アクション

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』レビュー!

2022年
監督:ライアン・クーグラー
出演:レティーシャ・ライト、ルピタ・ニョンゴ、テノッチ・ウエルタ、ダナイ・グリラ、マーティン・フリーマン、ドミニク・ソーン、アンジェラ・バセット
公式サイト:https://marvel.disney.co.jp/movie/blackpanther-wf

大予算とリスペクトの念を注ぎ込んだ、渾身の追悼フィルム

2020年8月末、突然に報じられた俳優チャドウィック・ボーズマンの死。筆者は、あの逞しい快男子ボーズマンがよもや大病を患っていたとは夢にも思わず、ネットニュースの見出しを目にした瞬間も反射的にデマを疑ったほどである。数年にわたる癌との闘いの果てに死去、享年43。SNSは追悼メッセージで溢れ返り、多くの映画スターやスポーツ選手が、胸の前で腕をクロスさせる「ワカンダ・フォーエバー」のポーズで哀悼の意を示した。そこには前途有望な役者を亡くした悲しみだけでなく、一国のリーダーが崩御した際の服喪にも似た、荘厳で粛然とした感情が漂っていたように思う。

闘病中にも映画出演を続けていたボーズマンの没後、アメリカで1本、日本では2本の出演作が配信・劇場リリースされ、遺作『マ・レイニーのブラックボトム』(20年)はゴールデングローブ賞や各映画批評家協会賞レースで数々の栄誉に輝いた。しかし、ボーズマンの名を世界中の老若男女に知らしめたマーベルのメガヒット作『ブラックパンサー』(18年)の続編は、主演俳優を失って企画の見直しが不可避に。スタジオとライアン・クーグラー監督、共同脚本のジョー・ロバート・コールは、ボーズマン/ティ・チャラ国王抜きで物語を再構築するという、辛く困難な作業に挑戦することとなった。

ランニングタイム161分、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の単体ヒーロー作品としては最長の上映時間で描かれる『ワカンダ・フォーエバー』は、これまでに公開された全30本のMCU映画の中でも目立って異質な存在だ。オープニングシークエンスの緊迫と静寂、特殊仕様のマーベルロゴ・イントロで幕を開けた本編は、拭い難い喪失感を引きずったまま粛々と進行していく。時おり挿入されるお馴染みの冗談も、今回ばかりは通夜のカラ元気というか、気持ちを切り替えるための威力とキレが足りない。何せ、タイトルロールであるブラックパンサーがスクリーンに登場するまでに2時間近くもかかっている。前作で、パンサーの力の源である神秘のハーブが焼失してしまったことも原因としては大きいが、それにしてもこれは異例の引っ張り。事情が事情なだけに、易々と代替わりを済ませて「いつもの」MCUテイストに寄せたのでは、娯楽性よりももっと大事な何かを失いかねないと、制作サイドも判断したのではなかろうか。実際その読みは当たっていたと思うし、バジェット2.5億ドル超えの映画でそうした構成を試みるあたり、さぞかし勇気が要っただろうと感心もする。だがやはり、本来映画で語るべき内容以外に、故人へのトリビュート・フィルムという重い意味合いも背負わされた本作が、(ところどころで纏まりが緩む脚本も相俟って)ストレートな楽しさを幾分か犠牲にしてしまっていることは否めない。

やむを得ない事由により、これまでのMCU作品でおのずと形成されてきた型(特に、本格的な超人活動開始の御膳立てを済ませた各単体ヒーローシリーズ2作目以降のテンプレート)からの逸脱を余儀なくされた『ワカンダ・フォーエバー』。しかし、だからこそこの作品が持つ特異性が、過去イチと言っていいほどに鋭く光る瞬間も多々あるのだ。先王の不在を示す台詞は、詰まるところフィクションでしかないはずの物語の垣をこえて心に突き刺さり、のこされた者たちの悲しみと新たな決意は、スタッフ・キャストが身をもって体験したであろう「心の旅」と二重写しになって迫ってくる。時が経ち、この映画の成り立ちについて何も知らない人が、鑑賞後にどんな感想を抱くのかは分からない。筆者自身、本作に対する評価が今と数年後では大きく変わっているかもしれないが、少なくとも現時点においては、「あくまで売り物としての映画作り」をモットーとする人々が、それでも可能な限りの誠意と敬意を注ぎ込んで完成させた渾身の追悼フィルム……といったふうに感じる。

期待の新鋭として、10年足らずの間に猛然たるキャリアアップを遂げてきたライアン・クーグラー監督の演出にも、今回はちょっとした“異変”が見られる。回を重ねるごとに洗練されていく長めのワンカット撮影や、ブロックバスター大作に相応しい映像スペクタクルの合間に、まるでインディーズ映画を思わせるような、静かで即興的な映像がさり気なく挟み込まれるのだ。『クリード チャンプを継ぐ男』(15年)でメインストリームへの参入を果たした時よりも更に前、長編デビュー作『フルートベール駅で』(13年)を観た際に伝わってきた瑞々しさ、画面向こうの微風や湿度まで感じ取れそうなタッチを、ここへ来てまた(しかもMCU作品で)目にすることになるとは思わなかった。進化のスピードに気を取られて迂闊にも忘れかけていたが、改めて「ああ、こういう感性の持ち主なのだったな」と、再確認させられた次第である。

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