(2004年 監:李闘士男 出:宇梶剛士、神木隆之介、南果歩、南方英二)
あいくるしい!
下田牛之助は『新世界プロレス』の看板レスラー。ところが息子の一雄はパパもプロレスも大嫌い、親子仲は冷めていく一方だった。そんな時、空手世界チャンピオン「熊殺しのカーマン」が来日。息子に父の雄姿を一目見せようと、無謀とも思えるセメントマッチの挑戦状をカーマンに叩きつけた牛之助であったが……。
筆者が小学校低学年生だった頃、全校読書週間の感想文用に借りた図書が、中島らも氏による短編集『お父さんのバックドロップ』。それから約10年後、遂に実写化された『お父さん』を鑑賞して、まず身内に広がったのは強い安堵感だった。本作にトリッキーな演出やドンデン返しは必要ない。スピードは無くともペースは変わらず、安定した走りでゴールを目指すランナーといったところか。そうかといって原作エピソードのトレースに終始しているだけかといえば、然に非ず。何せ元が短編なので、必然的にストーリーをボリュームアップさせなければならないのだが、色々と新しい登場人物や設定を盛り込みつつ、且つそれによって物語のムードが損なわれるという失敗に陥ることもなく、巧みに纏め上げている。中でも一際目を引く改変ポイントは、原作では存命だった牛之助の妻を故人にしたことだ。この変更によって「プロレス興行のために妻の最期を看取れなかった男」という設定が生まれ、一雄のプロレス嫌いや父との確執に大きな説得力を加えることができたように思う。
……と、何やら偉そうなことを書き連ねてきたが、ここで筆者が本作最強最大の勝因と信じて疑わない点を挙げるなら、ズバリ一雄役・神木隆之介の起用だ。今でこそ『桐島、部活やめるってよ』(12年)のヘタレ高校生から『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(14年)の冷酷な天才剣士まで幅広く演じる青年に成長したが、当時の神木君の常軌を逸した可愛らしさといったら、ちょっと犯罪的なレベルである。『妖怪大戦争』(05年)あたりまでの子役時代の彼を知っていると、現在の立派に成長した(してしまった?)姿に一抹の寂しさを覚えるほどだ。
映画版で一雄というキャラクターに大量追加された要素、それは神木隆之介という俳優の佇まいから発散される隠しようもないほどの「あいくるしさ」「いじらしさ」である。こんな息子の姿を見せられたら、牛之助ならずとも一念発起してまうやろ!と思わせるほどの説得力が、熊殺しのカーマンとの最終決戦の試合運びをも大きく左右する。ラストで炸裂する