2019年
監督:トム・ウォーラー
出演:ジム・ウォーニー、エクワット・ニラトウォラパンヤー、ノパドン・ニヨムカ、ジュンパー・センプロム、エリック・ブラウン
公式サイト:http://cave18.jp/
“微笑みの国”タイ発、実録チビッ子救出劇
タイ北部・チェンライ。練習を終えたサッカーチームの少年12名とそのコーチは、悲劇的な伝説で知られるタムルアン洞窟の中へと入る。ところが折からの豪雨で洞窟内の水位が急激に上昇、少年たちは深い闇の中で身動きが取れなくなってしまった。現場に駆け付けた地元住民やボランティア団体、ダイバーたちの捜索により、遭難者全員の生存が確認されるが、彼らのいる位置は洞窟入り口から数kmも先、しかも狭くて浸水した危険ポイントをいくつも抜けなければ到達できない場所だった。再びの増水で洞窟内が完全水没するかもしれない危機的状況の中、レスキューチームは遂に、無謀とも思える救出作戦を決行するのだが……。
2018年6月23日に発生した「タムルアン洞窟遭難事故」。18日間にも及んだ緊迫の救出劇を映像化するにあたり、本作では救助活動に携わったダイバーやボランティアにも出演を依頼。当事者と俳優の混成チームによって、一風変わった群像ドラマが形成されている。
“Based on a True Story(実話に基づく)”の字幕で始まるような映画において、実際の事件・事故関係者をキャスティングするという試みは、今までにもポール・グリーングラス監督の『ユナイテッド93』(06年)や、クリント・イーストウッド監督作『15時17分、パリ行き』(18年)などで行われてきた。カメオ出演レベルの参加まで含めれば、この手法を取り入れた作品はかなりの数に上るだろう。お芝居を生業としていない人たちのこと、純ナマの役者のパフォーマンスと見比べてみれば確かにぎこちない部分もあるのだが、「あの日、あの時、あの場所に居合わせた者」だけが持つ雰囲気には、カタい演技のマイナスを打ち消した上にお釣りが来るほどの味がある。『ザ・ケイブ』に登場する“本人”枠の面々(あるいは演技畑の外から集められた、純朴で個性的な顔ぶれ)も、その点については純度検証刻印付き。そこに加えて、本作に独特の情趣を添えているのが、タイムリミット付き救出劇の行間で見え隠れする妙にゆったりとした空気感だ。
たとえば、洞窟内の排水作業が難航していることを聞きつけ、自社製排水ポンプをトラックに積んで現場へと馳せ参じた社長さん。有事の際、指揮系統が混乱するのはどこの国でも同じなようで、せっかく持ち込んだマシンの使用許可がなかなか下りない。脚色のセオリーからすれば、業を煮やした漢(おとこ)の一喝で尊大なワカランチンどもが押し黙る、なんて流れになりそうなものだが、この社長さんはそんな無粋なマネはしない。苦笑いで頭を掻きつつ、然るべき人物に電話を入れて独自ルートで入洞許可を獲得、柔和ながら確かなドヤ顔で自社製品の威力を見せつける。あるいは、洞窟からの排水で田んぼをオジャンにされてしまった稲作農家のお母さん。すっかり冠水した田んぼを前に、すわ発狂激怒モード突入かと思いきや「困っている人たちを救うためだもの……まぁ、仕方ないわよね」と溜息をつくのみで、炊き出しなどのボランティア活動に積極的に参加するという懐の深さまで披露する。この何ともおおらかな感じこそ、“微笑みの国”タイの気風であろうか。今の日本で同系統の作品を撮る場合に必ず盛り込まれるであろう「自己責任論からの視点」が、この映画ではさして重要視されていないという点も興味深い(唯一の例外は、子どもたちを危険に晒してしまったコーチの、痛悔の念に満ちた眼差しだ)。聞けば『アポロ13』(95年)などで知られるロン・ハワード監督も、同じ事故から着想を得た“Thirteen Lives(仮題)”の映画化に向けて動いているのだとか。もしもそちらが実現したなら、監督の資質の違いが作劇にどのような影響を及ぼすのか、2作品を観比べて分析してみるのも面白いかもしれない。
最後に、映画本編の出来とは何の関係もない発見をひとつ。救出作戦が本格的にスタートしてからの実質的な主役であるジム・ウォーニー(本人)は、当然ながら本職も洞窟潜水の専門家。過去に他の作品でお顔を拝見している可能性など無きに等しいハズなのに、このアルカイック・スマイル、以前にどこかで見たような気がしてならない。はて、一体いつのことだったろうと考えているうち、突然ピンときた。「あっ、ブレイビクだ!!」……そう、2011年7月に発生したノルウェー連続テロ事件、その犯人であるアンネシュ・ブレイビクにどことなく顔立ちが似ていたのだ。潜水用のウェットスーツを着た姿など、件の殺人鬼がネット上で公開していた「銃を構える俺様の雄姿」にソックリ。あんな身勝手野郎に似ていると言われても、ウォーニーさんにとってはいい迷惑でしかないだろうが……しかし、外見的には相似を示していながら、一方は寡黙なヒーロー、もう一方は自己顕示欲剥き出しの大量殺人犯。ホント、人間とはつくづく不可思議な生き物だ。
【映画『THE CAVE ザ・ケイブ サッカー少年救出までの18日間』は11月13日(金)より、
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国公開】
※新型コロナウイルス(COVID-19)流行の影響により、公開日・上映スケジュールが変更となる場合がございます。上映の詳細につきましては、各劇場のホームページ等にてご確認ください。