映画レビュー

映画『ダウンレンジ』レビュー!

北村龍平監督の血みどろ限定空間スリラー『ダウンレンジ』を先行レビュー!

[2017年 監:北村龍平 出:ケリー・コンネア、ステファニー・ピアソン] ※本作はR15+指定作品です

荒野に漂うナパームの香り

SUVで相乗り旅行を楽しんでいた男女6人の大学生。しかし走行中にタイヤが突然バースト、一行は山道で立ち往生してしまう。タイヤ交換のあいだ、車を降りて思い思いに時間を潰す若者たち……と、その時、パンクしたタイヤから一発の銃弾が転がり落ちる。刹那の静寂ののちに始まる銃撃と、次々に撃ち斃されていく学生たち。正体不明の「敵」の射程に捉えられてしまった彼らは、車の陰に身を隠しつつ、生き地獄からの脱出を試みるのだが……。

なにか凶悪な事件が発生すると、人はそこに「なぜ?」「どうして?」という疑問に対する答えを探し求める。色欲、金銭欲、ピント外れの名誉欲……どんなショボい理由であろうと、見つからないよりはずっとマシだ。その犯行動機を取っ掛かりに、事件や犯人が纏っていた一種の神秘性、不気味さをほんの少しでも剥奪すれば、それだけで幾許かの安心感を得ることができるのだから(勿論、動機の解明などなんの慰めにもならないほど陰惨な事件、というやつだって山ほどあるのだが)。逆に、背後関係や動機が不明瞭な蛮行というものは、それを見聞きした者の心に言い知れぬ不安や恐怖をもたらす。フィクションの世界においてもその点は同様。行動原理の掴めないキャラクター(と、そいつが行使する暴力)は、未知の怪生物や神出鬼没のブギーマンと同じくらい気味悪く、おっかない。

『ダウンレンジ』に登場する謎の狙撃者は、経歴も犯行動機も一切不明の「名なし顔なし」。ギリースーツに身を包み、得物はライフル。水や食料を経口摂取する描写もあるため、どうやら生物学的にはヒトであるらしいのだが、殺人にかける異常な執念以外の個性が判然としないその佇まいは、コイツを人間と断定することすら躊躇させるほどに禍々しい。そうなると劇中、断片的にチラリと映る狙撃者の顔には、カモフラージュ用に施されたフェイスペイント以外の要因からくる妙な異物っぽさ、化け物臭さが漂っているようにも見えてくる。ひょっとするとヤツはヒトではなく、数十年周期で休眠と復活を繰り返す超自然的な存在なのかも……そんな勘繰りの余地を残しているあたり、不可解な大量殺人鬼やクリーチャーたちが跳梁跋扈していた80年代スラッシャー・ホラー映画のDNAを本作からも感じることができる。

監督は、『VERSUS-ヴァーサス-』(01年)や『あずみ』(03年)などで知られる北村“ナパーム”龍平。最大積載量ギリギリ(ときには超過)の要素を一本の映画にブチ込んでくることが多い北村監督だが、渡米後に製作した『ミッドナイト・ミート・トレイン』(08年)、『NO ONE LIVES ノー・ワン・リヴズ』(12年)で顕著であるように、彼本来の持ち味は枝葉を削ぎ落としたシンプルな物語の中でこそ活きてくる。最小限の予算を使い、無名若手キャストを起用して作られた『ダウンレンジ』では、全長100mほどの限定空間に濃密なナパームの香り=北村テイストがムンムンだ。終盤、とある人物のシルエットが逆行でドヤサと浮かび上がる“ハイランダー・ショット”など、「おっ、やってるやってる!」と嬉しくなってしまった。黒いユーモアを孕んだ超絶意地悪な幕切れを含め、賛否の分かれる作品であることは間違いないが、そんな反応も受けとめたうえで我流を貫き続けるのが異端児・北村龍平の男道。もしも将来、老若男女誰もが気楽に楽しめる「万人受けする北村龍平監督作」なんてものが生まれたとしたら……その状況こそ、究極のホラーである。

公式HP:http://downrangethemovie.com/
監督・製作・原案:北村龍平(『ルパン三世』)
製作総指揮:真木太郎(『この世界の片隅に』)
出演:ケリー・コーネア/ステファニー・ピアソン/ロッド・ヘルナンデス・フェレラ/アンソニー・カーリュー/アレクサ・イエームス/ジェイソン・トバイアス

映画『ダウンレンジ』は9月15日(土)より、新宿武蔵野館にて公開

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