アニメ

『ベルヴィル・ランデブー』祝・リバイバル上映!ビザールな傑作アニメ映画を先行レビュー

2002年
監督:シルヴァン・ショメ
声:ミシェル・ロバン、モニカ・ヴィエガス、ジャン=クロード・ドンダ
公式サイト:https://child-film.com/Belleville/

嵐を呼ぶ モーレツ!ばぁば軍団の逆襲

マダム・スーザは、自転車好きな孫のシャンピオン、飼い犬ブルーノと共に暮らす家族思いのおばあちゃん。祖母と孫、長年にわたる二人三脚の特訓の結果、ついにシャンピオンのツール・ド・フランス出場が実現する。ところがレースの最中、シャンピオンがマフィアの誘拐団によって連れ去られてしまい、おばあちゃんはブルーノを連れて孫の追跡を開始。辿り着いた大都市ベルヴィルで途方に暮れていたところ、三つ子の老婆“トリプレッツ”と出会う。かくして、恐れを知らぬ無敵のばぁばチームによる、誘拐団撲滅&シャンピオン奪還作戦が幕を開けた……。

本国フランスで観客動員100万人超えのヒットを記録、アメリカでは当初6館からスタートした上映が350館以上での拡大公開に大化け。フランス映画として初めてアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされ、セザール賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞等でいくつもの受賞を果たした傑作アニメが、製作20周年を目前に日本でリバイバル上映される。

映画の主流がサイレントからトーキーへと移り変わりつつあった時代、多くの映画関係者がトーキーを芸術的退行と考え、シネマトグラフ固有の美を汚すものとして不快感を表明した。「台詞に頼らず、映像で多くを伝えられる作品こそ、真に映画的な映画である」……この“映画的”なるものの本質が何なのか、分かりやすく言い表せる人は意外と少数なのではないかとも思うが、ともあれ映画作りの畑には、昔も今もこのような“金言”が確かに存在し、それを信じ尊ぶクリエイターが大勢いる。勿論、膨大な量の台詞を有する名作・傑作だって沢山あるわけで、約100年も前の意見をそっくりそのまま現況に重ね合わせようとするのは、いくらなんでも乱暴だ。しかし、そういった例外を敢えて無視してこの論に乗っかるとしても、『ベルヴィル・ランデブー』はこの上なく映画的な映画ということになるだろう。何せダイアローグが殆ど無いのに、観る者の理解と興味を最後まで持続させ、しかも滅法楽しいエンターテインメント作品として成立しているのだから。

映画作りにおいて「何を省略するか」を選択するのは、「何を明確に伝えるか」をピックアップする作業と同等、あるいはそれ以上に難しい。脈絡不鮮明な映像集を2時間見せつけられるのは苦行以外の何ものでもなく、そうかといって説明過多ではドッチラケ。作り手には情報の過不足を見極めるバランス感覚と胆力が必要なわけだが、バンド・デシネの世界で絵の力を学び、初監督作品の短編アニメ映画『老婦人とハト』(97年。こちらも『ベルヴィル~』同様、極端に台詞が少ない)に手応えを感じていたシルヴァン・ショメ監督は、その辺のセンスが抜群に冴え渡っているのだろう。ストーリーの理解に必要なだけの情報はしっかりとおさえつつ、愉快だが然程お話に絡んでこない要素をイースターエッグ的なお楽しみアイテムとして仕込むことで、実際には至ってシンプルな構造であるこの物語に、えも言われぬ豊潤さと奥行きを持たせている。鉄道橋に押し退けられるように、それでもまだ頑として屹立するおばあちゃんの家。柄付手榴弾を平然と使いこなすトリプレッツの来歴。騒動が終わった後、おばあちゃんとシャンピオンはどんな人生を歩んでいったのか……深掘りすれば面白いエピソードが湧いて出てきそうなポイントは幾つもあるが、そこをクドクドしくフィーチャーしなかったところが潔いというか美しい。

日本のモノともアメリカのモノとも違う、まことヨーロッパ的としか言いようのない独特の詩情をはらんだ本作。ジョセフィン・ベイカーやフレッド・アステアといった往年の名パフォーマーたちの大挙カメオ出演、のちの『イリュージョニスト』(10年)にも繋がるジャック・タチへのオマージュなど、「知ってる人向け」の小ネタは随所に仕掛けられている。しかしそれらを鼻にかけてほくそ笑むようなキザッたらしさは全然なく、むしろ『クレヨンしんちゃん』的なドタバタ・アクションコメディ色のほうが濃厚だ。荒海を物ともしないおばあちゃんの健脚に驚愕し、ブルーノの体を張った忠犬ぶりに思わず胸を打たれ、世にも奇妙な鈍重カーチェイスでヤキモキさせられた後は、頑丈過ぎる木靴と足首に唖然呆然。極限まで戯画化されたキャラクターたちによる、アニメでしか表現できない自由なアクションの数々は、頭を空っぽにして観ても十二分に楽しめる。ベルヴィルに嵐を呼ぶ、ばぁば軍団の大逆襲。全編を彩る素敵な音楽でビートを刻みつつ、このビザールな映像絵巻にドップリと浸かり、酔いしれていただきたい。

【映画『ベルヴィル・ランデブー』は7月9日(金)より、
ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開】

※新型コロナウイルス(COVID-19)感染症流行の影響により、公開日・上映スケジュールが変更となる場合がございます。上映の詳細につきましては、各劇場のホームページ等にてご確認ください。

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