SF

入江悠監督×大沢たかお主演の近未来SF『AI崩壊』先行レビュー!

2020年
監督:入江悠
出演:大沢たかお、賀来賢人、広瀬アリス、岩田剛典、高嶋政宏、芦名星、玉城ティナ、田牧そら、余貴美子、松嶋菜々子、三浦友和
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/ai-houkai/

「近未来日本の創造」という挑戦

西暦2030年。日本では、医療AI「のぞみ」によって、全国民の個人情報と健康状態が完全に管理されていた。そんな中、かつて「のぞみ」開発プロジェクトのリーダーを務めた天才科学者・桐生浩介への総理大臣賞授与が決定。すでに研究職から退き、一人娘と共に海外へ移住していた桐生は、気が進まないながらも久しぶりに日本の土を踏む。しかし、彼の帰国を待っていたかのように、突如「のぞみ」が暴走。AIが人間の生きる価値を選別し始めたことで国中が大パニックに陥るが、この未曽有のサイバーテロの実行犯として警察の捜査線上に浮かび上がったのは、「のぞみ」開発者である桐生浩介の名だった……。
 
 『SR サイタマノラッパー』(09年)、『22年目の告白-私が殺人犯です-』(17年)などで知られる入江悠監督が、完全オリジナル脚本を基にして挑んだSFサスペンス。近未来の日本を舞台に、AI(人工知能)がもたらし得る恩恵と脅威、アクション満載の逃亡劇、普遍的な人間ドラマがスリリングに描かれる。

 2017年、スペインのSF映画『スターシップ9』が日本で先行上映された際、トークイベントでアテム・クライチェ監督の対談相手として登壇したのが入江監督だった。日本と同じく、SFを撮るのに適した環境とは言い難いスペイン映画界で「サイエンス・フィクションという器を用いつつ、現実の社会情勢を反映した作品になるよう心がけた」というクライチェ監督のコメントには、『JAPONICA VIRUS ジャポニカ・ウイルス』(06年)で長編デビューを果たし、戯曲原作の異色SF映画『太陽』(16年)を手掛けた入江監督も大いに共鳴するところがあったに違いない。『AI崩壊』では、少子高齢化や経済状況の悪化といった「今そこにある危機」が物語に取り込まれ、プロダクション・デザインも、ある分野における急速な技術革新と他方の停滞(あるいは退行)を強く意識したものになっている。

 大筋だけ追いかけてみた場合、本作にはスティーヴン・スピルバーグ監督によるフィリップ・K・ディック小説の映像化作品『マイノリティ・リポート』(02年)との共通点が多い。人々の暮らしを安全で豊かなものにするべく作られたシステムが悪用され、その創設に尽力した主人公はあらぬ疑いをかけられて逃亡者となる。彼らは共に、システムの稼働があと少し早ければ回避できたかもしれない悲劇的な過去を背負っており、現場で培った経験と知力を駆使して自らの無実を証明するべく奔走する。本作で警察庁サイバー犯罪対策課が使用する捜査AI「百眼」は、『マイノリティ~』で犯罪予防局が容疑者捜索に用いていた個人識別技術と本質的には同じものだし、逃走する桐生にしつこく付き纏う昆虫型ドローンは、スラム街のアパート内でトム・クルーズを追い掛け回した網膜ID探知ロボ“スパイダー”のお仲間ないし親戚と言えなくもない。

だが、物語の構造が似ていても、2054年のアメリカと2030年の日本ではまるで見た目が違ってくる。人工知能学会に入会して取材を重ね、各分野の専門家からの指導を受けながらシナリオ改稿にあたったという入江監督最大の注力ポイントは、この「日本独自の未来デザイン」であろう。今から僅か10年後、しかも極めて歪な発展を遂げた島国はどんな景観を有しているのか?現実のデータ諸々を参考に、見慣れないものと見慣れたものを組み合わせ、ガジェットばかりに頼らない近未来世界を構築する……自主制作のフィールドで経験を積み、低予算で勝負する機会も多かった入江監督の創意工夫が随所で活きている。CGで空間拡張されたサーバールームのセットなどは、なるほど大作でなければ実現不可能なスケールだが、そのど真ん中に鎮座する「のぞみ」コアサーバーのデザインには、ハリウッドSF映画とは別系統の、言い換えるなら如何にも日本的なオリジナリティがあり、妖しくも美しい(巻貝の殻がモチーフになっており、俯瞰するとバラの花冠にも見える。これをアンボイナのような有毒の巻貝と、棘を持つバラの合体と考えれば、「のぞみ」運営の危険な側面を暗示したデザインと深読みすることも可能だ)。

 トンデモ方向に転んでしまいそうな危うい部分や、横車を押すような強引演出も確かに見受けられる(容疑者をあと一歩のところまで追い詰め、そして逃げられる……そんな場面が何度も繰り返されると、桐生の知力よりも追っ手の無能ぶりが悪目立ちするばかり)。しかし、地上で地下で船の中でと、様々なステージで展開するチェイスシーンは見応えがあるし、AIの危険性だけでなく、明るい可能性にもちゃんと目を向けている点は好感が持てる。何より、今の日本映画界でこのテの企画を、しかもオリジナル脚本でやり通すのは並大抵の苦労ではなかったはず。入江監督、やはり相当に肝っ玉の据わったオトコのようである。

【映画『AI崩壊』は、1月31日(金)より全国ロードショー】


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