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『の方へ、流れる』”今、僕は”、”蜃気楼の舟”の竹馬靖具監督・最新作、先行レビュー!

2021年
監督:竹馬靖具
出演:唐田えりか、遠藤雄弥、加藤才紀子、足立智充、小水たいが
公式サイト:https://nohoue-nagareru.studio.site/

曖昧な会話がもたらす不思議な余韻

不在の姉の代わりに雑貨店で店番をする里美と、そこに現れた、恋人を待つ男・智徳。互いに微かな興味を抱いた男女は、店を出て街を歩きながら、ポツリポツリと身の上を語り始める。その日初めて出会った者同士、相手が真実を口にしているのかも定かではない。距離が縮まったかと思えば遠くなる、どこかねじれた会話を続けるうちに、2人は少しずつ惹かれあっていくのだが……。

自ら主役も務めた初監督作『今、僕は』(09年)が高く評価され、『蜃気楼の舟』(16年)では貧困ビジネスというリアルな闇に幻想的なイメージを織り込んでみせた竹馬靖具監督の最新作。ふとしたきっかけで交差した男と女の一日を密やかに追いかける、ほんのり奇妙なダイアローグ劇である。主演は『寝ても覚めても』(18年)の唐田えりか、『ONODA 一万夜を越えて』(21年)の遠藤雄弥。

映画において、登場人物(とりわけ主人公クラス)のバックグラウンドというのは、彼らが劇中で成すことと同じくらい重要な要素。多くの場合、我々は無意識のうちにキャラクターの背景を窺い、所詮は架空の存在に過ぎないはずの彼・彼女に感情移入の余地を見出そうとする。レビューサイト等でしばしば目にする「キャラが薄っぺらい」という文句は、作り手にとっても結構キツい一撃であるため、その鉄槌を恐れるあまり過剰に人物背景が盛られてしまうケースもあるほどだ。ところが本作では大胆にも、全編出ずっぱりの主要キャラ2人を揃って「信頼できない語り手」に設定し、観客の「知りたい欲求」に敢えてブレーキをかける。会話中心のストーリーでこの仕様、何たる意地悪!それなのに、本作が箸にも棒にもかからぬ代物かといえばそんなことはなく、しまいには不思議と充足した気分にさえ浸らせてくれるのだから、つくづく分からないものである。

「互いのことを知らないから言えることもある」という、ある種の気安さを前提として始まる里美と智徳の会話。ブラリ歩き開始時点では一応の目的地も設定されてはいるが、行き先云々は然したる問題ではなく、シーンに変化をつけるためのきっかけとして機能している程度だ(このお話、ロケ地が都会だろうが田舎であろうが、舞台に関係なく成立するストーリーであることも特徴)。メインはあくまで延々と続く会話であり、しかもその内容は虚実判然としない。無難な自分語りがあったかと思えば、不意に放たれる不躾で攻撃的な言葉。穏やかな空模様、ロケーションのヌケの良さとは対照的に、2人の周りだけ妙に空気が張り詰め、密室のような緊張が増していく。大袈裟な表情芝居や語調の変化がないことで、かえって微妙かつ異様な雰囲気が捉えやすくなっている。新型コロナ感染症の流行中に作られた他の小規模作品と同様、本作でもマスクをした通行人の姿が度々映り込むのだが、そんな街なかで里美と智徳だけがノーマスクで歩いているのも、主人公2人の異物感を結果オーライ的に強めている印象だ。竹馬氏が共同脚本で参加した真利子哲也監督作『NINIFUNI』(11年)にもあった、「同一空間にいながら“住む世界”はバラバラ」という感覚が、ここではより自然な形で、それでいてネチッこく描かれている。

里美役の唐田えりかは、何を考えているのか掴みにくい無表情と冷ややかな眼差しで画面内に存在し、観客にも智徳にも手の内を明かさない。だがそれ以上に食えない演技を見せているのが智徳に扮した遠藤雄弥のほうで、見た目には大して変化しない表情の裏に、子どものような純真さから世間知らずな痴れ者っぽさ、無自覚の加虐性まで忍ばせて我々を翻弄する。そして、なんて奴だと呆れかけたところに、思いもよらぬ方角から飛んでくる締めの一手。ここで、チラシにあった「男女の(恋愛)映画」なる曖昧な表現の意味をようやく悟り、売れ線のラブストーリーとは全く違った場所へ着地した本作に、作り手の冒険心と度胸を見る(個人的に、昨今の各種助成金制度やクラウドファンディング・システムには一部賛同しかねる部分もあるのだが、おかげでこういう作品が世に出るチャンスも広がるのだから、絶えてほしくはない助け船だ)。余計な水増しを施さず、62分という尺にキッパリ纏め上げている点もいい。万人受けはせずとも、刺さる人には深々と刺さる、そんな映画である。

【映画『の方へ、流れる』は11月26日(土)より、
池袋シネマ・ロサ、下北沢K2、横浜シネマ・ジャック&ベティ他にて全国順次公開】

※新型コロナウイルス(COVID-19)感染症流行の影響により、公開日・上映スケジュールが変更となる場合がございます。上映の詳細につきましては、各劇場のホームページ等にてご確認ください。

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