2020年
監督:綾部真弥
出演:市原隼人、武田玲奈、佐藤大志、豊嶋花、辻本達規(BOYS AND MEN)、水野勝(BOYS AND MEN)、直江喜一、ドロンズ石本、いとうまい子、酒向芳
公式サイト:https://oishi-kyushoku.com/
激闘!共闘!狂気の給食宇宙
1984年。“食育健康”を教育理念とする常節中学校では、数学教師・甘利田幸男と生徒の神野ゴウによる「どちらがよりおいしく給食を食べるか」という超絶給食バトルが続いていた。日々独創的な摂食スタイルを編み出して甘利田を驚愕させる神野は、給食メニューのより一層の充実を目指し、“給食改革”を公約に生徒会選挙への出馬を宣言する。そんな中、教育委員会から衝撃的な極秘通達が。なんと、学校から給食が無くなるというのだ!突然の知らせに動揺を隠せない甘利田と、事情を知らぬまま選挙活動に勤しむ神野。果たして、給食をこよなく愛する彼らの運命や如何に……。
2019年10月から12月まで、テレビ神奈川、TOKYO MXほかにて放送された学園コメディ『おいしい給食』(全10話)の劇場版。市原隼人、武田玲奈、佐藤大志などのオリジナルキャストに新メンバーを加え、熱くバカバカしい給食ウォーズが繰り広げられる。監督は、TVドラマ版でも演出を担当した綾部真弥が続投。
給食。小中学校生の頃は大してアリガタみを感じることなく口にしていたが、今になって振り返れば、よくもまぁあれだけ豊富なメニュー、栄養バランスを考えて9年間も食わせていただいたものだと心底から感じ入る(こんな愚物のために欠かさず給食費を納め続けてくれた両親への感謝の念は言わずもがな)。特別献立が出る日のワクワク感、デザートのジャンケン争奪戦など、義務教育期間の楽しい思い出がほぼ給食アレコレで占められている人は意外と多いのではないだろうか。本作の主人公である甘利田幸男も、学校給食にかける愛と情熱は相当なもの……いや、あまりに愛が強すぎて、もはや基地の外へとハミ出てしまっている御仁だ。
学校に行く最大理由が「給食を食べること」という、教師としては(というよりも社会人として)チョットどうなのよと思わざるを得ないユニークな人格破綻をきたしている甘利田先生。普段の朴念仁ぶりと、給食の時間だけ見せる異様なハイテンションのギャップが、彼の抱える狂気をより一層際立たせている。ミルメークひとつであれだけ高揚する成人男性というものは控え目に言ってもだいぶキモく、正直、現実世界ではあまり関わりたくないタイプの人であるが、市原隼人の過剰芝居によって作品全体のリアリティラインがだいぶユルめに設定されているため、ひとたび流れに乗ってしまえば、少々誇張の効き過ぎたお話もさほど苦労することなく呑み込める。さすが、かの怪作『神様のパズル』(08年)のトンデモ・クライマックスを力業で成立させてみせた俳優、というべきか(ついでに言及しておくと校長先生役の酒向芳、『検察側の罪人』〈18年〉で最低粘質被疑者を演じた人とは思えない好々爺ぶりに驚かされる)。
物語の主戦場となる常節中学校にしてからが結構ヘンテコな空間であり、甘利田と神野のフードバトルは勿論のこと、生徒会選挙や交友関係、果ては教師の人事異動にまで給食が(程度の差こそあれ)絡んでくる。ギャンブルに支配された『賭ケグルイ』の百花王学園や、生徒が勉学そっちのけで喧嘩道のテッペンを目指す『クローズ』の鈴蘭高校ほどあからさまでは無いにせよ、この中学校における給食の影響力はかなり強い。教員も生徒さんも給食のおばちゃんも、給食をめぐって怒り、笑い、さめざめと泣く。給食廃止のお達しにイキリ立った甘利田に至っては、凶報を持ってきた教育委員会職員に対し「給食をバカにするアンタに、教育を語る資格は無い!」と食ってかかる始末だ。普通なら「お前がソレ言うか?」とツッコんでしまうような台詞だが、ここではおいしい慣習を是が非でも守ろうとする甘利田先生こそ正義!特殊環境下の香ばしいジャスティスに、観ているこちらも頭がクラクラしてくる(そういえば、甘利田が給食に舌鼓を打っている背後、本棚に並んだテキスト教材の中に“DVD”の文字を見た気がした。設定では1984年のはずだが……筆者の眼が節穴、あるいは本当に時空の歪みが生じているのかもしれぬ)。
いきなり劇場版から鑑賞したとしても、ストーリーを追いかけるのはさほど難しくない。だがもしも可能であれば、TV版全10話を観て劇中世界の空気に慣れた後、本作に突入することをオススメする。給食マニア同士の静かなるカッ飛びバトルからハートウォーミング路線に舵を切る……と見せかけて、その実全然そうはいかない狂気の給食ユニバース。腹を壊すことも覚悟の上で、どうぞ奮って御参加いただきたく存じます。
【『劇場版 おいしい給食 Final Battle』は、3月6日(金)より全国ロードショー】