タイムトラベルを題材とした、感動やロマンを内包している映画「オーロラの彼方へ」

SF

タイムトラベルを題材とした、感動やロマンを内包している映画「オーロラの彼方へ」レビュー

(2000年 監:グレゴリー・ホブリット 出:ジム・カヴィーゼル、デニス・クエイド)

ファンタジーだけに許された「瞬間」

30年前に殉職した消防士の父。ある日、息子が父の形見であるアマチュア無線機の電源を入れると、自分と同じコールサインを持つ男から呼びかけの声が。その発信源は30年前の同じ場所で、声の主は、今は亡き父だった……。

タイムトラベルを題材とした作品で、シナリオが完全無欠なものは皆無であろう。タイムパラドックスやパラレルワールドの概念がいまいちピンとこなくても、「ん?よく考えたらおかしいぞ」と気付く場面はどの映画にも必ずあるはずだ(俗に言う「ツッコミどころ」ですね)。そんな不可避の宿命を背負っているにも関わらず、何故このテーマが廃れることなく、人々に愛され続けているのか?それは欠点を補って余りあるほどの感動やロマンを内包しているからに他ならない。

本作でも「なぜ通信が時空を超えたのか?」という解説はアッサリ済ませ(太陽の黒点が云々、フレアがどうこう……ハッキリと結論は出ず、重要度も低い)、悲劇的な運命を回避するべく共闘する父子のドラマでグイグイ引っ張る。すでに起こってしまった出来事から、息子が解決策を考え、過去の父親にそれを実行させて未来を変えようというのだ。良かれと思ってやったことが新たな災厄を招いてしまう場合もあり、うかつに行動するわけにもいかないもどかしさが緊張感を高めてゆく。

そして過去の出来事が未来に波及して物理的影響を及ぼす描写も、このジャンルの醍醐味だ。スクラップブックの切り抜き記事の内容や記念写真、時間の流れが書き換えられたことで生じる物体・肉体の変化が、控えめながら効果的なCGで描かれる(そういえばライアン・ジョンソン監督の『LOOPER/ルーパー』でも、本作とソックリな欠損進行表現が強烈だった)。

しかしサスペンスや視覚効果の要素以上に魅力的なのは、無線機越しに親子が他愛ない会話を交わすシーンだ。「どんな仕事をしているのか?」、「結婚はしたのか?」、「今度のワールド・シリーズはどうなる?」、「アポロ計画の行く末は?」、エトセトラ、エトセトラ。死別によって失われてしまった時間を取り戻そうとするかのように談笑する二人。まさにファンタジーだからこそ叶えられる瞬間であり、タイムトラベル映画に通底する最強のセンス・オブ・ワンダーであると感じる。

残念ながら、現実は映画のようにはいかない。過去に戻って若き日の親に会うことも、未来へ飛んで成長した子供に会うこともできない。でもだからこそ、今しかない瞬間を大切に過ごそう……時間旅行という題材は、そんな再認識の種火にもなってくれるように思うのだ。

親子関係修復の依り代となるのは重量級のロボット映画「リアル・スティール」親子関係修復の依り代となるのは重量級のロボット映画「リアル・スティール」レビュー前のページ

ユーモアと緊張感との緩急のバランスが絶妙な映画「グエムル~漢江の怪物~」レビュー次のページユーモアと緊張感との緩急のバランスが絶妙な映画「グエムル~漢江の怪物~」

ピックアップ記事

  1. 映画『牙狼神ノ牙-KAMINOKIBA-』予告編、ポスター、場面写真…

  2. 映画『天気の子』気象現象の表現に最適な4DXが果たす最高のコラボレーション

  3. 9月1日(金)公開の映画「ザ・ウォール」予告編とビジュアルが解禁!

  4. 映画「ネオン・デーモン」ミニシアターランキング堂々の一位!想像を超える衝撃作に早…

  5. 映画『アイヒマンを追え! 』田原総一朗・久米宏をはじめ、各界の著名人の方々よりコ…

関連記事

  1. ホラー

    『ハロウィン』レビュー!

    https://youtu.be/GeTY9th0FqA…

  2. 映画『アトミック・ブロンド』純白の大胆衣装でシャーリーズ・セロン降臨

    アクション

    映画『アトミック・ブロンド』純白の大胆衣装でシャーリーズ・セロン降臨

    本作の舞台となったベルリンにて行われて『アトミック・ブロンド』ワールド…

  3. SF

    映画「パンズ・ラビリンス」森の奥にある迷宮へと導かれた彼女は、そこで牧神パンと出会い…

    迷宮の先に内戦後のスペイン。戦いに勝利した新ファランヘ党による…

  4. ドラマ

    極上ミュージカル・エンターテイメント!映画「ラ・ラ・ランド」日本版の本予告映像が解禁!

    映画「ラ・ラ・ランド」本予告映像解禁のお知らせ!世界に興奮と熱…

  5. 炭坑労働者のブラスバンドと家族の悲喜交々を描いたヒューマン映画「ブラス!」

    ドラマ

    炭坑労働者のブラスバンドと家族の悲喜交々を描いたヒューマン映画「ブラス!」レビュー

    (1996年 監:マーク・ハーマン 出:ピート・ポスルスウェイ…

スポンサードリンク

映画のレビューはこちら
配給会社オフィシャルレポート
  1. SF

    入江悠監督×大沢たかお主演の近未来SF『AI崩壊』先行レビュー!
  2. 「歓びのトスカーナ」インタビュー映像公開

    洋画

    「歓びのトスカーナ」インタビュー映像公開
  3. きかんしゃトーマス 走れ!世界のなかまたち

    アニメ

    「きかんしゃトーマス 走れ!世界のなかまたち」渡辺直美・公開アフレコの様子をお届…
  4. オフィシャルレポート

    映画『パーフェクトワールド』スペシャルトークイベントレポート
  5. 映画レビュー

    映画『残像』遺された告発
PAGE TOP