フランスNo.1演技派俳優 ヴァンサン・ランドン
心身共に彫刻家になりきった、驚くべき役作りとは??
世界で最も偉大なアーティストのひとりであるオーギュスト・ロダンを演じたのは、『ティエリー・トグルドーの憂鬱』(15)でカンヌ国際映画祭、セザール賞の主演男優賞をW受賞したフランスNo.1の演技派ヴァンサン・ランドン。
ヴァンサンは“自身”の作品について理解を深めるため、毎週パリのロダン美術館やムードンの収蔵庫を訪れ、ロダンの半生や作品の根本原理を吸収するべく、何時間もの話し合いを重ねたという。さらに制作過程を学ぶために8か月もの期間、彫刻やモデリングの講習を受け、素材との向き合い方や彫刻家らしい振る舞いを身に着けていった。劇中、モデルの身体を食い入るように観察しながら、手元に一切視線を落とさずにデッサンを仕上げていくロダンの姿は印象的だが、この演技についても台本に指示されたものではなく、ヴァンサンが“芸術家になりきる”上で自然と構築されていったものなのだという。
豊かな顎ひげをたくわえ、ロダンそのものの外見になったヴァンサンが、同時にロダンの精神性までも獲得していった過程は制作陣をうならせるほど。自由な精神に満ち、動物的な勘を備え、成功を執拗なまでに切望し、そのための努力を欠かさないというヴァンサン自身の気質もあいまって、“凶暴性と知性”の両方を手にした、明晰で深みのある人物像を作りあげられた。
ドワイヨン監督はキャスティングについて、「脚本段階からヴァンサンを想定して書いていました。“彼しかいない”と思っていたので、もし断られたらどうしようか……と」明かすほどの絶大なる信頼感を寄せる。「彼とは、『ピストルと少年』(1990)を撮影しているときに偶然、出会いました。彼は“言葉”ではなく“沈黙”で語ることができる数少ない役者です。理由は、彼が役者だから。それほど台詞に自信がない、というところがかえって良く、アトリエのなか以外では生きられないロダンを演じるには、口数少なく演じることができる俳優であることが必要であり、そのなかでもヴァンサンがもっともふさわしい存在だと思ったのです。脚本を読んだ彼はいたく感銘を受け、私自身に代わって自らプロデューサーや配給を探してくれました。彼なしに本作が日の目を見ることはなかったでしょう。」と語っている。
一方のヴァンサンは、「ロダンは、評価が得られないのは作品を残していないも同然で、才能があるだけでは不十分で、食べていけなくては意味がないことをわかっていた。そして試行錯誤を重ね、一からやり直し、壊してはまた作り直すことを続けた。ロダンが送った生涯は、創作活動に打ち込んだ一日のようなものだ。彼として生きた時間は、僕の人生を美しく彩った」と振り返っている。
映画:『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』
配給:松竹=コムストック・グループ
© Les Films du Lendemain / Shanna Besson