※本作はR15+指定作品です
2019年
監督:ニール・マーシャル
出演:デヴィッド・ハーバー、ミラ・ジョヴォヴィッチ、イアン・マクシェーン、サッシャ・レイン、ダニエル・デイ・キム、トーマス・ヘイデン・チャーチ、ソフィー・オコネドー
公式サイト:http://hellboy-movie.jp/
チープで猥雑!血みどろ百鬼夜行
第2次世界大戦中に現世に召喚され、人間に育てられた悪魔の子“ヘルボーイ”。B.P.R.D.(超常現象捜査局)のエージェントとなった彼は、人類に害を及ぼす魔物たちと日々戦い続けていた。ある時、新たな任地へと赴いたヘルボーイは、かつてアーサー王によって退治・封印された“ブラッドクイーン”ニムエが復活し、強大な魔力を使って世界を征服しようとしていることを知る。野望成就のため動き出したニムエに対し、ヘルボーイは獣化能力を持つベン・ダイミョウ少佐や霊媒少女アリスと手を組んで戦いを仕掛けるが……。
マイク・ミニョーラ作、ダークホースコミックス刊行のカルト的人気漫画『ヘルボーイ』。ギレルモ・デル・トロ監督が手掛けた実写化作品『ヘルボーイ』(04年)とその続編『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』(08年)も高い評価を受け、トリロジー完結編となる第3弾が作られるのを世界中のファンが心待ちにしていた……はずだったが、資金調達が難航した結果、デル・トロと主演のロン・パールマンはプロジェクトから離脱。3部作化の構想は立ち消えとなり、新規編成のスタッフ&キャストによるリブート企画がスタートした。監督に『ドッグ・ソルジャー』(02年)、『ディセント』(08年)のニール・マーシャルを迎え、2代目ヘルボーイ役はNetflixの人気ドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(16年~)のデヴィッド・ハーバー。「デル・トロ版の模倣に走る気はさらさら無ぇぜ!」という気合いがスパークした結果、前2本の実写化作品とは似て非なる乙なダークヒーロー映画となっている。
アメコミの映画化権が二束三文で売り買いされていたのは過去の話。今では大手スタジオが挙ってコミックの映画化権獲得に精を出し、札束の山を夢見てこれまた莫大な資金を企画に投入する。大当たりが出れば関係者一同ホクホク顔でシリーズ化の準備開始。ただし、興行成績が悪かったり映画の出来がイマイチだったりした場合は、どんなヒーローでも容赦なく控室に叩き戻され、再び青信号が点灯する時まで待機を余儀なくされるわけである。では、デル・トロ監督の『ヘルボーイ』はどうか?劇場公開時こそ苦戦を強いられたが、ビデオソフト市場ではなかなかのアガリを出していたし、内容だって実に立派な仕上がり。後年、『シェイプ・オブ・ウォーター』(17年)でオスカーを獲ることになるデル・トロ入魂の2作品は、「つまらないから捨てられた」なんて映画とは全く別の大陸に屹立しているのだ。リブートを託された監督からしてみれば、これはもの凄くやりにくい状況に違いない。N・マーシャル版『ヘルボーイ』を観ていると、一旦は最高の形で完成されたこのダークヒーローを、少しでも自分のフィールドに引き寄せようと悪戦苦闘したであろうマーシャル監督の姿が目に浮かぶ。マーシャル作品の特色……それは獰猛な人狼だの肉食地底人だのが襲い来るホラーや、ディストピアSFアクション『ドゥームズデイ』(08年)はもちろん、『センチュリオン』(10年)のような史劇からも滲み出る、どこか懐かしい駄菓子チックなテイストだ。
クリーチャー造形だけ見てみても、過去シリーズと本作の方向性の違いはハッキリと表れている。奇抜かつ恐ろしげなデザインでありながら、思わず素手で撫でさすってみたくなるような独特の魅力をも含み持っていたデル・トロ版のモンスターたち。そこに名キャメラマン、ギレルモ・ナヴァロによる琥珀色系の照明が加わることで、丹念なウェザリングを施した工芸品のような美しさが生み出されていた。一方、マーシャル版に登場する怪物は、“美”よりも“醜”が強調されたデザインとなっており、全体的にかなりグロい。タイトルロールであるヘルボーイにしてからが、今回は無造作ロン毛を振り乱し、胸毛ワキ毛共にボーボー。ムサい身なりの赤色マッチョが、前2作から打って変わって威勢よく卑語をわめき散らし、便槽から這い出てきたような化け物と血みどろファイトを繰り広げる光景は、“質より量”のVFX、毒々しいライティング設計の効果もあって猥雑でチープな印象を受ける。この、チクロやサッカリンの味にも似た暴力的なヤバみこそ、紛う方なきマーシャル印!もちろん、R指定不可避、ひたすら前のめりな過剰残酷表現は、今回も健在である。
ホワイトウォッシュ批判を受けての役者交代、監督とプロデューサー陣との軋轢など、公開前から舞台裏でのトラブルが伝えられていた本作には、なるほど確かに欠点も多い。とりわけ、マーシャル監督と組んできた撮影監督サム・マッカーディの降板、そして最終編集権をめぐるゴタゴタは、この映画のどこかぎこちない語り口と無関係ではないように思える(監督にスタッフ編成権やファイナルカット権が無い、なんて状況はザラにあるが、問題は過程だ。少なくとも、マーシャル監督が本作のプレミアを欠席したという事実は、そんな「ザラにある状況」を通過した先の何かを物語ってはいまいか?)。リブートした途端、批評・興行面で派手にスッ転んでしまった『ヘルボーイ』。せっかく続編に使えそうな魔道具を本編各所に仕込んでおいたのに、再びの出直しを命じられた地獄坊やが不憫でならないが……いーや待て待て、メソメソ駄目絶対。たとえストーリーが少々凸凹していようとも、人食い巨人や人食い魔女、コウモリ怪人に糞ブタ野郎(←文字通りの意味で)、しまいにゃ超巨大モンスター軍団まで景気よく登場してくれる百鬼夜行モノが見どころ皆無であるはずはない。グロ描写に舌鼓を打つのもよし、若干弛緩気味のB級テイストを愉しむのもよし。最初のうち、パールマン版と比べて粗野で悪相でとっつきにくかったハーバー版ヘルボーイが段々と可愛く見えてきたならば、もうシメたものだ。ニムエ役のミラ・ジョヴォヴィッチが、本作への否定的な評価に対して放った「“騒々しくて血みどろでハチャメチャな映画”……最ッ高じゃない!(※筆者意訳)」というアンサーは実に頼もしい。俗悪、大いに結構である。