ドラマ

“サニー 永遠の仲間たち”の監督が放つ話題作『スウィング・キッズ』先行レビュー!

2018年
監督:カン・ヒョンチョル
出演:D.O.〈EXO〉、ジャレッド・グライムス、パク・ヘス、オ・ジョンセ、キム・ミノ
公式サイト:http://klockworx-asia.com/swingkids/

圧巻のパフォーマンス、際立つ悲劇性

1951年、大韓民国・巨済(コジェ)島。そこには朝鮮人民軍や中共軍の戦争捕虜、スパイ容疑をかけられた韓国人らが囚われている巨大な捕虜収容所があった。この地に新しく赴任した所長は収容所の対外的なPR活動の一環として、戦争捕虜たちによるダンスチーム結成プロジェクトを計画する。かつてブロードウェイのタップダンサーだった米軍下士官ジャクソンは、交換条件つきで嫌々ダンスチームのリーダーになるが、紆余曲折の末に集まったメンバーの顔ぶれは、収容所イチのトラブルメーカー、無認可の女性通訳士、うっかりミスがもとで虜囚になった凡夫、栄養失調と狭心症を抱える虚弱者……と、問題大ありな連中ばかり。果たして、急拵えのダンスチーム“スウィング・キッズ”は、一致団結してデビュー公演を成功させることができるのか……。

長編監督デビュー作『過速スキャンダル』(08年)から、漫画原作モノ『タチャ~神の手~』(14年)まで、手掛ける作品を悉く大当たりさせてきたカン・ヒョンチョル。特に監督2作目の『サニー 永遠の仲間たち』(11年)は日本でも好評を博し、のちに大根仁監督によるリメイク作品『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(18年)が製作されるまでに至った。破竹の勢いで進撃を続けるヒットメーカーが新作の題材にタップダンスをチョイスしたと聞けば、いかにも大向こう受けを狙った安パイ娯楽作と軽んじ、見下げる向きもあるかもしれないが、舞台が朝鮮戦争真っ只中の捕虜収容所内となれば、底抜けに楽しいだけのエンターテイメントで終わるはずがない。

本作は、朝鮮戦争当時に巨済収容所で撮影された「仮面をつけて踊る捕虜」の写真と、その写真から生まれたミュージカル『ロ・ギス』をモチーフにしたリビルド作品。選曲に3年、振付創作に1年、キャストの特訓に約半年をかけ、更にヒョンチョル監督が詳細なコンテを準備したうえで撮影されたダンスシーンは、なるほど華麗で躍動感溢れる圧巻の出来ばえだ。“スウィング・キッズ”メンバーの中で最もダンスの分量が多い主人公ロ・ギスには、人気K-POPグループ〈EXO〉の一員であるD.O.が扮し、持ち前の運動神経とトレーニングの成果を活かした見事な動きを披露している。チームリーダーであるジャクソンを演じるのは、実際にブロードウェイのステージでダンサーとして活躍してきたジャレッド・グライムス。その自信に満ち満ちた力強いステップは、ダンスシーンを盛り上げるだけでなく、キャラクターに実在感を与える効果も絶大だ。彼らに負けじと床を踏み鳴らす、他のメインキャスト陣によるアンサンブル演技も見ものであり、てんでバラバラだった足並みが次第次第に揃い始め、収容所を揺るがすほどの一大ビート・パフォーマンスを形成していく様子は観ていて実に心地よい(矢口史靖監督の『スウィングガールズ』(04年)で使われたスウィング・ジャズの大定番“Sing Sing Sing”が、本作でもパワー全開。ベタでもやっぱり盛り上がる)。

しかし、物語の根底には分断された国家の対立と東西冷戦から波及した緊張状態が確かに横たわっており、それが本作に「お気楽ハッピーなダンス映画」としてのみ存在することを許さない。虜囚という共通点があっても、国籍の違いや憎しみ、政治的なものの考え方の相違が原因で起こる争いは絶えることがなく、黒人であるジャクソンの周囲には、人種的偏見からくる差別感情が渦巻いている(軍隊内での人種隔離が一応撤廃されていたとはいえ、まだ公民権運動も本格始動していなかった時代。アフリカ系アメリカ人が“平等”を謳歌することなど到底できない状況だった)。そういった不穏な空気は、エキサイティングなダンスシーンでも完全には消えることがなく、“スウィング・キッズ”が元気いっぱいに踊れば踊るほど、この特殊な環境で結成された多国籍男女混合チームの悲劇性も際立ってくる、という仕組みだ。そして物語の終盤に待っているのは、こちらの予想の斜め上を行くまさかの展開。賛否は分かれるかもしれないが、このパンチ力の強さもまた韓国映画の醍醐味であり、「落ち着くべきところに落ち着く」作品とはひと味違った感動を残す。

ダンスホールに乱入したロ・ギスがコサックダンスを踊る場面や、恋心を自覚した人物の頬がポッと染まる漫画的表現など、時おり照れ隠しのようにオチャラケを挿入してくるところは、ヒョンチョル監督相変わらずの悪癖(そんなセコい小技に頼らずとも十分強靭なストーリーだというのに……)。捕虜の間で進められる反乱計画のエピソード周りも、あれやこれやと要素を詰め込んだ結果、ややバランスを欠いた感がある。それでも、熱のこもった演技と動的なカメラワークで興味を持続させる手腕はさすがだし、ひとたび映画の勢いに乗っかることができれば細かい欠点など雲散霧消、濃密な133分間を過ごせること請け合いだ。エンディングで使用される楽曲は、ザ・ビートルズの“Free as a Bird”。観客を慰撫するようなジョン&ポールの歌声と共に流れていくエンドロールも、本作の忘れ難い名場面のひとつとなっている。

【映画『スウィング・キッズ』は2020年2月21日(金)より、
シネマート新宿、TOHOシネマズ錦糸町ほかにてロードショー】


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