ホラー

映画『死霊館のシスター』レビュー!

『死霊館』シリーズの前日譚を描いた最新作

[2018年 監:コリン・ハーディ 出:タイッサ・ファーミガ、デミアン・ビチル]

最凶の尼僧、再び

1952年。バーク神父と見習いシスターのアイリーンは、トランシルヴァニアの修道院で発生した修道女自殺事件の真相究明のため、現地へと派遣される。2人が辿り着いたのは、地元民も滅多に近付こうとしない場所にある聖カルタ修道院……そこには外界とは異質の不気味な雰囲気が立ちこめ、居住する修道女たちも何者かの気配に絶えず怯えていた。数々の怪奇現象に見舞われながら、命懸けの調査を進めるバーク神父とアイリーン。やがて彼らが修道院に隠された秘密を知った時、邪悪の化身=シスター・ヴァラクが遂にその姿を現した……。

実在の心霊現象研究家であるエドワード&ロレイン・ウォーレン夫妻をモデルにしたパラノーマル・ホラー『死霊館』(13年)。古典的なオカルト要素と技巧派ジェームズ・ワン監督のフレッシュな感性が融合した恐怖演出は好評を博し、ウォーレン夫妻を中心に据えた続編『死霊館 エンフィールド事件』(16年)や、呪われたアンティーク人形に纏わる怪奇譚『アナベル 死霊館の人形』(14年)などのシリーズ化へと発展した。今回、怪異の元凶となるのは、初の顔見せ作品『死霊館 エンフィールド事件』でも強烈な存在感を放っていた「悪魔の尼僧」ことシスター・ヴァラク。第二次世界大戦終結から数年が経過した東欧の片田舎を舞台に、マリリン・マンソンに激似な最凶の尼ちゃんが超長期幽閉の鬱憤を炸裂させる。

自動車の代わりに荷馬車が走り、闇を照らすのにカンテラや松明が用いられる本作のイメージは、これまでの『死霊館』シリーズとはかなり趣を異にする。濃い霧に包まれた修道院や、「流入ではなく流出を防ぐ」ために設置された無数の十字架などは、同じくルーマニアの城塞を舞台にしたマイケル・マン監督の幽玄ホラー『ザ・キープ』(83年)を彷彿とさせるものだ(劇中、古めかしい真空管ラジオから1952年のヒットナンバー“YOU BELONG TO ME”が流れてくる場面では、目の前にある映像と設定年代との雰囲気のギャップに思わずハッとさせられる)。確かに、城と幽霊はゴシック・ホラーの定番要素であり、現存する古い建築物をロケ地にすればムード醸成には事欠かないだろうが、あんまりお上品に纏め上げてしまうのは『死霊館』の看板背負った作品としてどうなのよ……お話の序盤ではそんな危惧を抱きかけたりもするのだが、そこは地獄の軍団長ヴァラク、「郷に入っては郷に従え」的なデリカシーなど、もとより持ち合わせていないところが頼もしい。シリーズお約束の豪快な人間吹っ飛ばし技はもちろん、蛇を使ったイリュージョン、棺桶マジック、死体マリオネット、果てはダークナースならぬダークシスターを動員しての『サイレントヒル』(06年)ごっこまで開催、ケレンを重視した「闇のおもてなし」の模範を示す。こういった映画の場合、人間サイドは堅物の神父やらオボコい娘やら、真面目だがどうにも面白味に欠けるキャラクターで固められがちなので、ヴァラクのようにサービス精神旺盛な混沌勢の頑張りは貴重だ(そしてその気取らぬ頑張りこそが、『死霊館』シリーズを世界的人気作に伸し上げたキモでもある)。

メガホンを執ったのは、曰く付きの森に踏み入った家族が怪物に襲われるホラー『ザ・ハロウ/侵蝕』(15年)で長編監督デビューを果たしたコリン・ーディ。いきなりの大音響や、「カメラをパンさせると眼前に○○が!」みたいなチープ・トリックの多用は少々気になるものの、クリーチャーを出し惜しみせず、グロをグロとして真摯に表現する姿勢は好感が持てる。『ハイテンション』(03年)や『ヒルズ・ハブ・アイズ』(06年)などで鬼才アレクサンドル・アジャ監督と組み、『アナベル 死霊人形の誕生』(17年)の撮影も手掛けたカメラマン、マキシム・アレクサンドルによるオドロオドロしい映像も見応え十分だ。先述のチープ・トリックだって、音響設備の整った映画館ならば効果は抜群。試写室で前の席に座っていた人は、ビックリ演出に何度も身を竦ませていた。伝統的なオカルト映画の流れを汲みつつ、バトルは派手に、ゴア描写は鮮烈に……『死霊館』シリーズに不可欠な「うまみ」は、本作にもタップリと詰まっている。

公式HP:http://wwws.warnerbros.co.jp/shiryoukan-sister/

映画『死霊館のシスター』は9月21日(金)より、新宿ピカデリーほかにて全国公開

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