孤高のド忘れ戦士ジェイソン・ボーンの復活を見る映画「ジェイソン・ボーン」

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孤高のド忘れ戦士ジェイソン・ボーンの復活を見る映画「ジェイソン・ボーン」レビュー

(2016年 監:ポール・グリーングラス 出:マット・デイモン、アリシア・ヴィキャンデル)

ド忘れ戦士、復活!

超人的筋肉ヒーロー映画のブームが去り、『マトリックス』(99年)あたりからハリウッドに大量流入してきた香港スタイル・アクションが早くも飽きられつつあった21世紀初頭、CIA仕込みの戦闘術を身につけた細マッチョの地味顔青年ジェイソン・ボーン=マット・デイモンが、襲い来る刺客たちをクイックな動きでバッタバッタと倒していく新感覚スパイ映画『ボーン・アイデンティティー』(02年)の登場は、思い返せばなかなかにエポック・メイキングな出来事だった。映画ファンの心を掴んだシリーズはその後、『ボーン・スプレマシー』(04年)&『ボーン・アルティメイタム』(07年)という2本の傑作続編と外伝的作品『ボーン・レガシー』(12年)を生み出しただけでなく、アクション映画に起用される俳優の多様化や、手持ちカメラを駆使したいわゆる「ドキュメンタリー・タッチ」な撮影スタイルの流行など、多くのムーヴメントを活性化させる起爆剤的役割も果たした(そして、「カットを細かく割れば下手なアクションもスタイリッシュに見えるべ、ワハハ」という安直・恥知らずな追従者たちもまた、ゾロゾロと出現した)。そんな人気シリーズの主人公ジェイソン・ボーンも、『アルティメイタム』ラストで観客たちの前から姿を消して早9年。その名もズバリな最新作『ジェイソン・ボーン』は、ギリシャで潜伏生活を送っていたボーンが、元同僚ニッキー・パーソンズからCIAの極秘作戦に関する重要機密を知らされるところからのスタートとなる。

『ボーン』シリーズのテンプレートとなっているのは、記憶を失った元工作員がコトの真相を追いながらパズルの欠片を拾い集めていく「自分探しの旅」。余地に新設定をどんどん書き込んでいけるため、イマジネーション豊かな作り手が創造力を発揮するための理想的な器といえる。本作で明らかになるのは、ボーンを無敵の暗殺者に育て上げた人格改造計画「トレッドストーン」の発案者が、あろうことか彼の父親だった!という衝撃の事実。爆弾テロ事件に巻き込まれた父の死には、どんな秘密が隠されているのか?真相究明のため、またもトラップだらけの虎穴へと飛び込んでいくボーン。虫食いの記憶を抱えたまま闇に潜んでいた男が表舞台に姿を現す動機としては、なるほど説得力十分である。

もちろん、ボーンが動き出したとなれば、これまでにも彼の「反逆行為」に散々振り回されてきた総本山が黙ってはいない。CIA長官直々の指揮のもと、世界中に配備した監視システムと工作員をフル活用して邪魔者を抹殺しようとする。討手の中でも特に厄介なのは、ヴァンサン・カッセルが演じる姓名不明の殺し屋だ。シリーズ過去作に登場したヒットマンたちとは違い、ボーンとの間に浅からぬ因縁があるコイツは、使命感よりも私怨で動く復讐鬼。ボーンの首級を挙げるためなら、一般市民だろうが味方の諜報員だろうが躊躇なくブチ殺す。あまりに景気よく暴れまわった結果、シリーズお約束のカー・チェイスが常軌を逸した大運動会になってしまうところはご愛嬌。もしも次作があったとして、車を使ったチェイス・シーンのスケールアップを狙うつもりなら、今度はもう戦車でも持ってくるしかあるまいよ。

番外編の『レガシー』はさておき、前3作が持っていた「シリーズとしての纏まりの良さ」と照らし合わせてみた場合、本作には少々残念な点もある。ボールペンや丸めた雑誌など、手近にある物を用いて戦うボーンの近接戦闘シーンは毎度のお楽しみなのだが、今回の小道具はちょっと御都合主義の色が濃いめ(いくら特殊な場所、特殊な催しの最中に入手した物であるにしても、だ)。シリーズ全作に貢献した脚本家トニー・ギルロイの抜けた穴を、グリーングラス監督とクリストファー・ラウズ(編集・製作総指揮も兼任)の共同執筆で埋めようという戦略は正しかったのかどうか?そして、1作目公開当時は新鮮だった作風が、経年と反復慣用のせいで目新しさを失いつつある、という不可避の現象。何だか、とびきり優秀な兄ちゃん姉ちゃんを持ったために及第点を取るだけでは済まされなくなってしまった末っ子の悪戦苦闘を傍観しているような……。

それでもやはり、相変わらず暴力的なまでに細かいカッティングとジョン・パウエルのハイテンションな劇伴が合わさった緊迫の場面がスクリーンに映し出される度、無意識のうちに前傾気味の姿勢をとって画面に見入ってしまう自分がいる。なにより、シワや白髪の増加と共に男っぷりもグッと上がったマット・デイモンがイイ。さすがは火星でのボッチ生活を、おイモの有機栽培と70年代ディスコ・ミュージックのリピート再生で乗り切った忍耐のアニキだ。インタビューでは「この年齢になると、ボーン役に相応しい身体をつくるのがシンドくてね……」なんて、盟友ベン・アフレックが『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生 アルティメット・エディション』(16年)のメイキング映像で言っていたのとまるっきり同じことをボヤいていたらしいデイモンだが、自分をいいように利用しようとした権力者に痛烈なカウンター・ブローを食らわせるボーンの背中には、十数年前と変わらぬ反骨の精神がしっかりと宿っていた。孤高のド忘れ戦士ジェイソン・ボーン、彼の更なる活躍を見たいと願うファンの声は、今後もまだまだ止みそうにない。

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