・ジャックマンによる音楽も、ジョン・パウエル風ズンズンドコドコ色が強いため、何だか『ジェイソン・ボーン』シリーズのバッタもんみたいに聞こえてしまう)、更なるシリーズ化を見据えての地均し段階だと思えばコレはコレで十分アリだし、必死こいてチャキチャキ動くトムは毎度ながら面白カッコ良い。小道具山盛りの調理場に迷い込んだだけで、「そら、きっと何か楽しい場面が始まるぞ!」とワクワクさせてくれる俳優は貴重だ。ひと昔前までこの道の第一人者だったジャッキー・チェンが度々アクション卒業を仄めかすようになった今(アカデミー名誉賞、おめでとうございます!)、アクション映画ファンがトムに寄せる期待は大きい。本作の終盤、とある理由で揃ってヘロヘロになってしまったリーチャーと敵役が、それでも物凄く緩慢な動作で決着つけようとする泥臭いファイト・シーンがあるのだが、ここで筆者、ジワッと感動してしまった。30年近くもハリウッドのトップスターの座を守り続けてきた男、トム・クルーズ……その人並外れた意地と矜持が、最強の無宿人の立ち姿を依代にして一瞬、可視化されていたように思うのである。
監督:エドワード・ズウィック
出演:トム・クルーズ、コビー・スマルダーズ、ダニカ・ヤロシュ、オルディス・ホッジ、ロバート・ネッパー