SF

『ハロウィン KILLS』レビュー!

2021年
監督:デヴィッド・ゴードン・グリーン
出演:ジェイミー・リー・カーティス、ジュディ・グリア、アンディ・マティチャック、ウィル・パットン、カイル・リチャーズ、アンソニー・マイケル・ホール
公式サイト:https://halloween-movie.jp/

※本作はR15+指定作品です

悪魔が来りて街崩壊

イリノイ州ハドンフィールド、ハロウィンの夜。殺人鬼マイケル・マイヤーズとの戦いで重傷を負ったローリー・ストロードは病院へと運ばれる。一方、猛火の中で絶命したかと思われたマイケルは、駆けつけた消防士たちを皆殺しにして逃走。彼が引き起こした大量殺人のニュースは瞬く間に街中に広がり、住民は恐慌状態に陥る。40年前の惨劇のトラウマを抱えた人々は自警団を組織してマイケル討伐に繰り出すが、次々と返り討ちにあい、犠牲者は増えるばかり。怪我で身動きの取れないローリーは、娘であるカレンに宿敵打倒の願いを託すのだが……。

2018年に公開され、大ヒットを記録したスラッシャー・ホラー映画『ハロウィン』の続編。シリーズの顔であるジェイミー・リー・カーティスがローリー役を続投するほか、ジョン・カーペンターの手によるオリジナル版『ハロウィン』(78年)から懐かしのキャスト&キャラクターが多数再登場。前作に続き、『スモーキング・ハイ』(08年)、『セルフィッシュ・サマー』(13年)のデヴィッド・ゴードン・グリーン監督がメガホンを執っている。

「カネを生みそうなネタなら、出涸らしになるまでトコトン搾り尽くす」というハリウッドの慣わし。いや、たとえ出涸らしになっても粉を足し、器を取り換えて旨味を抽出し続けるのが昨今のトレンドか。シリーズ通算12作品目ともなれば、普通は味どころか香りさえ残っているか怪しいところであるが、陰の監修役にカーペンターその人を置き、『ハロウィンⅡ』(81年)以降の展開を全て白紙に戻して創り上げた新シリーズは、今のところかなり順調且つ幸せな航海を続けている。

前作ラストからの完全直後型続編として始まる『ハロウィン KILLS』。いくら何でも、ハラワタが飛び出るほどの大怪我をしたローリーを即座に実戦復帰させるわけにはいかないので、今回マイケルに立ち向かうのは、ローリーの娘カレンと孫のアリソン、そしてハドンフィールドの怒れる住民たちだ。人間離れした膂力と異常な耐久性を誇るブギーマン相手に、お婆ちゃん+女子ーズで戦うしかなかった『1』の頃を思えば、これまた随分と充実した陣容……だが、物事そうそう単純にはいかない。ひとたび集団心理の歯車が狂い始めれば、いきり立った“正義”が新たな悲劇を招く。本作ではマイケルの殺戮行脚はもちろんのこと、疑心暗鬼からくる群衆の暴走にも焦点があてられる。

結束がもたらす影響力は、確かに強大だ。特にSNSが普及した現代においては、「団結こそ力なり」という言葉の意味をひしひしと感じる場面が多くある。社会の中でもとりわけ弱い立場にいる人たちにとって、共鳴する者同士が寄り集まって行動することは、困難を打破するための「最後にして最強の切り札」といっても過言ではない。ただ、多数の脳と感情を持つ大きな塊は、力を増したぶん細やかな加減・小回りが利きにくくなるという危うい弱点も持つ。ここへお祭りにも似た熱気が混じり込めば、理性的で節度ある活動を維持していくのは難中の難。そもそもの原動力が“憎しみ”であった場合、舵取りはいっそう困難だ。

ハドンフィールドには、1978年の事件に対する少なからぬトラウマと負い目がある。そこへ入ってきた殺人鬼再来の一報は、住民たちの間で長年燻り続けてきた「マイケル憎し」の感情を爆発的に燃え上がらせるガソリンだ。白マスクの下の素顔も定かではないが、とにかく何か行動しなけりゃ安心できない。武器を手にして殺気立った人の群れ……やがてその人ごみの中から「アイツ、見ねぇ顔だぞ!」の一声が上がる。こうなればもう、個人が疑念を差し挟む余地などどこにも無く、漫画『デビルマン』や限定空間ホラー『ミスト』(07年)でも描かれた修羅場のリプレイを待つのみだ。こんなのは映画の中だけ、ここまで愚かな群衆はいないと笑い飛ばしたいところだが、昨年のアメリカ合衆国議会議事堂占拠事件を例に挙げるまでもなく、集団が狼藉を働いた事例は現実世界にも数多くある。マイケルの即物的な暴力が、その漫画チックな派手派手しさ、豪快さ故に一種の爽快感すら生むことがあるのに対し、パニックを起こした住民たちによる暴力はやけに生々しく陰湿で、幕切れのグダグダ感も含めて後味が悪い。真に恐ろしいのはブギーマンか、それとも……「カーペンター版のムードを尊重しつつ、必要とあらば新たな挑戦も辞さない」と語るグリーン監督、ここへ来てなかなか興味深いところに着眼したものだと思う。

対するマイケル・マイヤーズのほうは、街の大混乱なんぞ何処吹く風、安定の死体製造マシンぶりで黙々とボディカウントを稼ぎ続け、犠牲者を利用した不謹慎すぎるアート活動にも精を出す。スラッシャー映画ファンの期待に応えるべく、殺しのレパートリーもどんどん拡大。いくら刺されようが撃たれようが、決してスタミナ切れを起こさない、まさにホラー・アイコンの鑑だ。パワフルな殺人鬼から超自然的な加護を持つブギーマンへの変身は、新シリーズでもここでようやく完成を見た感がある。新3部作の完結編となる『Halloween Ends』(公開待機中)ではどんなサプライズが待っているのやら、今からリリースが待ち遠しい。

サプライズといえば、本作鑑賞中にイスから跳び上がるほどの衝撃を受けたのが、もはや再び会うことは叶うまいと諦めていた“あの人”のカムバック。すわCGIかと思いきや、実は彼は生身のソックリさん、しかも現場で大道具を担当していたスタッフとのこと。特殊メイクの助けも借りているとはいえ、これほど似た人が近場にいたとは本当に驚きである。たとえ「オールド・ファンへの過剰サービス」と揶揄されようと、心の底から嬉しいと感じる、ニクいビックリ箱であった。

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