サスペンス

衝撃と笑撃のつるべ打ちホラー映画「ドリームキャッチャー」レビュー

(2003年 監:ローレンス・カスダン 出:モーガン・フリーマン、トーマス・ジェーン)

恐怖は厠で花開く

あらすじ

古くからの親友同士であるヘンリー、ジョーンジー、ビーヴァー、ピートの4人には不思議な共通点があった。幼い頃、ダディッツという少年をイジメから救って以来、それぞれが超自然的な能力に目覚めていたのだ。成人し、皆が別々の道を進んでいたある日、ジョーンジーの前にダディッツの幻が現れ、謎めいた警告を発する。「ミスター・グレイに気をつけろ」と……。6か月後、休暇で山小屋に集っていた4人組は、突如として数々の怪異に見舞われる。あらゆるものを侵食していく赤いカビ、奇怪な生物、町を包囲・隔離する軍隊……彼らは事態の全貌を掴めぬまま、自分たちの能力を武器に目の前の怪異と対決することになるのだが……。

レビュー

「モダン・ホラーの帝王」スティーヴン・キングの同名小説を原作にした侵略SFホラー。日本公開時には、大ヒットが確実視されていた『マトリックス リローデッド』(03年)の前日譚にあたる短編CGアニメ『ファイナル・フライト・オブ・ザ・オシリス』との抱き合わせ上映で不幸なオマケ扱いを受け、いまだに「下品」「バカ過ぎ」「意味不明」との辛口評価も多い映画だが、邦訳版で全4巻となる長編小説のキモを2時間ちょっとのランニング・タイム内に強引に収めた力技脚色の手腕と、良くも悪くも観客の意表を突きまくる大胆不敵なストーリー展開は、イカモノ好きにとっては此の上ない御馳走である。とりわけ、自作を「文学界のビッグマック」と評するキング独特の俗っぽい世界観がちゃんと移植・映像化されている点は見事。『スタンド・バイ・ミー』(86年)や『ショーシャンクの空に』(94年)などの非ホラー原作も手掛けた人気作家の真骨頂は、むしろこういう身も蓋もないオハナシの中でこそ赤裸々に示されているものだ。

たとえば、本作のハイライトにして、おそらく観た者みんなが仰天し、未見の人に語らずにはいられなくなるであろう名シークエンス「厠の惨劇」。ロッジのバスルームを主戦場に繰り広げられるこのドタバタ寸劇には、ヤワなサスペンス映画なら2時間使ってやっとこさ描き切れるかどうか、というほどの緊張と緩和がギュウ詰めだ。ワケあって便所のドアを蹴破ったジョーンジーとビーヴァー、その眼前にはこれまたワケあって便器に跨るオッサン。「ブリブリ、チャップン」という身近かつ戦慄の放出音に続いて出現した「そいつ」をどうにか便鉢内に閉じ込めたビーヴァーの想定外すぎるアクションと、その結果。あまりのことに言葉を失ったジョーンジーの背後には、厚かましくもいきなりの第三種接近遭遇を試みてきた×××の禍々しい姿が……どこまでも露骨、すばらしく下劣、そしてどうしようもないほどキング的!この衝撃と笑撃のつるべ打ちを味わう、ただそれだけのためにでも、『ドリームキャッチャー』のDVDないしBlu-rayディスクを購入する価値はある。

夜空の星を長いこと監視し続けていた結果、脳内スイッチが「殺ってよし」で固着してしまった狂軍人モーガン・フリーマンや、2つの人格を演じ分けるジョーンジー役ダミアン・ルイスの顔芸、テレパシストのヘンリーが拳銃を携帯電話代わりにして通話する珍シーン、ナニとアレを合体させたような卑猥すぎるデザインのミスター・グレイ、仲良し4人組の合言葉“SSDD”など、原作者キングと監督のローレンス・カスダンにお捻りを渡したくなるほど素晴らしい構成要素は枚挙に遑が無いが、物語の最重要人物ともいえるダディッツが、「ぼく……ダディッツ!」の決め台詞&決めポーズをとった先に待ち構えている光景は、オーディエンスの度量の大きさを試すような超展開。ここで「フザケんなよコラ!!」とTVリモコンをブン投げるか、はたまた謎の充実感を覚え、両の拳を天に向かって突き上げるか?いずれにしても、『スタンド・バイ・ミー』を鑑賞するのとは全く違った映像体験になることだけは保証できる。

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