2019年
監督:アレクサンドル・アジャ
出演:カヤ・スコデラリオ、バリー・ペッパー、ロス・アンダーソン、モーフィッド・クラーク
DVD公式サイト:http://paramount.nbcuni.co.jp/crawlmovie/
台風!洪水!!人食いワニ!!!悪夢のステイホーム
大型ハリケーンが迫りつつあるフロリダ州。大学競泳選手のヘイリーは、姉からの電話で父親のデイヴと連絡が取れなくなっていることを知らされる。当局の避難勧告を無視して、デイヴがいると思われる湖畔の一軒家に向かったヘイリー。しかしそこには父の車があるだけで、家の中には誰もいない。床下から不審な物音を聞きつけ、地下室へと下りていったヘイリーは、重傷を負って倒れているデイヴをついに発見するが、地上に戻ろうとする親子の行く手を遮ったのは、巨大なアリゲーター。刻一刻と増水していく地下室で溺死の危険も迫る中、凶暴な捕食生物に囲まれてしまった2人の、決死の脱出劇が始まった……。
『死霊のはらわた』(81年)のサム・ライミがプロデューサーを務め、アレクサンドル・アジャを監督に招いて完成させたアニマル・ホラー。『ホーンズ 容疑者と告白の角』(13年)、『ルイの9番目の人生』(16年)など、最近は直球ホラー以外の題材にも積極的に挑戦していた感のあるアジャ監督だが、本作ではサラリと原点回帰。地下室から屋根上への避難、言ってしまえばただそれだけなシンプル極まりない物語を、『ハイテンション』(03年)や『ヒルズ・ハブ・アイズ』(06年)の頃のような即物的ショック演出の積み重ねでテンポよく描いている。
ワニ……ギザギザの歯が生え揃った大アゴと鎧の如きゴツい鱗を有するその姿は、ただ日光浴をしている時でも威圧感満点。殺る気スイッチがオンになった際の動作は驚くほど敏捷であり、目にも留まらぬカミカミ攻撃でもって瞬時に獲物を屠る(YouTube等の動画共有サイトにもこのテの映像があるが、あれまさに必殺の咬撃)。殊更「危険でござい」と強調して描く必要も無いほどに完成された生物であるため、動物パニック・ムービーの悪役として、サメと並び長年重宝がられてきたワニさん。そんな玉石混淆、数あるワニ映画と比較しても、『クロール』に登場する人食いアリゲーターはリアルさと誇張のサジ加減がかなりヨロシい。
『アリゲーター』シリーズ(80年、91年)や『U.M.A レイク・プラシッド』(99年)、『カニング・キラー/殺戮の沼』(07年)あたりに登場する、規格外サイズ且つ一点モノのワニたちを“個性派”とするならば、本作のワニは常識の範囲内におさまる大きさの“無個性派”。お堅い連中の顰蹙を買い、俗悪映画ファンを歓喜させたアジャ監督の『ピラニア3D』(10年)と同様、数にモノ言わせて主人公たちを狩り立てる。濡れ透けTシャツコンテスト会場のビーチを鮮血で染めたピラニア軍団と比べると、こちらのCGワニは外見も行動もだいぶリアリティ重視で拵えてあるものの、こういうところでサービス精神を忘れないというか、猫を被ろうとしてもつい地が出てしまうのが僕らのアジャ流。フレーム内のベスポジでスマホを踏み潰し、アーティスティックスイミングのような連携攻撃で人体を一瞬にしてバラバラに引き裂くワニたちは、どんなタイミングでどう映れば効果的かをよく心得ている。ヘイリーの反撃で手負いになったワニが、傷口を彼女に見せつけながら威嚇、「お前、ツラ覚えたかんな」と言わんばかりにズリズリと闇に潜っていくところなどは、ケレン味満点でカッコいいとさえ感じるほどだ。さらには、総量500万リットルの水とVFXを用いて描かれたハリケーンにより、災害パニック+タイムリミット・サスペンスの要素まで加算される欲しがり具合。生きたワニを使って撮影したという触れ込みの『ブラック・ウォーター』(08年)が、本物へのこだわりと引き換えに犠牲にしてしまっていたもの、それが本作には頭から尾っぽの先までミッシリと詰まっている。
命乞いなど一切通用しない最凶マンイーター、そんな連中の猛攻をかわしながら90分弱の上映時間をもたせる生き餌=人間サイドも、ひたすらヤラレっぱなしかと思いきや存外タフだ。ヘイリー役のカヤ・スコデラリオは、テリーサ・パーマーやクリステン・スチュワートと同タイプの鋭角系美人で、苛められれば苛められるほどに魅力がアップ。バイ菌がたっぷり含まれていそうな地下の汚泥の中、傷だらけの身体で必死に這いずり回り、時折捨て身の反撃すら試みるヒロインの姿は実に凛々しく、美しい。かつて『プライベート・ライアン』(98年)における独特のボルトアクションライフル操作&徒ならぬ手練れ感で世のミリオタたちを魅了したバリー・ペッパーも、「のっけから既に満身創痍」というデイヴ役を好演。開放骨折その他諸々の深傷からくる激痛を、気合と根性で押し殺しながらヘイリーを全力サポート、新型コロナウイルス感染症の流行で身も心も萎えてしまった観客に「人間って意外と頑丈なんだぜ」という前向きなメッセージを届けてくれる(多分)。
“ステイホーム”だの“おうち時間”だのといったスローガンを連日聞かされ続けてイイ加減耳タコ、「分かっちゃいるけど気がクサクサしてしゃーない」と感じている人はきっと多いはず。ソファーで犬と戯れながら茶をしばくのも悪くはなかろうが、火事場ATMドロがワニに豪快に喰われる映画を鑑賞するのだって、なかなかオツな憂さ晴らしである。日々の行動にもアレやコレやと制限が付くようになった昨今、観る映画の内容にまで“不謹慎”なんて横槍を入れられちゃたまらない。そのテのお節介を焼きたいならばどうぞ、検察庁法改正案の審議中にワニ動画を眺めてた御仁にでも焼いてやっておくれやす。