アクション

韓国で観客動員1600万人を突破したメガヒット作『エクストリーム・ジョブ』先行レビュー!

2019年
監督:イ・ビョンホン
出演:リュ・スンリョン、イ・ハニ、チン・ソンギュ、イ・ドンフィ、コンミョン〈5urprise〉、シン・ハギュン
公式サイト:http://klockworx-asia.com/extremejob/

全力でバカになれ

コ班長率いる麻薬捜査班は、異才を持った個性的なメンバー揃いだが、実績は最低。警察署内でもお荷物扱いされ、今や解体の危機に直面していた。ある時、麻薬を密輸している国際犯罪組織の情報を掴んだコ班長は、仲間たちと共に張り込み捜査を開始。組織の動向を24時間監視するため、彼らのアジト前にあるチキン店を引き継いで偽装営業するという奇策に打って出る。しかし、焼き肉店の息子である班員が作ったタレ付きチキンが想定外の大ヒット。口コミ効果もすさまじく、チキン店は名店として名を馳せるようになる。気付けば捜査は後回し、チキン売りで息つく暇もないほど忙しくなってしまった麻薬捜査班。果たして、ポンコツチームは犯罪組織を挙げることができるのか……。

刑事たちのチキン店偽装営業という風変わりな設定が話題を呼び、韓国で観客動員数1600万人超えの大ヒットを記録したアクション・コメディ。カン・ヒョンチョル監督と『過速スキャンダル』(08年)、『サニー 永遠の仲間たち』(11年)などで組み、自身も監督として『二十歳』(15年)、『風風風(原題)』(18年)を成功させたイ・ビョンホン(あのイケメンマッチョなスター俳優とは別人)が演出を担当。『高地戦』(11年)、『王になった男』(12年)のリュ・スンリョンが主演を務めている。

人を笑わせるための一番大切な要素とは何であろう?勿論、ネタが面白いに越したことはないし、ユニークな顔貌(あるいは、見た目と芸のギャップからくる意外性)だって強力な武器になり得る。脈々として絶えない伝統である“笑い”をバケ学的に分析すること自体が愚かしい行為なのかもしれないが、演者が恥ずかしながら遠慮気味に披露する芸というのは、往々にしてつまらない。少なくとも、恥を捨てて全力でバカに徹することのできる胆力が無ければ、「わだばコメディアンになる!」なんて大望は抱かずにいたほうがよさそうだ。その点、『エクストリーム・ジョブ』の出演俳優たちは、必要とあらばトコトン突き抜けたバカにシェイプシフトできる強者揃い。頭を空っぽにして楽しめるエクストリームなバカ演技と、派手で景気のいいアクションが本作には満載である。

ヌルいコメディ映画だろうと高を括って映画館の席に着いた場合、まず驚かされるのは、思いのほか気合いが入った冒頭の追跡シークエンスだ。街なかへ逃走したホシを麻薬捜査班が足で追いかけるこのパートには、地味だが難易度の高いスタントや『ブルース・ブラザーズ』(80年)ばりのカー・クラッシュが組み込まれており、ツカミの役割をきっちりと果たす。ここ以外にも、韓国映画特有の熱気に満ちたファイトシーンが全編にわたって豊富に気前よく配されているため、「犯罪捜査のためのチキン店営業」というコンセプトに頼りきりになることなく、お話の鮮度が保たれる。終盤では、ヘマ続きの麻薬捜査班が、実はそれぞれ格闘方面の一芸に秀でた凄キャラ揃いであったことが判明。班員たちが八面六臂の大活躍を見せる中、サエない便秘顔のコ班長も『太陽を盗んだ男』(79年)の菅原文太に負けない驚異的な打たれ強さでもって、“ゾンビ班長”の異名に恥じぬ粘りのステゴロ・バトルを披露してくれる。

もちろん、本作は手に汗握るアクション映画である以前に、笑いどころ満載のコメディ映画。ビョンホン監督が「誰もが気楽に笑える伝統的喜劇を目指した」と言うだけあって、ギャグ含有量はアクションのそれを大きく上回る。しょーもない一発ネタから、上手に“間”を活かした緩急が生む滑稽さ、機知に富んだ台詞遊びまで、多種多様な笑いのネタがこれでもかと大量投入され、観る者を飽きさせない。特に、絶対味覚の持ち主で偽装チキン店営業の要となるマ刑事に扮したチン・ソンギュは、ただ立っているだけでも笑いを取れる圧倒的顔圧のオーナーであり、彼がイ・ハニ演じるチームの紅一点、チャン刑事と“貪り合う”場面のバカバカしさは、『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』(17年)におけるドウェイン・ジョンソン&カレン・ギランの“あの”パフォーマンスにも匹敵する。これぞ、当代きっての異貌俳優と、ミス・コリア出身の美貌を誇る女優が恥を捨てて挑んだ体当たり演技。やはり、全力でバカになりきれる役者は尊い。

笑い・アクションをふんだんに取り入れ、さらにはフード演出で観客の唾液腺と胃袋も刺激する欲張りエンターテインメント。とにかく爽快で、観た後にはモヤモヤしたものが一切残らない。「戦後最悪の日韓関係」なんてことが囁かれている昨今だが、せめて映画ぐらい無邪気に楽しんだっていいじゃないか(安倍首相も文大統領も、たまには相伴って底抜けバカ映画でも観てきたらどうか)。チラシに書かれている通り、2020年の初笑いには打ってつけの1本である。

【映画『エクストリーム・ジョブ』は2020年1月3日(金)よりロードショー】


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