2019年
監督:ティム・ミラー
出演:リンダ・ハミルトン、アーノルド・シュワルツェネッガー、マッケンジー・デイヴィス、ナタリア・レイエス、ガブリエル・ルナ
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/terminator/
マシーンの“痛悔”と“贖罪”
『ターミネーター:ニュー・フェイト』が、本国でかなりの苦戦を強いられているらしい。週末全米ボックスオフィスで首位デビューを果たしたものの、期待されていたオープニング興収には遠く及ばず、ここから神がかり的な集客アップでも起こらない限り、北米での“沈没”は確実とのこと。アカデミー賞4部門受賞、年間最高の興収を稼ぎ出した『ターミネーター2』(91年)の正統続編とされる作品が斯様な窮境に追い込まれているとは、実に残念な事態である(もっとも、過去にも世界マーケットで強いところを見せてきたシリーズなので、これから風向きが変わる可能性は大いにあるが)。湯水の如くお金を注ぎ込んだフレッシュなSF大作が次々に作られ、良質なアメコミ原作映画の供給ラインも確立された時代にあって、「人類と機械の全面戦争」という直球過ぎる題材は賞味期限切れのオワコンに過ぎないのだろうか……今更ながらそんな弱音が漏れそうにもなるが、興行的不振だけを理由に本作の劇場鑑賞をスルーしてしまうのは、あまりに勿体ない。“創造主”ジェームズ・キャメロンを再びチームに迎え入れ、『ターミネーター3』(03年)以降のシリーズ作品を全て無かったことにしてまで完成させた『ニュー・フェイト』は、『2』でサラ・コナーがテーブルに彫りつけた“NO FATE(運命など無い)”の文字と同じく、異様な凄味と威圧感を湛えた快作に仕上がっている。
映画の幕開けを飾るのは、シリーズのファンにはお馴染みの“記録映像”。このパートやポスター上の人物配置、キャスト名の並び順等で示されている通り、本作の事実上の座長はアーノルド・シュワルツェネッガー=T-800ではなく、リンダ・ハミルトン=サラ・コナーのほうだ。『ターミネーター』(84年)での初登場時には、お小遣いもマトモにやりくり出来ないウェイトレスだったサラ。そこへ突然、人類にとっての救世主=ジョン・コナーを産み育てるという重大極まりない責務を担わされ、やむなく戦士としての道を突き進んでいくことになる。愛する者を失い、狂人扱いされて精神病院に放り込まれ、心身に癒しがたい傷を負いながらも、『2』ではやっとのことで〈審判の日〉の到来を阻止した……はずだった。ところが今回、回避できたと思っていた暗黒の未来世界の残滓によって、彼女は再び絶望のドン底へと突き落とされる。観客をも一瞬の思考停止状態に陥らせるほどの衝撃的な出来事の後、サラはいよいよ復讐心滾らせる狂戦士へと変貌。22年もの間、人知れず“狩り”を続ける殺伐とした日々を送ってきたことが明らかにされるのだ。深い皺が刻まれ、クラウス・キンスキーそっくりになったリンダ・ハミルトンの顔貌は、『T2 拡張特別編』での無理くりな老けメイクよりよっぽど精悍で、激動の人生を歩んできたサラ・コナーというキャラクターにこれ以上ないほどのリアリティを付与している。
そんなバーサーカー度MAXのサラと出会うのが、最新型ターミネーターREV-9に命を狙われているメキシコ人女性のダニーと、彼女を守るべく未来から送り込まれてきたスーパーソルジャー、グレース。近い将来、人類の存亡にかかわる重要な役割を果たすことになるらしいダニーにかつての自分の姿を見たサラは、彼女の処遇をめぐってグレースと対立しながらも共同戦線を張ることになる。この新キャラクターの存在感、とりわけ驚異的な身体能力を発揮する強化人間・グレースに扮したマッケンジー・デイヴィスの凛とした佇まいが素晴らしい。鍛え抜かれた長躯から繰り出されるメリハリの効いた動き、スレッジハンマーや鉤つきチェーンを振り回しながらの豪快アクションで観る者を魅了する。ガブリエル・ルナが演じるREV-9も、シリーズの名に恥じぬ凶悪チェイサーぶりを披露。ネットワークカメラやソーシャルメディアにアクセスして即座に標的を捕捉、相手に息つく暇も与えず追撃を仕掛けてくるネチッこさは、『1』のT-800、『2』のT-1000に勝るとも劣らない。
そして当然のことながら、我らがシュワ最大の当たり役であるターミネーター“モデル101 シリーズ800”は今回も登場。ガワが人間同様に経年劣化するという設定は、悪名高いリブート作『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(15年)でも示されていたが、本作はそこから更に一歩進み、任務を完遂した潜入型殺人機の“その後”を、痛悔や贖罪といった(およそターミネーターに似つかわしくない)概念と共に描いてみせる。ターゲット抹殺を目的とした自爆攻撃等を除けば、自殺という選択肢を持たないターミネーター。パワーセルの寿命が尽きるまでの長い年月、目標を失ったマシーンはどう“生きる”のか……『1』から『ジェニシス』まで全て引っ括めても、シュワがこんなふうにターミネーターを演じたことは無かったし、ドル箱筋肉スター時代の彼なら絶対に採用しなかったキャラクター造形であることも確かだ。しかし、キャリア絶頂期をとうに過ぎ、老化を隠そうともしなくなった今のシュワを通して見れば、このT-800の変貌ぶりもさほど違和感を抱かずに呑み込むことができる。『2』におけるジョンとの交流の中で人間の感情を学習し、最後には涙の意味さえ理解したターミネーターが、四半世紀を経て遂に“ヒト”となった……勿論、溶鉱炉に沈んでいったT-800と本作のT-800が別個体であることは百も承知だが、ついつい2体を同一視してそんな妄想に浸ってみたくもなる。ネルシャツ姿の老いたターミネーターには、70歳をこえた現在のシュワにしか出せない味と奥行きがあるのだ。
既述したように、興行面では出足から大きく躓いてしまった本作。公開前、「コレがヒットしたら」という前置き付きでアナウンスされていた新3部作構想も、実現の見込みは限りなく薄い。だが、「(続編といえども)1作ずつ完結するべき」というキャメロンの信条のおかげか、単体作品としての強度はなかなかのものだし、ティム・ミラー監督の演出も小気味よい。そして劇中での言動や宣伝活動中のコメントによれば、この『ニュー・フェイト』こそがシュワにとって最後のシリーズ出演作となるかもしれないのだ。「アイルビーバック」の決め台詞と共に、幾度となく帰還を果たしてきたT-800の終極バトル……もはや、観ない理由を探す方が難しいというものである。