(2009年 監:ウェス・アンダーソン 声:ジョージ・クルーニー、メリル・ストリープ)
野・性・上・等!
盗みの名人だったMr.フォックスは、ある出来事をきっかけにドロボウ稼業から足を洗い、今では新聞記者として、妻子と共に平穏な毎日を送っていた。しかし念願のマイホームを購入したところ、そこは人間たちが経営する大農場の真ん前。ついつい「現役時代」の血が騒いだMr.フォックス、夜な夜な農場に忍び込んで盗みを働くスリルに再びどハマリしてしまう。その行為はやがて、ドロボウギツネ打倒に燃える農場主たちと野生動物の大抗争へと発展してしまうのだが……。
ロアルド・ダールの同名原作を、異才ウェス・アンダーソンがストップモーション・アニメで長編映画化。『ライフ・アクアティック』(04年)でも垣間見ることができたアンダーソン監督のコマ撮りアニメに対する愛が炸裂した異色作である。近年のストップモーション映画が探求し続けてきたある種の「リアル感」からあえて路線変更、いかにもパペット然としたキャラクター達が、いかにもコマ撮り然としたカクカク動きでドタバタを繰り広げる。亀の子だわしのような質感のMr.フォックスがジョージ・クルーニーの激シブ声で喋るさまは、そのチグハグ具合が観る者の笑いを誘う。
同じダール原作の映像化作品『チャーリーとチョコレート工場』(05年)がそうであったように、本作でも「父子の確執と和解」という映画オリジナルの部分に焦点が当てられている。なにかと甥っ子の才能ばかりを誉めそやすMr.フォックスと、それによってアイデンティティー・クライシスに陥る息子のアッシュ。このキャラの声優にジェイソン・シュワルツマンを選んだところがニクい。母は女優のタリア・シャイア、伯父はフランシス・フォード・コッポラ監督、いとこはニコラス・ケイジにソフィア・コッポラ……という芸能一族の中で育ったシュワルツマンを起用するあたり、監督のクセモノぶり・計算高さが窺えるようで面白い。
「野性の肯定」もこの映画の重要な要素だ。盗みや暴力性など、人間が主人公であれば色々とくだくだしいエクスキューズが必要になりそうなテーマだが、元々が野生動物であるキツネ君(しかもコマ撮り)を通せば大した抵抗感も無く受け入れられる。何より敵役である農場主三人組がナイス悪漢としてキャラ立ちしているので、普通ならば「それって道義的にどうなのよ?」と感じてしまいそうな結末も、喉越しはあくまで小気味よく、爽やかだ。
日本における劇場公開時には、公開直前に発生した東日本大震災によって大した注目も集めることなく終わってしまった感があるが、良質のファミリー・ムービーとして、もっと評価されて然るべき作品だと思う。