公開初週ではイマイチも、口コミによって好転していった映画「ヒックとドラゴン」

キッズ

公開初週ではイマイチも、口コミによって好転していった映画「ヒックとドラゴン」レビュー

(2010年 監:クリス・サンダース&ディーン・デュボア 声:ジェイ・バルチェル)

親の「剛」、子の「柔」

ヒックはバイキングの族長・ストイックの息子。しかし、ドラゴンを倒すことで一人前の戦士と認められる体育会系コミュニティーの中にあって、ひ弱で発明好きな文系男子の彼は異端の邪魔者扱いだった。ある時、ドラゴンとの交戦中に、ビギナーズラックも手伝って伝説のドラゴン「ナイト・フューリー」を撃ち落としたヒックであったが、森の中で傷ついた獲物を見つけた彼はとどめを刺すことが出来なかった。ヒックはそのドラゴンを「トゥース」と名付け、世話をしながら、自分たちがドラゴンに対して抱いていた認識の数々が誤っていたことに気付いてゆくのだが……。

ドリームワークス制作の3Dアニメーション映画。公開初週ではイマイチ伸び悩んでいた興行成績が、口コミによって次第に好転していったという経緯なども、この映画の真価を表しているようで面白い。

本作の親子のスタンスは実に対照的、まさに「柔と剛」だ。ストイック族長は、屈強な肉体にヒゲモジャ、ドラゴンでも素手ゴロでボコり倒す「ザ・グレート」。声をあてるのはジェラルド・バトラー。間違いなく『300』でのスパルタ王・レオニダス役あってのキャスティングだろう。そんな「戦士=一人前の男」な価値観を持つマッチョ父さんからすれば、ヒックの隠れた才能である「観察力」や「探求心」、「発明センス」など無用の長物。ドラゴンも彼にとっては力で屈服させるべき対象でしかない。

一方、ヒックはその「無用の長物」を使って、ただの害獣だと思われていたドラゴンの真の姿を暴いていく。傷がもとで飛行能力を失ったトゥースのために補助器具をこしらえ、世話をしながら習性を見つけてはコミュニケーションツールとして役立てるのだ。最初はただの観察記録として始まった経験が、やがて種族を超えた友情へと変化し、果ては自己犠牲的行動にまで辿り着く。いやまこと、子供の柔軟性恐るべしと言うべきか。

もちろん、ドリームワークスらしい夢一杯の魅せ場も随所にある。筆者のイチオシ場面は中盤、それまで試行錯誤で飛行訓練をしていたヒックとトゥースが初めて本格的に飛翔する場面。人“竜”一体となって海面スレスレを高速飛行する姿はたまらなく爽快。ジョン・パウエルの手による、これ以上ないほどシーンにマッチした音楽もダイナミックで美しい。

ちなみに今年、本作の続編である“How To Train Your Dragon2”が世界公開され、すでに今年度最高規模の興行成績を叩き出しているそうだが、残念ながら日本での公開は未定のままだ。劇場公開を求める署名運動なども立ち上がっているらしいので、公開決定の暁にはぜひ親子で劇場へ出かけ、成長したヒックとトゥースの雄姿を大スクリーンで堪能していただきたいと思う。

ユーモアと緊張感との緩急のバランスが絶妙な映画「グエムル~漢江の怪物~」ユーモアと緊張感との緩急のバランスが絶妙な映画「グエムル~漢江の怪物~」レビュー前のページ

炭坑労働者のブラスバンドと家族の悲喜交々を描いたヒューマン映画「ブラス!」レビュー次のページ炭坑労働者のブラスバンドと家族の悲喜交々を描いたヒューマン映画「ブラス!」

ピックアップ記事

  1. 『新感染 ファイナル・エクスプレス』2018年1月24日[水] Blu-ray&…
  2. 映画「ラ・ラ・ランド」第89回アカデミー賞(R) 作品賞含む過去最多タイ14ノミ…
  3. 2月16日 (金)公開『エターナル』著名人コメント到着&新ポスタービジュアル解禁…
  4. Amazon オリジナル『クレヨンしんちゃん外伝 お・お・お・のしんのすけ』(A…
  5. 『グランド・ツアー』新シリーズがAmazonプライム・ビデオにて見放題独占配信ス…

関連記事

  1. 登場人物のような美しい涙を流せますように…そう願ってやまない映画「ハッシュパピー~バスタブ島の少女~」
  2. 中島らも氏による短編集の実写映画「お父さんのバックドロップ」

    ファミリー

    中島らも氏による短編集の実写映画「お父さんのバックドロップ」レビュー

    (2004年 監:李闘士男 出:宇梶剛士、神木隆之介、南果歩、…

  3. オフィシャルレポート

    映画「家族はつらいよ2」公開初⽇舞台挨拶!

    満席の観客から声援・拍⼿喝采⽌まず!!⼭⽥監督「こんなに楽しい舞台挨拶…

  4. ド派手なスペクタクルがある一方、極めてミニマルな映画「宇宙戦争」

    SF

    ド派手なスペクタクルがある一方、極めてミニマルな映画「宇宙戦争」レビュー

    (2005年 監:スティーヴン・スピルバーグ 出:トム・クルー…

  5. ドラマ

    映画「ネオン・デーモン」片手に包丁!?衝撃のラストへ向かう緊張の場面写真を公開

    キャーッ戦慄…!包丁握り、身構えるエルたんっっっ!!!!…

スポンサードリンク

映画のレビューはこちら

配給会社オフィシャルレポート

  1. 告知

    Blu-ray&DVD発売目前!「ラ・ラ・ランド」赤西仁、中川翔子らがコメント
  2. 親子関係修復の依り代となるのは重量級のロボット映画「リアル・スティール」

    SF

    親子関係修復の依り代となるのは重量級のロボット映画「リアル・スティール」レビュー…
  3. 本作は劇物です。公開当時R-15指定を受けた映画「ミスト」

    ホラー

    本作は劇物です。公開当時R-15指定を受けた映画「ミスト」レビュー
  4. SF

    映画『ザ・サークル』トランプ大統領から『ユー・ガット・メール』まで… エマ・ワト…
  5. 抱腹絶倒コメディ映画として名高い映画「ミセス・ダウト」

    コメディ

    抱腹絶倒コメディ映画として名高い映画「ミセス・ダウト」レビュー
PAGE TOP