年齢やジャンル的嗜好の違いを包括してしまう間口の広い映画「ベイマックス」

アニメ

年齢やジャンル的嗜好の違いを包括してしまう間口の広い映画「ベイマックス」レビュー

(2014年 監:ドン・ホール&クリス・ウィリアムズ 声:ライアン・ポッター)

ソフトなボディのハードな心

未来都市・サンフランソウキョウに住むヒロ・ハマダは、ロボット工学の分野で驚異的な才能を秘めた少年。工科大学生の兄・タダシに勧められ、大学入学を決意したヒロは、用途に応じて様々な物体にトランスフォームする「マイクロボット」を研究発表会で披露し、見事に推薦入学を勝ち取る。しかし発表会場で起きた原因不明の火災事故により、タダシが死亡。悲しみに打ち拉がれるヒロだったが、ある日ふとした拍子に、部屋の片隅に放置されていたロボットが起動する。それはタダシが生前、研究開発に取り組んでいた、心と体をケアするロボット「ベイマックス」だった―――。

向かうところ敵なしのマーベルコミックスが、遂にディズニーアニメの世界へ進出。人気も連載期間もパッとしなかったという原作を、大幅なプロット改変を経て超大作へとリボーンさせたのだから恐れ入る。そして完成度の高さは、もはや言わずもがな、だ。

何より驚くのは、主役の一人であるベイマックスの「顔」である。楕円の中に横並びの黒点を二つ描き、それを直線で結べばハイ出来上がり。『ウォーリー』(08年)に登場したEVEのさらに上をいくシンプルさだ。いくらデフォルメといってもサスガにこれは……が、こんな絵描き歌にもならないような顔のコなのに、浮き輪や風船を擦った時のようなプリプリキュッキュ音を鳴らしながら小股で歩いているのを見せられると「か……可愛い。タマラン!」と思わされてしまうのである。キャラクターデザインチームの冴え渡る感性にはもう脱帽するしかない。

そして変形ロボ好き男子狂喜間違いなしの、ヒロによって改造されたベイマックスの二大ギミック(そう、日本版予告等では大分そのエッセンスが薄められているものの、本作は正真正銘のスーパーヒーロー&ロボット譚である)、ロケットパンチと飛行モード。「ケアロボットに飛行機能って必要?」「いいんだよ、カッコイイんだから!」のやりとりからも分かるように、こうした仕掛けは物語上で大した意味を持っていなくとも、燃え要素(萌えに非ず)として十分存在意義があるもの。しかしこの作品はそんなギミックにも、ストーリーの中で果たすべき使命をちゃんと与える。ラスト付近では、これらが文字通りの「推進力」となって映画を牽引するのである。

ニヤリとさせられるようなオマージュ・小ネタも枚挙にいとまが無い。ヒロが工学スキルを駆使してベイマックスを改造していく様子はどうしたって『アイアンマン』シリーズを連想するし、仮面を被った大ボスは『ファンタスティック・フォー』のドクター・ドゥーム風だ。サンフランソウキョウの地形を活かしたカーチェイスは『ブリット』(68年)を彷彿とさせる。ナード達が危機的状況で底力を発揮するのは『ギャラクシー・クエスト』(99年)だし(“I knew it!”の台詞までも)、ヒロとタダシの微笑ましい交流は『スタンド・バイ・ミー』(86年)におけるゴーディとデニスの美しくも哀しい回想シーンそっくり……と、キリが無いほど。しかもそれらが作り手の自己満足で終わることなく、互いにガップリ組み合って作品世界を強化している。ジョン・ラセター参入後のディズニーと、「マーベル・シネマティック・ユニバース」で様々な作品のクロスオーバー企画を成功させてきたマーベルの、もはや御家芸と言ってもいいだろう。

「男の子のための『アナと雪の女王』」とは、まさに言い得て妙だ。尚且つ、観客の年齢やジャンル的嗜好の違いを包括してしまうような間口の広さも有する。エンディングで流れるAIの「Story」を聴く頃にはきっと、えも言われぬ多福感に包まれているはずである。

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