コメディ

伝説の車“デロリアン”……その歴史の裏に隠された真実を暴く衝撃作『ジョン・デロリアン』レビュー!

2018年
監督:ニック・ハム
出演:リー・ペイス、ジェイソン・サダイキス、ジュディ・グリア、イザベル・アレイザ、マイケル・カドリッツ、コリー・ストール
公式サイト:http://delorean-movie.jp/

夢のクルマは空を飛べるのか?

1977年、カリフォルニア。麻薬密輸のかどでFBIに逮捕されたジム・ホフマンは、大物麻薬ディーラーを釣り上げるための情報提供者になることと引き換えに刑務所行きを免れた。妻エレンからの「人生の再出発をしよう」という提案で新居に引っ越したジムは、そこで自動車業界に革命を起こした天才エンジニア、ジョン・デロリアンと出会い、親しく付き合うようになるが、ご近所づきあいを続けるうち、社交的で人好きのするデロリアンに裏の顔があることも徐々に明らかになっていく。やがて、麻薬ディーラーとFBI双方から睨まれ始めたジムは、苦し紛れに或る計画を思いつく。その計画とは、新型車〈DMC-12〉の売り込み失敗で資金難に直面していたデロリアンをコカイン取引に誘い込み、彼と麻薬ディーラーをまとめてFBIに逮捕させるというトンデモないものだった……。

〈DMC-12〉、通称“デロリアン”。説明不要の大ヒットSF『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ(85年、89年、90年)で、観客をハラハラドキドキの時間旅行へ連れていってくれた夢の自動車である。無塗装ステンレスのボディにクール且つ手作り感溢れる装飾を施されたこのスーパーカーは、『ブレードランナー』(82年)のポリス・スピナーと並び称されるSF映画史上の名車だ。ノー・デコレーションでもドえらい存在感を放つため、コレに乗ってドライブに出かけようものなら「あっ!ドクのクルマだ!!」と人目を奪うこと間違いなしだが、そんな超有名モデルに自らの名前を冠したジョン・ザッカリー・デロリアンについては、その経歴はおろか存在さえも知らない人が多い。本作はジョン・デロリアンと彼を取り巻くクセ者たちにスポットを当て、“夢の車”に纏わる歴史の光と影を暴き出そうとした伝記映画だ。

自動車製造に心血を注いだ野心家の栄光と挫折を描いた映画といえば、フランシス・フォード・コッポラ監督、ジェフ・ブリッジス主演の『タッカー』(88年)が思い出される。パイロットという立場を利用して麻薬の密売に手を染めたジム・ホフマンの境遇は、『バリー・シール/アメリカをはめた男』(17年)でトム・クルーズが演じた実在の麻薬密売人のそれにかなり近い。しかし、リー“スランドゥイル王”ペイス扮するジョン・デロリアンにはブリッジス版プレストン・タッカーのような温かみが希薄だし、引き攣った笑みを浮かべながらヒステリックにまくし立てるジム役ジェイソン・サダイキスは、キラースマイルの使い手トムとは比較にならないほどに小者感アリアリ。FBI捜査官役のコリー・ストールや、いかにもヤクザなマイケル・カドリッツなど、程度の差こそあれ登場人物のほとんどが腹に一物、背に荷物のゲス揃い。芯から高潔なヒーローなど何処にもいない騙し騙されの物語を追いかけていれば、最終的に誰が勝ち逃げしようが全くスッキリできないだろうということは早々に察しがつく(程よく抑制のきいたコメディ演出のおかげで、だいぶエグみが緩和されてはいるが)。いっそ彼らをまとめて爆死させるくらいの歴史改変オチでもつければ、伝記映画としては大バツでも映画的カタルシスはよっぽど増したのではないだろうか。

しかし、私利私欲に忠実な山師や、その場しのぎの言い逃れを連発する小悪党は、品行方正な出木杉君にはない生々しさを有しており、それは劇中で彼らが見せる数々の不合理な行動にも一定の説得力を与えている。高度経済成長期のアメリカ自動車業界でめきめきと頭角を現し、ゼネラルモーターズで出世街道を驀進した挙げ句、その途上で全てを放り捨てて新会社を設立したジョン・デロリアン……この突飛なアクションのきっかけひとつとっても、当時のゼネラルモーターズの苦境あれこれや「理想の車を製造したい」という夢だけでは説明しきれない部分が出てくる。デロリアンを保身のための生贄に仕立てながら、のちに意外な行動に出るジムの動機も同様。すなわち「それが人間ってものだろう」という作劇法上の鬼札だ(とかく因果関係や必然性が重視される映画脚本においては忌避されがちなワイルドカードだが、コレが実録ドラマではものすごい強みを発揮することがある)。功名を求め、損得勘定に励み、それでも時には敢えて道理に合わない選択をしてしまう、人間の不思議。加えて、人格面に問題を抱えたキャラクターがここぞという場面で見せるナケナシの侠気が、「ドシャ降りの雨の中で捨て猫を拾う不良」にも似た効果でもって鮮烈なインパクトをもたらす。ソーラ・バーチ主演の『穴』(01年)では腸捻転気味の脚本を纏め上げるだけで精一杯という感じだったニック・ハム監督が、今回はずいぶんと堂に入った仕事ぶりで、欠点だらけの登場人物たちを活き活きと演出しているのも嬉しい。

さて、騒動の中心に鎮座する〈DMC-12〉についてであるが、ポスターではリー・ペイスに負けず劣らずのドヤ感を誇示しているこの車、実は本編にはほとんど登場しない。プレゼン用のミニチュアモデルやキーホルダー、ニュース映像という形でもって繰り返しチラ見せされる〈DMC-12〉はまるで門外不出の秘宝か深窓の令嬢のような扱いであり、劇中における“夢の車”としての神秘性を保ち続ける。そうやってさんざっぱら焦らしに焦らした末、遂に大写しにされる実車の惚れ惚れするような神々しさ!!……と、直後に来る膝カックンの落差。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズにオマージュを捧げながら、そのリアルな“立ち位置”を端的に表してみせた描写は、うら悲しくもあり、それでいてどこか心温まるものがある。

【映画『ジョン・デロリアン』は、新宿武蔵野館ほかにてロードショー】


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