アクション

『クリード 炎の宿敵』レビュー!

[2018年 監:スティーヴン・ケイプル・Jr. 出:マイケル・B・ジョーダン]

クリード新章、そして33年ぶりの「続編」

往年の名ボクサー、ロッキー・バルボアの薫陶を受け、ついに世界ヘビー級チャンピオンの座に上り詰めたアドニス・クリード。恋人ビアンカとの結婚も決まり、公私共に新たな局面を迎えていた。そんなある日、ロッキーの前に、かつてアドニスの父アポロをリング上で葬った旧ソ連の元ボクサー、ドラゴが現れる。ロッキーに敗北を喫したことで全てを失ったドラゴは、息子ヴィクターを最強のファイターに育て上げ、アドニスに挑戦状を突きつけてきたのだ。父の無念を晴らそうと闘志を燃やすアドニスと、この戦いの危険性を誰よりも知るが故に、試合を思い止まらせようとするロッキー。師弟関係に軋轢が生じる中、世紀の対決の瞬間は刻一刻と近づいていた……。

言わずと知れたシルヴェスター・スタローン主演のボクシング映画『ロッキー』シリーズから派生し、誰もがビックリするほどの大成功をおさめた『クリード チャンプを継ぐ男』(15年)。老いた「イタリアの種馬」のファイティング・スピリットを盟友アポロ・クリードの遺児が受け継ぐという胸アツな物語は、「スライが出てりゃ十分ですよ」なロッキー信奉者だけでなくウルサ型の批評家たちをも唸らせ、スタローンに『ロッキー』(76年)以来のアカデミー賞ノミネートという栄誉をもたらした。いよいよここからは時代の転換、アドニス・クリードによる新章本格スタートか……と思われた矢先、師匠の激闘史から浮かび上がってきた過去の亡霊が、巨大な壁となって弟子の前に立ちはだかる。亡霊とは、『ロッキー4/炎の友情』(85年)でアポロを死に追いやった戦闘マシン、イワン・ドラゴ(以下、ドラゴ)と、その息子ヴィクター。そして本作『クリード 炎の宿敵』で、アドニス&ロッキー以上にオイシいパートを担っているのが、このドラゴ親子なのだ。

過去にロッキーと拳を交えた強敵たちの中でも、ドルフ・ラングレン扮するドラゴは頭抜けて荒唐無稽で漫画チックで、クールなキャラクターだった。長躯でムキムキ、歯ブラシのように完璧な角刈りという容貌は、米ソ冷戦時代に多くのアメリカ人が持っていた「おそロシア」イメージの権化。相手を睨み据えながらボソリと吐く台詞に、人間的な温もりは皆無だ。『4』の監督・脚本を兼任したスタローンが、前年公開の『ターミネーター』(84年)を意識していたとしか思えぬほどにメカメカしく、そこがまた異様にカッコいい。MTV風の演出や、『アクアマン』(18年)のブラックマンタに激似な御手伝いロボットが一部観客の不興を買った『4』だが、クライマックスの「ロッキー対ドラゴ」戦は最高にハチャメチャ且つパワフルで、これをシリーズのベストバウトとするファンは多い(ドラゴ自慢の角刈りが、スタミナの消耗に伴ってシンナリとしてくる描写、筆者は無性に好きです)。

今回、『炎の宿敵』劇中で徐々に明らかになってくるのは、ロッキーとの対決に敗れた後のドラゴが歩んできた「俯きっぱなしの日々」だ。たった一度の敗戦がもとで、ソ連の英雄から一転して恥さらし扱い、お偉方も太鼓持ちも揃って自分に背を向けた。元嫁のルドミラは幼い息子を残してトンズラ、今では政治家と再婚してセレブライフを満喫中である。劇中でドラゴ自身が語っている通り、彼の人生は33年前の「あの日」に囚われたままだ。『4』でロッキーを悠然と見下ろしていた男が、本作では伏せ加減の顔から相手を睨め上げるような(演じているのが鬼瓦面のラングレンでなければ「卑屈」とも受け取られかねない)表情に変わっている。よもや、あの鋼鉄戦士がこんな姿になっていようとは……ドラゴのシリーズ再登場を予期していたファンも、この変貌ぶりには少なからぬショックを受けることだろう。

国威発揚のための神輿に祭り上げられた挙句、いともアッサリと打ち捨てられた拳闘マシン、ドラゴ。ボクシングしか知らない彼は、息子ヴィクターに己の戦闘スキルを叩き込み、全盛期の自分に勝るとも劣らない強靭なボクサーへと育て上げた。ヴィクターのファイティングスタイルは、ラングレンの極真空手経験が色濃く反映されていたドラゴ独特のフォームとはかなり異なるが、パンチの破壊力や、怒気を帯びた獰猛な攻め口は紛れもなく親父譲り。あまりに闘争心が強すぎて、ダウンした相手に迷わずダメ押しの拳を繰り出すこともあるため、セコンドのみならず試合を組んだプロモーターの心臓もバクバクである。

しかし、だ。まさに怪物が生んだ怪物、主人公アドニス・クリードにとって最大の敵であるにもかかわらず、観客はこの「悪役」にどうしようもなく感情移入してしまう。これまでに彼が受けてきた屈辱、ヴィクターが抱える怒りの根源、叶うことなく消えていった夢……主役2人と比べれば決して多くはないドラゴ親子の登場シーンに通底する哀しみを、観る者が感じ取り、そこにシンパシーを覚えるからだ。「最強」の称号と共に自尊心も喪失してしまったドラゴの姿は、幼少期のヴィクターに癒しがたいトラウマを植えつけたに違いない。父親に似て口数の少ないヴィクターが、リング外のとある場所で狼狽し、感情を爆発させる場面は胸に迫るものがある。そして最終局面、雌雄を決せんとするファイターたちの前に突如出現した「空っぽの席」……直後の展開を目の当たりにした我々は、そこでついに理解するのだ。本作は『ロッキー』シリーズの8作目、『クリード チャンプを継ぐ男』の続編であると同時に、ライバルの視点で『炎の友情』と現在を繋ぐ『ドラゴ:エピソード2』でもあった、ということを。

まさか、タイトルロールそっちのけでドラゴ讃一色のレビューを書くことになるとは思いもしなかったが、こういう嬉しい誤算は大歓迎。本作鑑賞後に『ロッキー4』を観返してみると、かつてあれほど恐ろしく、憎たらしく見えたドラゴに憐憫の情さえ抱いてしまうのだから驚きだ。ロッキー・コールに沸くモスクワの試合会場、女房にまで口汚く罵られてショゲる若き日のドラゴに、今はそっと耳打ちしてやりたい。「これから長く辛い日々が始まる……でも覚えておけ。ロッキーがアポロにしてやれなかったことを、33年後のアンタは成し遂げたんだ」と。

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