(2005年 監:スティーヴン・スピルバーグ 出:トム・クルーズ、ダコタ・ファニング)
父性の復権
もうかれこれ三十年近く、ハリウッドのトップスターの座に君臨し続けるトム・クルーズ。筆者も彼のファンで、新作が公開される度にワクワクしながら劇場へ向かってしまうクチなのであるが、この作品ほどトムが心許なく見える映画もそうそう無いだろう。
別れた妻から子供を預けられたものの、マセた娘とのコミュニケーションはギクシャク、思春期息子は鉄壁の反抗期。挙げ句、最悪のタイミングで始まったエイリアンの地球侵略。
反撃どころか逃げるだけで精一杯、暴徒にはタコ殴りにされ、フェリーに乗れば転覆して死にかける。劇中、何度も大写しになる四面楚歌トムのオロオロ顔は、これまで彼が演じてきた頼れるヒーローの表情とはあまりに対照的だ(例外といえば、同じく状況に振り回されるばかりの夫を演じた『アイズ・ワイド・シャット』ぐらいか)。
本作はタイトル通りのド派手なスペクタクルがある一方、極めてミニマルな物語でもある。つまり、一度は父親という立場からドロップアウトした男が、極限状況の中で復権を目指すという家族再生譚だ。その意味でも「等身大のおとーさん」というイメージからは最も遠い部類のスター=トム・クルーズをあえてキャスティングしたあたりが心憎い。
序盤での主人公の空回りっぷりには思わず顔がほころぶが(筆者が本作を鑑賞した劇場では、緊迫したシーンでのトムの演技にしばしば引き攣った笑い声が起こっていた)、物語が進むにつれ、そのブキッチョ加減にシンクロし、感情移入し、応援してしまう。不安がる娘に子守唄をせがまれた主人公が、涙を堪えながらビーチ・ボーイズのナンバーを口ずさむ場面は何とも切ない。
己の非力さを思い知らされ、それでも持てる力を振り絞って大切な存在を守ろうとする一人の男。宇宙人襲来というファンタジーの体裁をとりつつ、その実、この上なく普遍的な親子ドラマなのだ。