2019年
監督:ディーン・デュボア
声:ジェイ・バルチェル、アメリカ・フェレーラ、クリストファー・ミンツ=プラッセ、ジョナ・ヒル、クリステン・ウィグ、ケイト・ブランシェット、F・マーレイ・エイブラハム
公式サイト:https://gaga.ne.jp/hicdragon/
未来に希望をつなぐ「長いお別れ」
北方の海に浮かぶバーク島。長きにわたり不倶戴天の敵同士だったヴァイキング一族とドラゴンは、今では島内で平和に暮らしている。かつてミソッカス扱いされていたヒックも頭脳派の青年族長になり、相棒のドラゴン=トゥースや仲間たちと組んで囚われのドラゴン救出活動に精を出す毎日。だが、あまりに多くのドラゴンを保護したために島はパンク寸前、ヒックは村人やドラゴンを連れて新天地を探す旅に出ようと決意する。ちょうどその頃、悪名高いドラゴンハンターのグリメルは、希少な白いドラゴンを囮にしてトゥースをおびき出し、討ち果たすことを画策していた……。
2010年に公開され、世界中で大ヒットを記録した3Dアニメーション映画『ヒックとドラゴン』。我が国における興行成績は少々さびしい結果に終わってしまい、それが尾を引いたか、続編『ヒックとドラゴン2』(14年)は日本での劇場公開が見送られるという、「少々さびしい」どころか大ガッカリな冷遇を受ける(アニメフェスや特別試写会といった形での無料上映は、全国各地で幾度も催されはしたが)。海の向こうでどれだけウケようが、円を稼げない映画と判断されればハコはもらえない……興行界のシビアな現実をまざまざと見せつけられるような出来事だった。シリーズ第3弾『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』でもジンクスは続き、ソフト&配信スルーこそ免れたものの、日本興収は1作目よりも更に寒い数字に。「こんなに素敵なシリーズなのに、一体どうしたことだろう?」と、蚊帳の外で口惜しく思った記憶がある。とまれ、映画館での上映は既に終わってしまったことだし、嘆息していても仕方がない。たとえTVモニターサイズに縮小されようとも、本作の魅力は十二分に堪能できる。
思い返せばこのシリーズ、視覚的な楽しさは勿論のこと、「異種族同士の共存」という、深く考えれば考えるほどモヤモヤしてくるテーマを果敢に扱った意欲作でもあった。バーク島の人々とドラゴン、互いに歩み寄る余地など無かったところに、ヒックとトゥースの友情という思いがけない架け橋が生じた『1』。それまでの状況からすれば格段の進歩ではあったが、同時に「とどのつまり、飼い主とペットという関係からは進展のしようがないのか」と、若干の苦味が残ったことも事実である。『2』では、再会と喪失を経たヒックが激闘の果てにバーク島の長(おさ)に就任。そして、圧倒的なパワーで他のドラゴンを支配下に置いていた暴竜をトゥースが撃破し、こちらもドラゴンの新たなリーダーとなる。『1』の着地点からまた前進、ヒックとトゥースそれぞれが「統べる者」の座に就いたことで、対等なパートナーという図式がより明確なものになった。ここでシリーズを終わらせ、「皆はいつまでも平和に暮らしました」とするなら、それはそれで綺麗な話の畳み方だったかもしれない。
『聖地への冒険』で見えてくるのは、人間とドラゴンが同居することの難しさだ。例えば、多くのラブストーリーではカップル成立ないし結婚がゴールに定められているが、実際はその先だって山あり谷あり。愛や信頼が万事をうまく進めてくれるとは限らない。『1』と『2』で追いかけてきたものを“理想”とするならば、『3』で突きつけられる障壁は“現実”。言われてみれば至極当然な成り行き、しかし先述の「『2』でのメデタシメデタシEND案」でいけば、意外とそこまで思い至らない観客もいたのではなかろうか(筆者ほどの鈍感な人なら尚更……)。そもそも劇中での描写から推察するに、人間とドラゴンが仲良く同じ釜の飯を食って生きるケースなど稀有中の稀有。おそらくこの世界の一般常識としては、ドラゴンは相も変わらず「危険な害獣」のままなのだ(この目線で世界を見る人たちからすれば、武装してドラゴン解放運動に勤しむチーム・ヒックなど、それこそ半グレ動物保護団体かテロリスト同然の存在だろう)。この世のどこかで革新的な出来事があったとしても、それが広く波及し、万人の常識として受け入れられるには時間を要する。いつか本当の意味での共存を実現させるためには、闇雲に突っ走るだけでなく、時には立ち止まってみることも肝要なのでは?「異種族同士の共存」というテーマは、ここへきてまた新たなフェーズへと突入する。この問題はかなり大きく、最凶ヴィランであるべきグリメルの存在が時折霞んでしまうぐらいに強力なのだが、『ヒックとドラゴン』シリーズほどの器ともなれば、少しばかり歯応えキツめのテーマこそが相応しい。
勿論、“夢工房”ドリームワークス・アニメーションが腕によりをかけて創りあげた作品ゆえ、活劇としての面白さも折り紙付き。3DCGを用いた描画技術の進歩は、『2』よりも更に緻密で複雑な映像となって表れ、群舞するドラゴンや超速アクションの表現は絶好調。ジョン・パウエルによる音楽も、『1』から変わらず活きが良い。トゥースに関して言えば、新登場の白いドラゴン=ライト・フューリーにホの字(死語)となった影響で、過去作よりもドタバタ喜劇調の演技が増えている。警戒心の強い気まぐれ女子に好かれようと、あの手この手でアプローチをかける恋愛下手な男子……といった風情が微笑ましい。戦いのスケールという意味では、『2』の対ワイルダービースト戦が既に行き着くところまで行っていた感があるので、本作のクライマックス・バトルがそれを凌駕するものであったかは意見の分かれるところだろう。ただし、その後に続く「未来に希望をつなぐ別れ」とセレブレーション、ラスト・シークエンスからの過去フッテージ+シガー・ロスのヴォーカル、ヨンシーが歌う“Together from Afar”という「これでもか!」な畳み掛けには、日頃シゴトを怠け気味な涙腺もついつい緩む。「ドラゴンは今もどこかで生きている。人間と平和に共存できる日が来るのを待っている」……こんな真っ直ぐすぎるセリフまで、何だか積極的に信じたくなってくるほどだ。まったく、日本劇場公開時の不発が、返す返すも残念でならない(まだ言うか)。
YouTubeで“First Time Watching Movie Reaction”とでも打ち込んで検索をかけてみれば、それこそモノ凄い数の動画が表示される。世界各国のリアクターさんが、「初めて観る映画」へのリアクションを収録・アップしたもので、人気チャンネルともなれば視聴回数が数万~数十万に達している動画もザラだ。遠い昔に自分も鑑賞した作品、それが今なお新しい観客を獲得し続け、彼ら彼女らの心を震わせているのかと思うと、故・水野晴郎氏の言葉「いやぁ、映画って本当にいいもんですね~」が実感を伴って蘇ってくる。興味深いのは、リアクション動画で扱われる作品の中に、公開当時には良い興行成績を上げられなかった映画や、批評家受けの悪かった映画も多数含まれている、という点。封切り時のチケット売り上げが不振だろうと、ロジャー・イーバートやポーリン・ケイルのような権威ある評論家がどれほど辛辣な批評を残していようと、自らの目で映画を鑑賞し、自分で好きか嫌いかを判定してみようとする人たちは確かにいるのだ。最早、映画の棲みかは映画館だけではない。それならいつか、日本で『ヒックとドラゴン』の人気に火がつく可能性だって……何が再注目の呼び水になるか分からない、そこもまた、映画の面白いところである。