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映画『エンジェル、見えない恋人』予告編

映画『エンジェル、見えない恋人』予告編

<Introduction>
姿の見えない少年“エンジェル”と、盲目の少女“マドレーヌ”。
世界の片隅で出会ったふたりの、小さな恋の物語。詩的で幻想味あふれる映像美に包まれた、とびきりピュアな珠玉のラブロマンスがヨーロッパから届いた――。

製作を務めるのはベルギーの至宝と呼ばれる名監督、ジャコ・ヴァン・ドルマル(『神様メール』『トト・ザ・ヒーロー』)。彼が自身の映画に出演している俳優であり、長年の友人でもあるハリー・クレフェン監督とタッグを組み、『ぼくのエリ 200歳の少女』や『シザーハンズ』に続く、切なくも愛おしい究極のラブロマンスが誕生した。

映画『エンジェル、見えない恋人』予告編

語り部は“見えない”男の子、エンジェル。
この不思議な物語は、ほぼ全編、彼の視点を通した映像世界で綴られていく。

エンジェルが生まれ育つのは、ある閉ざされた施設の中。
彼の母親、ルイーズはマジシャンの恋人に捨てられ、心を病んでしまい施設に入居。その後、特異体質を持つ赤ん坊エンジェルを生む。
母親と仲良く暮らしていたある日、初めて施設を抜け出して外の世界に出たエンジェルは、盲目の女の子マドレーヌと知り合う。
エンジェルの秘密に気が付かないマドレーヌ。次第にふたりは心惹かれ合っていく。
そんな時、マドレーヌは目の手術を受けることになるが……

映画『エンジェル、見えない恋人』予告編

姿が見えない男の子と、目が見えない女の子の幸福の日々。声と匂い、気配や息遣い、体が触れ合った感触、そして相手への想いが凝縮されたシンプルな言葉で、互いの存在を求め合う。
やがてマドレーヌの視力が回復した時の、葛藤。自分の秘密を打ち明けるべきか悩むエンジェルの焦燥が、映画を観る我々にもひしひしと伝わってくる。

木漏れ日のソフトな自然光など、映像の素晴らしさも見ものだ。特に透明のエンジェルと、マドレーヌが交わる異色のラブシーン。フェティッシュな目線で肌に迫るメロウで官能的な描写が、観客の感覚をも優しく撫でるようにうっとり酔わせる。
また極力CGに頼らず、クラシックな実写の特殊効果を独自の工夫で用いたシーンの数々。まるで魔法のような技術とイメージが画面に独特のポエジーをもたらす。

映画『エンジェル、見えない恋人』予告編
映画『エンジェル、見えない恋人』予告編

キャストにも注目。美しく成長したヒロインのマドレーヌ役を演じるのは、これが長編映画デビューとなる新星フルール・ジフリエ。彼女を含めて幼少期、10代の思春期と、三人の女優がマドレーヌを演じるが、そのスムーズなスイッチングには誰もが驚くはず。切り替わりに気づかなかったという観客も居たほど、少女から大人までの成長がごく自然に見える。
エンジェルの母親ルイーズ役には、エリナ・レーヴェンソン。ハル・ハートリー監督の『シンプルメン』や『愛・アマチュア』での鮮烈な姿で知られるほか、最近では『わたしたちの宣戦布告』などの代表作を持つ名女優である。

映画『エンジェル、見えない恋人』予告編

そして何といっても映画の要となるのは、エンジェルの実在感だ。我々は姿が見えない彼の心情を確かに感じて、その繊細な動きに共感するだろう。斬新な着想のおとぎ話を、不思議なリアリティでみごとに支えている。

映画『エンジェル、見えない恋人』予告編

https://youtu.be/SAMh1Rw8zD8

<STORY>
「エンジェル、お前が生まれる前の話よ。パパはマジシャンだった。
得意技は姿を消すイリュージョン。パパとママは愛し合っていたの」――。

マジシャンの恋人が謎の失踪をしてしまい、心を病んでしまったルイーズ。
施設に入居した彼女が生んだ息子のエンジェルは、不思議な特異体質を持っていた。
誰の目にも、その姿が見えないのだ。

世間との接触を一切絶ち、懸命に息子を育てるルイーズ。勉強も遊びも、いつも一緒。
特にエンジェルは、ママが小さい頃に両親に連れられて行ったという、湖のほとりにある小屋の話が大好き。
ルイーズの深い愛情に包まれて、彼は優しい男の子に育っていった。

そんなある日。エンジェルはふと施設の窓から近所の屋敷を覗き見る。
初めて見る外の世界の人の姿。
彼はそこにいた女の子のことが気になって仕方がない。
まもなく勝手に施設を抜け出し、近所の屋敷に向かうエンジェル。
木漏れ日の中、庭でブランコに乗っていたのは、盲目の女の子マドレーヌだった。

「こんにちは、はじめまして」
「……ぼくのことが見えるの?」
「見えないけど、声と匂いがするから」

エンジェルの秘密に気がつかないマドレーヌ。次第にふたりは心惹かれ合っていく。かくれんぼをしたり、草の上に並んで寝そべったり。互いの体や存在を感じ合い、やがてキスも……。
この小さな恋人たちは、ふたりきりの幸福な時間を日々過ごしていった。

しかし一方、ルイーズの容態はどんどん悪くなるばかり。
そんな折、マドレーヌは目の手術を受けることになる。
視力が回復すれば、あなたの姿を見られる。そう言うマドレーヌに対し、エンジェルは自分の秘密を伝えることができない。
「待ってるよ……ずっと。毎日毎分毎秒、君を想うよ」

そして数年の歳月が流れた。
ルイーズは、その間に亡くなってしまった。

ある日、とうとうマドレーヌが屋敷に戻ってくる。
すっかり美しい女性に成長した彼女。
目の手術も成功し、視力は完全ではないが回復。ひとりでどこにでも行動できるほどには見えるようになっていた。
マドレーヌは、エンジェルの姿を探す。
しかし彼はどこにもいない。

再び会えることを願って、マドレーヌは亡きルイーズのお墓に手紙を置いてくる。
「エンジェル、戻ったわ。どこにいるの? 手紙を読んだら、姿を見せて」
実は、すぐそばに居たエンジェル。彼はマドレーヌに返事の手紙を書いた。
「昔みたいに会いたい。目を閉じてくれる?」

こうして再会したふたりは、互いを強く求め、また夢心地の時間を過ごすことになる。
しかし、あなたの姿を見たいというマドレーヌの想いは消えない。
こうしてエンジェルは、いよいよ自分の秘密を彼女に打ち明けることになる……。

<Column>
“見えない子供”の夢を見ているのは誰?
村山章(映画ライター)

 もう何年も、いや何十年も映画ばっかり観て暮らしてきた。もはやいいことなのか悪いことかもわからないが、ミステリー小説を読み漁る人がトリックや真犯人が誰なのかをつい先読みしてしまうように、『エンジェル、見えない恋人』には映画好きがたやすく引っかかってしまう罠が待ち受けている。

 本作は、生まれてきた子供が透明だった――という突拍子もない大前提から始まる。額面通りに受け止めるならかなり奇妙なファンタジーだ。しかし映画に毒された脳が警告を発する。「ちょっと待て、あり得ないことが起こる時、そこには何か理由や隠喩があるはずだ」と。

 ヒントはあちこちに散りばめられている。母ルイーズはどうやら医療施設に入院していて、次第に精神病院らしいとわかる。イリュージョニスト(魔術師)である父親も、母が語る思い出に登場するだけで、実在するかはわからない。いや、現実と思しきシーンで一瞬だけ父親らしき人物が映りはするが、本当に父親なのかは明かされないし、ルイーズが見た幻影かも知れないのだ。

 謎解きに飛びつくなら、姿が見えない息子エンジェルは現実には存在せず、ルイーズが生み出した妄想だと考えるのが筋だ。実際、監督のハリー・クレフェンは、「この物語はすべてルイーズの病んだ精神の中での出来事だと観る側が感じるように」エンジェルの存在にまつわるリアリティを意図的に曖昧にしたと語っている。

 ところが、この映画のミステリーはもっと深いところに存在していた。仮にエンジェルの誕生も、彼の成長も、モノローグで語られる彼の言葉も、すべてルイーズの妄想だとしよう。しかしそのルイーズが、愛する息子を残してこの世を去ってしまうのだ。エンジェルがイマジナリーフレンドならぬイマジナリーチャイルド(想像上の子供)であるならば、ルイーズの死とともにエンジェルも消えてしまわなくてはならない。しかしエンジェルは、主体であるルイーズを失ってもなお、自我を持ったままこの世に留まり続ける。ここからホラ話は思いもよらない方向へ走り出すのだ! 

 マンガ家・しりあがり寿の傑作幻想譚『真夜中の弥次さん喜多さん』には、失恋した女性を慰める妄想のバーテンダーが登場する。バーテンダーは女性に眠らせて、永遠に夢を見せ続けている。彼女の夢が続く限り、彼もこの世に存在していられるからだ。しかし本作のエンジェルは、妄想から生まれたのだとしても、自分自身の生を生きることになる。ある意味でルイーズの死は、エンジェルにとっての解放だったかも知れない。

 もうひとつ別の仮説を述べることを許してほしい。劇中でエンジェルが交流を持つのは、母ルイーズと、彼の存在を気配で察知してくれた盲目の少女マドレーヌの2人だけだ。つまりエンジェルを生み出したのは、ルイーズではなくマドレーヌだったとは考えられないだろうか。生まれた時から視界のない世界で育ったマドレーヌが、想像しうる友だちを創造した時に、姿形を持たせることができなかったのではないか。

 いや、こうやって理屈を付けて整合性を見出そうしても、結局、この摩訶不思議な映画が放つ魅力をつかみ取ることなどできはしない。むしろそんな努力を意に介することなく、エンジェルとマドレーヌの不器用だがピュアな恋物語は着々と進行していくのである。何度も頭をもたげた「エンジェルは実在しない」という疑念は、エンジェルの狂おしい想いや葛藤に触れているうちに、ほとんど意味を失ってしまうのだ。そしてエンジェルとマドレーヌがたどり着いた透明人間の活用法、「ふたりでイリュージョニストになる!」というアイデアのいかに即物的なことか! こうなってしまっては、もう目の前の不思議を受け入れるしかないではないか。

 しかし、やはりすべては「うたかたの夢」に過ぎないのかも知れない。ルイーズの大切な思い出だった愛する夫との幻惑的なショーが、めぐりめぐってエンジェルとマドレーヌによって再現される美しい円環構造は、透明な子供よりもさらに鮮やかに浮世離れしている。心を病んでしまったルイーズも、誰にも汚すことができないエンジェルも、そして目が見えるようになったことで、非現実の権化のようなエンジェルを現実に適合させてしまうマドレーヌも、誰かがどこかで見ている愉悦に満ちた白昼夢であり、それってわれわれが暗い客席から見つめている“映画”そのものだと言えるのでないだろうか。

 最後に、この映画が併せ持っている浮遊感と不安感を体現したルイーズ役のエリナ・レーヴェンソンについて触れておきたい。彼女が世に知られるようになったのは、NYのインディーズ監督ハル・ハートリーが1992年に発表した『シンプルメン』の伝説的なダンスシーンだった。当時の彼女は特徴的なおかっぱヘアーと、夢見るような、それでいてすべてを見透かしたような瞳と、エキゾチックな東欧訛りの英語で、どこか現実離れしたハートリーの世界観を象徴する存在だった。

 実際の彼女はルーマニアで生まれ、母親に連れられて14歳の時に難民としてアメリカに渡った。その後、スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』やジュード・ロウと共演した『クロコダイルの涙』などに出演したが、どこにも属さない超然とした雰囲気そのままに、いつの間にかヨーロッパに居ついて、日本ではあまり消息を聞かなくなっていた。それが『エンジェル、見えない恋人』で、かつてのようにミステリアスな、それでいて生身の切なさを纏った彼女と再会することができた。思えば狂女とも聖母ともつかない“透明な子供”を産み落とす女性として、彼女ほどの適役はいるまいと思うのである。

<監督インタビュー>

・この映画の企画はどのように始まりましたか?

トマ・グンジグ(共同脚本)は、目に見えない主人公がこの世に生を受け成長するというファンタジーをあたためていました。彼の提案が私の心を掴み、目に見えない少年と目が見えない少女のロマンスというアイデアが生まれました。
私をトマに引き合わせたジャコ・ヴァン・ドルマルは、最初からこのプロジェクトに乗り気で、映画の製作を買って出てくれました。ジャコの賢明なアドバイスに従い、まっすぐで純粋なこの叶わぬ恋のゆくえを軸に必要最低限の表現で脚本を練りました。おとぎ話や寓話を想定して書きました。
ほどなくして、プロジェクトに魅せられたオリヴィエ・ローサン(製作)、ダニエル・マルケ(製作)、バート・ヴァン・ランゲンドンク(共同製作)が加わり、当初の予定より大きな予算を組めることになりました。

・制作にあたりどのようなことを考えたのですか?

主人公であり透明のエンジェルの姿は決して見せず、彼の視点で、あたかも内側から物語を語るというアイデアが当然の選択肢としてすぐに浮かびました。
エンジェルの生きる理由はマドレーヌへの愛です。幼い頃は彼女の目が見えないので、この愛は成立します。しかし、視力を取り戻せそうだとマドレーヌがエンジェルに告げたときから、彼が目に見えないという事実はふたたびふたりの愛の障害になってしまいます。
観る側が登場人物の抱える問題を理解できたとき、登場人物の希望や恐怖や喜びを共有できたときに、登場人物との一体感が生まれます。乗り越えるべき障害や目指すゴールが明確で説得力があれば、登場人物との一体感は最高潮となります。
「目に見えなくてもエンジェルはマドレーヌとの恋を成就できるのか」という問題は、シンプルで説得力があり、かつドラマティックです。それ故に、観る側はエンジェルに共感し、彼とともに、内側からこの物語を体験するために彼の皮膚の中に入り込むと私は確信しています。これが、ほぼ全編彼の視点からエンジェルの物語を撮影した理由です。

・撮影はいかがでしたか?

撮影は、長焦点レンズを使って、主に手持ちカメラで行いました。カメラがエンジェルで、私たちが見ているものは彼が<内側から>見ているものだという感覚を作り出すために、被写界深度をごく浅くしました。
私たちはエンジェルの目に映るものを見て、エンジェルが耳にする音を聞きます。ほとんどはマドレーヌとルイーズの姿と声です。このふたりと対比することでエンジェルは存在します。彼の目を通して感じ取れるふたりの反応、感情、感覚を通してです。
一方、エンジェルの視点から外れる場面では、カメラが動かないよう安定させて撮影しました。このような客観的なショットで、エンジェルの存在を“外側から”見ることができます。
シーツの下の彼の体、彼の足跡、肘掛け椅子に身を沈める彼の重み、シャワー中の彼のシルエット、シンクの水を受ける彼の手、彼が手に取る物体、彼が湖に落ちたときに上がる水しぶきなど、つまり、彼が残す痕跡を見ることができるのです。
このような主観的なショットと客観的なショットの繰り返しでエンジェルの存在を効率的に作り出したので、編集中、彼の存在のリアリティで楽しむことができました。この物語はすべてルイーズの病んだ精神の中での出来事だと、ときどき観る側が感じるように。エンジェルの主観的な視点を納得いくまで追求した結果、非常に独特なショットがいくつか撮れました。
俳優たちは、あたかもそれがエンジェルの顔と目であるかのようにカメラを相手に演技しました。ルイーズがエンジェルにキスをするときには、彼女の顔がカメラのギリギリまで迫ってきます。マドレーヌがエンジェルの顔をなでるときには、彼女の手がレンズをかすめます。エンジェルが横向きに寝そべって彼女を見つめるときには、視線が縦になっています。
エンジェルの瞼は透明なので、彼が目を閉じると、映像が少しかすんでわずかに明るくなります。エンジェルが目に涙をたたえると、映像がぼやけます。
マドレーヌがエンジェルの目をのぞき込むとき、彼女はカメラをまっすぐに見つめています。こうして、観る側はふたりの親密な関係を共有しているように感じるのです。
このようなシンプルなテクニックが、エンジェルの“見えない皮膚”の中にいて彼の物語を体験するという観る側の感覚を高めることができたと思います。

・スタッフに関して

若手俳優だった私は、ジャン=リュック・ゴダール監督が少人数のスタッフと働くスピードを目の当たりにする機会がありました(それでもスタッフが多すぎて、物事がすばやく進まないと文句を言っていました)。こういう撮影から生まれる自由に私は強く惹かれました。
この方法にインスピレーションを受け、私の長編映画第2作『Why Get Married the Day the World Ends?(原題)』を撮影しました。スタッフは10人もいませんでしたが、とてもいい経験だったという記憶があります。
今回はさらに踏み込みたいと思いました。若く、意欲あふれる少人数のチームで仕事がしたかったのです。友人であり素晴らしい作品を手掛けているジュリエット・ヴァン・ドルマルに撮影監督を依頼しました。彼女を中心に若いスタッフをそろえ、多才で、団結力の非常に強い、意欲あふれるチームを作りました。ほとんどのスタッフにとって、これが初の長編映画でした。

・キャストはどのように選びましたか?

まず、エンジェルの母ルイーズ役に、ジャコと私は真っ先に、私の長編映画第2作『Why Get Married the Day the World Ends?』に出演しているエリナ・レーヴェンソンを思い浮かべました。この選択は私にとって当然のものでした。
エリナはアートシアター系の映画に精力的に出演している女優です。彼女はとても熱心で、創作のプロセスにおける真のパートナーです。類まれな感受性と演技の才能の持ち主です。窮屈なくらいのあふれる母性愛と若干の狂気という美しい両面性をルイーズに与えてくれました。
マドレーヌを演じられる女優を探すのは困難を極めました。私は当初からマドレーヌは赤毛で碧眼だと想像していました。ずいぶん長い間探し回って、必然的に範囲を広げることになりましたが、優先事項は優れた女優を見つけることでした。
この映画にはおとぎ話のような側面があるので、時を超越した登場人物を演じるうえで必要な<気品と威厳>がある女優に特にこだわりました。<リアルで>現代的でありふれたものを表現する人たちはその条件に合いませんでした。
また、エンジェルというたったひとりの男性しか愛したことがないマドレーヌを演じ切らなければならないので、ある種の<ロマンティックな純粋さ>を醸し出すことができ、なおかつ、魅力的でカリスマ性のある官能的な女優を探さなければなりませんでした。
さらに、エンジェルは見えないので、見えないパートナーを存在させつつ<ひとりで>演技できる女優が必要でした。
何カ月も辛抱強く探し続け、ついにこれらの資質を見事に体現するフルール・ジフリエに出会いました…… 青い目と赤い髪に至るまですべて。
撮影は魔法のようでした。フルールは、その感情の繊細な激しさとまばゆい官能的な存在感をもって、エンジェルを存在させていました。
もうひとつ、フルールの演技に見合う、彼女と外見がよく似ていて成長過程に違和感のない幼女と10代の少女を探すという難関が残っていました。
ハンナは、無理だと思っていたマドレーヌを(相手役なしで)演じ、彼女が盲目だと私たちに信じさせました。キャスティング中、彼女だけがそれをやってのけ、外見もフルールにいちばんよく似ていました。
そしてついに、欠けていた10代を演じるマヤを見つけました。彼女はハンナにもフルールにも似ている貴重な存在で、類まれなる才能の持ち主です。撮影初日から、彼女の集中力とプロ意識にスタッフ全員が舌を巻きました。

・特殊効果について

当初から、見えない登場人物に命を与えるために必要な特殊効果を考えるうえで、映画の予算の問題がありました。<昔ながらの>メカニカル・エフェクトを専門とする友人から貴重なアドバイスをたくさんもらいました。緻密な撮影台本のおかげで、どのエフェクトをセットで済ませることができるか、どのエフェクトをポストプロダクションで作らなければならないかを決めることができました。
最初はひとりで、その後は道具担当と一緒に、何週間もかけて注意深くメカニカル・エフェクトの準備をしました。
物体を(ポストプロダクションで消される)紐で動かしたり、マドレーヌの肌に触れるエンジェルの見えない手の圧力を作り出すために圧縮空気を使ったりしました。ほかにも、いくつかのショットを逆モーションで撮影し、前進モーションで編集しました。この方法は、動きに(コクトーの映画のような)わずかなオフセットと不思議な感覚を与えます。
視覚効果を専門とする若いスタッフがほかのショットを担当しました。彼らの技術、能力、創意工夫、想像力、そして熱意には感心させられました。彼らは素晴らしいパートナーで、極めて複雑なエフェクト(洗面台のシンクの中のエンジェルの手、雨の中のエンジェル)を見事に作り上げました。
また、母親の前で手紙を開封するエンジェルや精神病院の個室の壁にかかった美しい絵の非常に高度なエフェクトを作り出すためにアニメーション技術(ピクシレーション、コマ送り)を使いました。
このような技術をすべて組み合わせることで、革新的な3D技術の先端にいながらにして昔ながらエフェクトの不思議な感覚を得ることができたのです。

・最後に

『エンジェル、見えない恋人』は、見えない登場人物の目を通してラブストーリーを語るという大胆な試みであり、素晴らしい挑戦でした。
目に見えないキャラクターの内側からこの物語を夢想し、とてもシンプルな<見えない者同士>のラブストーリーの魔法が持つ詩情を共に味わっていただければ幸いです。

<ジャコ・ヴァン・ドルマルからのメッセージ>

親しい友人でもあるハリー・クレフェンを、映画製作者として私は非常に高く評価しています。彼のスタイル、彼が編み出す形式や文体のオリジナリティ、彼のカメラの表現が好きです。こんな独特の素晴らしいアプローチにはめったにお目にかかれません。また、ハリーが撮った長編映画が少ないのは、プロジェクトがないからではありません。

『エンジェル、見えない恋人』は、ジャンルを超越した映画です。逆説的に言えば、映画を作り、プロデュースし、撮影する他の手段を探ることを可能にする映画なのです。ごく限られた手段で映画を作ることは緊急課題です(私がその教訓を学ぶには長い時間が必要でしたが)。ショスタコーヴィチが、交響曲の演奏が不可能だと気付き、弦楽四重奏曲の作曲に才能のすべてを注いだときのように。
私は、自分ではやり方が分からない(が、ぜひやってみたい)けれども、ハリーが得意としていることをするように勧めました。それは超低予算と超少人数のスタッフで“アルテ・ポーヴェラ”(貧しい芸術)の映画を撮ることです。これには、映画製作の全過程を見直す非常に有益な機会という意味合いがあります。
言わずもがな、『エンジェル、見えない恋人』を低予算で製作できたのは、トマ・グンジグと共同執筆した脚本のおかげです。10人にも満たないスタッフ、ごく限られたセット、自然光がメインでメイクもなし、衣装も少なく、スクリプターもいない、トラックもない、電子機器もろくにない。スタッフ全員が軽量の機器を使っていました。柔軟性があり素早く動けるスタッフのおかげで、撮影時間が大幅に増えました。
ハリーの映画を支援するうえでの私の原動力は、異なる経済モデルで低予算映画を作れるよう、少人数による撮影と製作の新たな手法を探求できることにもありました。映画製作者はみな、ピアノを弾くように映画を作ることを夢見ていると私は信じています。この映画は、製作過程が魅力的でした。その結果はなおさらです。

フルール・ジフリエ(マドレーヌ)

パリ出身。本作で本格的女優デビューを果たす。本作の撮影後ポール・ヴァーホーヴェン監督の『エル ELLE』(16)に出演。その他『Mr & Mme Adelman』(未17)、『La morsure des dieux』(未17)、『Jalouse』(未17)と近年多くの作品に出演。その他TVシリーズドラマにも出演している。

エリナ・レーヴェンソン(ルイーズ(エンジェルの母))

ルーマニア出身のアメリカ人女優。ニューヨークのインディペンデント映画監督ハル・ハートリーの短編映画『セオリー・オブ・アチーブメント』(未91)で映画デビュー。その後も、ハートリー作品の『シンプルメン』、『愛・アマチュア』に出演し、ハートリー作品に欠かせない女優となる。その他スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』(93)や『バスキア』(96)、『ロング・エンゲージメント』(04)、『ダーク・ウォーター』(06)、『わたしたちの宣戦布告』(11)など数多くの映画に出演している。

マヤ・ドリー(マドレーヌ(10代))

2003年、ベルギー生まれ。本作で女優デビューを果たす。その他『Par-delà la douleur』(17)のアニメ映画に声で出演している。

ハリー・クレフェン(監督/共同脚本)

1956年、ベルギー生まれ。これまでに『神様メール』(16)、『ミスター・ノーバディ』(11) 『トト・ザ・ヒーロー』(91)、など本作の製作を務めたジャコ・ヴァン・ドルマルの作品をはじめ、数多くの作品に俳優として出演している。その他の代表作に『煽情』(10)、『Président』(未06)、『Pour le plaisir』(未04)、『Monsieur』(未90)などがある。監督としては、短編映画『Sirènes』 (未90)でデビュー。その後『Abracadabra』(未93)で長編デビューし、『Trouble』(未05)などを監督。その他、数多くのTVシリーズを監督として手掛けている。

ジャコ・ヴァン・ドルマル(製作)

1957年、ベルギー生まれ。1991年、初の長編映画『トト・ザ・ヒーロー』で第44回カンヌ国際映画祭にてカメラ・ドールを受賞、ヨーロッパ映画賞で主演男優賞・新人監督賞・脚本賞・撮影賞など数多くの賞に輝き、一躍映画界にその名を轟かせる。続く2作目の『八日目』ではエリートサラリーマンのアリーとダウン症の青年ジョルジュとの交流を描き、実際にダウン症患者であるパスカル・デュケンヌとサラリーマン役のダニエル・オートゥイユに第49回カンヌ国際映画祭男優賞をもたらした。その後09年にはジャレッド・レト、サラ・ポーリー、ダイアン・クルーガーなどの豪華出演者を配した『ミスター・ノーバディ』を監督。最新作の『神様メール』(15)では「ココ・アヴァン・シャネル」のブノワ・ポールヴールド、「サンドラの週末」のピリ・グロイン。共演にカトリーヌ・ドヌーヴ、ヨランド・モローなどが出演し、ヨーロッパ各国で大ヒットした。

監督:ハリー・クレフェン、脚本:ハリー・クレフェン、トマ・グンジグ
製作:ジャコ・ヴァン・ドルマル、オリヴィエ・ローサン、ダニエル・マルケ
出演:フルール・ジフリエ、エリナ・レーヴェンソン、マヤ・ドリー、ハンナ・ブードロー、フランソワ・ヴァンサンテッリ
2016年/ベルギー/フランス語/79分/原題:Mon Ange/提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム 
©2016 Mon Ange, All Rights Reserved.

公式サイト:angel-mienai.com

10月13日(土) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

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