2020年
監督:ヨン・サンホ
出演:カン・ドンウォン、イ・ジョンヒョン、キム・ドユン、クォン・ヘヒョ、イ・レ、イ・イェウォン、キム・ミンジェ、ク・ギョファン
公式サイト:https://gaga.ne.jp/shin-kansen-hantou/
オマージュ大量投入で“マッド”に染まった終末世界・韓国
ゾンビ・パンデミックによる韓国崩壊から4年後。元軍人のジョンソクは、肉親を守れなかった自責の念に苛まれながら、亡命先の香港で暗澹とした日々を送っていた。そんな彼のもとに、地元ギャング団からある“仕事”の依頼が舞い込む。チームを編成して密かに半島に戻り、大金を積んだまま街なかに放置されているトラックを持ち帰れというのだ。巨額の報酬につられた義兄のチョルミンが計画に乗ったため、ジョンソクもやむなく同行を決意。だが、潜入に成功したチームを待ち受けていたのは、廃墟と化した街を埋め尽くさんばかりのゾンビの群れと、秩序無き世界で凶暴性を剥き出しにする武装集団“631部隊”だった……。
高速走行する列車内部での、生存者とゾンビの壮絶な戦いを描いた傑作『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16年)。スピード感にスリル、「一本の管の中」という特殊ステージをフルに活かしたアクション、そして胸アツな人間ドラマ……尋常でない欲張り設計ながら、全てのピースがおさまるべき場所にピタリとハマったこの作品は世界中で好評を博し、アニメ畑出身の新鋭監督、ヨン・サンホの名を世に知らしめる結果となった。こうなれば自然な流れとして、続編の制作も早々に決定したわけであるが(『新感染』の本国公開直後には、ヨン監督の手による前日譚『ソウル・ステーション/パンデミック』〈16年〉もリリースされている)、「爆走する密室が舞台」という前作最大の特性から切り離されたパート2は、『ニューヨーク1997』(81年)や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15年)のような終末感を前面に打ち出した、オーソドックスなSFアクション巨編に仕上がっている。
それにしても、過去作品へのオマージュをこれほど臆面もなく曝け出した映画というのも珍しい。「モダンゾンビの父」ジョージ・A・ロメロ監督作品からのイタダキは当然として、『ターミネーター』シリーズ(84年~)、『マッドマックス』シリーズ(79年~)、『エスケープ・フロム・L.A.』(96年)、『ザ・ロード』(09年)、『ドゥームズデイ』(08年)等々の影響が超濃厚。微かな香り付け程度の引用まで含めれば、それこそ長大な出典リストが出来上がるだろう(631部隊が野蛮なデス・ゲームに興じる闘技場、床が水に浸かっているのは、擬斗を水飛沫でダイナミックに演出した『トム・ヤム・クン!』〈05年〉が元ネタかしら?)。ヨン監督自身、いろいろな映画や漫画からネタを頂戴してきたことはアッサリ認めているし、ここまで堂々とやられると“パクリ”なんて言葉を持ち出すのが野暮くさく思えてくる。
荒れ果てた都市の景観や雲霞の如きゾンビの大群も、それ自体は過去のポスト・アポカリプス映画で幾度となく目にしてきたイメージであり、特に新味があるわけではない。ではどこにオリジナリティが宿っているのかといえば、本作の舞台が今までに何度も“壊滅”させられてきたアメリカやイギリスではなく、韓国であるという点だ。『アイ・アム・レジェンド』(07年)のタイムズ・スクエアと『ドラゴンヘッド』(03年)の渋谷駅ハチ公前広場が、同じ廃墟でもずいぶん異なったヴィジュアル・インパクトを有しているように、破壊され、風雨にさらされてズダボロになった仁川港~ソウル市内の景色は、過去作で描かれた荒廃都市とはまた一味違った強い印象を残す。経年劣化が進んだゾンビたち(ロクな餌もない環境で4年間活動し続けている連中のこと、もう“感染者”なんてボカした呼称でなく“ゾンビ”でよかろう)も、腐敗し黒ずんだ皮膚の下に見えるのは極々ありふれた“ご近所さん”的顔貌であるため、妙に存在が生々しい。
予告編を観た段階では、文明崩壊ですっかり外道アニマルズと化したゴロツキ連中の描き方が、あまりにもカリカチュアライズされ過ぎなのではないかと気を揉んだが、蓋を開けてみれば、この漫画的誇張と韓国映画特有のテンションの高さ、なかなかどうして相性がいい。むしろ、リアル志向の枠をあえて取り払うことで、『北斗の拳』チックな荒ぶるヒャッハー集団や、VFXを駆使したハチャメチャなカーチェイスが、物語にうまく馴染んでいる(水着オネーチャンのピンナップに頬擦りしたり、仲間のホモ疑惑を冷やかしたりと、セックス絡みの描写がやたら幼稚で童貞クサいのも可笑しい)。暗闇で蠢くおぞましい“何か”が月明かりに照らし出されるショックシーンなどは、ヨン監督のアニメーション作家としての感性が活きた、ケレン味満点の名場面といえよう。
オマージュ満載、小気味よいアクションもタップリ、マジとオチャラケが目まぐるしく入れ替わるハイテンポ演出……またも耐荷重ギリギリとなった物語のまとめ役を担っているのが、韓流スター、カン・ドンウォン扮するジョンソクであり、これは彼の贖罪の旅でもある。「抜群のコンバットスキルを持つ、心に深い傷を負った元兵士」は、高い身体能力+口ほどに物を言う憂いを帯びた眼のオーナー=ドン様にとっては、もはや当て書きにも等しいハマリ役。凛々しい女性キャラクターたち(『軍艦島』〈17年〉のイ・ジョンヒョン、『ソウォン/願い』〈13年〉での可憐な少女と同一人物とは思えぬほどに成長したイ・レ)と共同戦線を張り、過去の悲劇を繰り返すまいと傷だらけで奮戦するジョンソクのカッコ良さは、前作で素晴らしい演技を見せたコン・ユやマ・ドンソクの不在から生じる「ココロのスキマ」を埋めてくれる。「コロナ禍にパンデミック映画なんて……」と敬遠するなかれ。“マッド”に染まった終末世界・韓国、一見の価値アリです。