負の連鎖を断ち切った快作
オートボットとディセプティコン、二大勢力の戦いが続く惑星サイバトロン。オートボット総司令官オプティマス・プライムは、敗色濃厚となった戦況を打破するべく、戦士B-127を地球へと送り込む。追っ手との激闘で重傷を負い、ビートルに変形して機能停止したB-127は、18歳の孤独な少女、チャーリーに拾われ、匿われることに。チャーリーはこの金属生命体を「バンブルビー(マルハナバチ)」と名付け、共に生活するうちに強い絆で結ばれていくが、オートボットの残党狩りを進めていたディセプティコン勢が遂に地球にも飛来。チャーリーとバンブルビーの命運、そして世界の存亡をかけた戦いが、今まさに始まろうとしていた……。
マイケル・ベイ監督、スティーヴン・スピルバーグ製作総指揮の人気SF超大作『トランスフォーマー』シリーズ(07~17年)。回を重ねるごとにアクションや爆破が派手さを増し、併せてストーリーもシッチャカメッチャカに複雑化、前作『トランスフォーマー/最後の騎士王』(17年)では、とうとうシリーズ最低の興行成績を喫してしまった。数字で明白に示されたファン離れ、日頃ドンブリ勘定しかしないプロデューサー連中もさすがにこりゃイカンと思ったか、今回は予算もキャラクターの数も思い切って削減(とはいえ、バジェット1億ドル超の大作であることに変わりはないが)。監督に『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(16年)で高い評価を得た俊英トラヴィス・ナイトを招聘した結果、何もかもが肥大化していくばかりだった「シリーズの負の連鎖」を断ち切ることに成功、キリリと引き締まった快作が誕生した。
主な舞台となるのは1987年のサンフランシスコ。ソ連がまだ存在し、携帯電話はダンベル並みにデカ重く、コンパクトカセットやVHSがブイブイ言わせていた時代だ。インターネットの普及で生活に大変革が起こる以前の「あの感じ」が、小道具やBGMによって嫌味なく再現されているためか、映画全体の雰囲気も過去作に比べてずいぶんとマイルドである。お馴染みバンブルビーやオプティマス・プライムをはじめ、トランスフォーマーたちのデザインはパーツ過多だったベイ版から大幅にモデルチェンジ。特に、人間サイドの主人公チャーリーと並んで全編出ずっぱり状態のバンブルビーは、小型化と丸っこいフォルムへの変更で可愛らしさが倍増し、これによって「異種間交流で友情が芽生える」というプロットがずっと呑み込み易いものになった(身長30mのサンダやガイラよりも、超人ハルクのほうが「話せばわかってくれる」気がするものです……よね?)。
チャーリー役に『トゥルー・グリット』(10年)、『ピッチ・パーフェクト』2&3(15年、17年)のヘイリー・スタインフェルドをアテたのも大正解。彼女の凛とした佇まいと「ガール・ネクスト・ドア」的な魅力は、変にボーイッシュなわけでもなく、かといって色気に傾き過ぎてもいない。端的に言って「絶妙」であり、チャーリーに想いを寄せるオタク少年・メモ君との距離感も、お話を停滞させることなく微かに栗の花っぽい匂いを感じさせる程度に留まっている。ミーガン・フォックスやロージー・ハンティントン=ホワイトリー、ニコラ・ペルツじゃあ、こうはいくまい。劇中、チャーリーとバンブルビーがハグを交わす場面が何度かあるが、ここではスタインフェルドの演技力と存在感のおかげで、CGキャラ(部分的にアニマトロニクス)であるはずのバンブルビーの実在感までもが強度を増している。これぞまさに、演技がもたらす化学変化。ファンタジーに「らしさ」を加える作業は、技術スタッフだけに丸投げされた仕事では無いのだ。
長編実写映画の演出は初となるトラヴィス・ナイト監督だが、ストップモーション・アニメの現場で培ったストーリーテリング能力・画面構成力は確かで、激しいアクションシーンでも心地良いテンポを維持し、ツボを外さない。前作までのカオティックなカメラブン回し撮影に慣れている観客の中には「『トランスフォーマー』のアクションがこんなに観やすいハズがない!」と、妙な違和感を覚える人もいるだろう。「味はともかく腹一杯食わせる」方針はベイ監督にお任せするとして、シリーズに新しい風を吹き込む試みも大切だ。そして素晴らしいことに、今回はそのチャレンジが吉と出た。『バンブルビー』の批評的・興行的成功がこれからの『トランスフォーマー』にどんな影響を与えるか、楽しみである。